二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!

南野雪花

閑話 固ゆで葬儀 1


 順調に攻略が進んでいたダンジョン『ミノーシル迷宮』だが、二十五階層から様子がおかしくなった。

 いわゆる一般的なモンスターの出現がなくなり、なんだか鳥人間みたいな見たこともないようなモンスターばかり出るようになったのである。
 しかもけっこう強くて、かなり狡賢い。

「まともに戦えば俺らのほうが強いと思うんだけどな。とにかく引き際が良すぎるんだ」

 やれやれと肩をすくめるジョシュア。
『金糸蝶』の幹部だった男で、いまは『葬儀屋』の幹部である。

「けっして損害を出さないように戦ってるな。無理に押し込めば、こちらもそれなりの損害を被ってしまう」

 ニコルが首を振った。
 彼もまた『金糸蝶』の幹部だった。

 ジョシュアとは親友同士で、たとえるなら、一番良かったときのルークとライオネルの関係に近いだろうか。

 というより、あの二人を反面教師にして、ジョシュアとニコルは付き合い方に意を用いている。

 直して欲しい点はちゃんと言う。非があると思えばきちんと謝罪する。
 そしてなにより、この友情を得がたいものとして大切に思う。

 たったこれだけのことができなかったから、兄貴と呼んで敬愛していた二人は仲違いしてしまった。
 ジョシュアにとっても、ニコルにとっても、人生であれほどの痛恨事はない。

「そんな覚悟で戦場に出てくるなよっていう感じでもないんだよな」
「ああ。堅実で隙がなく、そして無理をしない。モンスターとは思えない練度だよ」

 名将に鍛え上げられた精鋭たちと戦っている気分になってくる。

 それでも、数日前くらいまでは彼らの方が押していた。
 地力で勝る、という表現が最も近いだろう。

 たしかに鳥人間どもは狡猾であり、優秀であり、強敵ではあったが、たとえば単独でジョシュアやニコルに勝てる者はほとんどいなかったし、ナザルや『固ゆで野郎』のライノスなどと比較したら、二段か三段は落ちる。

 流れが変わったのは、まさにその数日前だ。

 やたらとケバケバしい羽色の新種の鳥人間が登場してからは、完全に守勢に回ってしまう。

 赤いひよこみたいな鳥人間の強さときたら、ジョシュアもニコルも、単独で戦ったら手も足も出ないというレベルだった。
 二人で戦って、なんとか互角以上かなって感じで、正直手がつけられない。

 それに加えて極楽鳥みたいな外見のやつが、なんかいろいろ指示を飛ばしているらしく、本気で付け入る隙がないのだ。

 そんなこんなで、攻略寸前かと思われた四十階層をあっという間に奪い返されてしまう。
 ただ一ヶ所、階段のあるホールを除いて。

 より正確には、そこに誘い出して囲んで叩くつもりだったのだ。

「惜しかったな。もうちょっとで赤ひよこを吸い出せそうだったのに」
「敵も然るもの、引っ掻くものさ」

 ジョシュアの嘆きにニコルが肩をすくめる。
 途中まで上手くいった作戦なんか、最初からつまづいた作戦よりひどい状況になる、と。

 敵を誘い出こんで一網打尽にするつもりだったのに、モンスターたちは扉の外側に陣取ってしまった。
 これでは、こちらが出たところを各個撃破されるだけ。

 この一事だけでも、容易ならざる敵であることは明白だった。

 そこでライノス、ナザル、ジョシュア、ニコルは協議の末に一計を案じ三十階層まで引き揚げることにしたのである。
 場当たり的な対応で勝てる相手ではない。きちんと作戦を立てて挑もう、と。

 つまり、三十九階層から三十一階層を丸々すべて時間稼ぎの囮として使うのだ。
 一フロアの探索を半日で終えたとしても、たっぷり四日半は稼げる。




「きたぞ! ひよこ軍団だ!」

 後方を警戒していた『葬儀屋』の斥候たちが鋭く警告する。

 三十二階層で追いつかれた。
 追ってきたのは、ひよこ軍団とニックネームをつけられた鳥人間どもである。

 その数、目視できるのは六匹。
 他に隠形している栗色ひよこがいるから、全部で七匹らしい。

「はやすぎだろう!」
「探索を一切しないで追いかけてきたっぽいな。どんだけ好戦的なんだか」

 ナザルの嘆きにライノスが応え、矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 計算され尽くした動きで重戦士たちが後方の守りを固めた。
『固ゆで野郎』ご自慢の肉の壁。
 ダガン戦役でも、ルターニャの戦いでも、ただ一人の犠牲者すら出していない、絶対の防壁である。

「でもたぶん足りない。魔法を使ってくるだろうから」

 そう言って、アンナコニーがアンチマジックシェルの魔法を重戦士たちにかけた。

 ジョシュアやニコルと同じ、元『金糸蝶』の魔法使いである。
 大賢者などと呼ばれてもてはやされているミリアリアに比較すれば一般人の知名度では劣るが、冒険者たちからの評価はずっとずっと上だ。

『金糸蝶』の草創期からルークやライオネルを支えてきた才媛で、そもそも実戦経験が違う。

 重戦士たちが防御を固めたとみたひよこ軍団は、すぐに魔法攻撃に切り替えるだろう。
 それが完璧に防がれたとき、必ず隙が生まれる。

 アンナコニーはそう読んだ。
 そして完璧なタイミングで攻撃魔法を放ったのだが、なぜか防がれてしまった。

 戦士っぽくみえる赤ひよこが何かしたようにもみえたが、確たるところはわからない。

「残念! ごめんねみんな!」
「問題ない。体勢そのものは崩れてる」
「こっからは俺らの出番だ」

 左右からアンナコニーの肩を叩き、ジョシュアとニコルが前戦へと躍り出した。
 
 
 

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