二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!

南野雪花

第199話 泣く子とアスカには勝てない


 宿泊場所である官舎に戻ると、めざとく俺を見つけたアスカが駆け寄ってきた。

「お母ちゃぁぁぁぁぁぁん! オラシオンがぁぁぁぁぁ!!」

 涙で顔をべしゃべしゃにして。

 ていうか、本当にまだめそめそしているらしい。
 会戦から三日も経ってるのに。

 わしっと抱きついてくる。

「オラがぁぁぁぁ!」

 あ、そういう愛称なんだね。初めて知った。

「よしよし。大事にしてたもんな」

 頭を撫でてやる。

「母ちゃぁぁぁぁぁん!」
「ていっ」

「ぐはっ! なんで突き放すの!」
「いま鼻かもうとしただろ! 俺の服で! 涙までなら許すけど、鼻水は許さん!」
「けち!」

「その寸劇、いつまで続くんですか?」

 呆れたようにミリアリアが首を振った。
 その横ではメイシャがニコニコしている。

 サリエリとユウギリは不在で、夕食の買い出しに出かけているらしい。

「愛着があったのは判るけどな」

 もう一度赤毛を撫でてやる。

 アスカがオラシオンを手にしたのはリントライト王国の将軍であるゴザックと対峙したときだ。
 アスカブレイドが叩き折られ、俺が使っていたオラシオンを投げ渡したのである。

 以来、ずっとアスカとともに戦場を駆け抜けてきた。

 多くの勇敵を斬り、たくさんの悪魔を倒し、神やドラゴンとも戦った。
 まさに相棒というやつで、愛着だってひとしおだろう。

 しかし、いつまでも泣いていてはいけない。
 剣というのは道具に過ぎず、いくら愛していてもそれに引きずられてはいけないのだ。

「明日でも新しい剣を買いに行こう。一緒に」
「うん……」

 未練たらたらで頷く。
 相棒はオラシオンだけ、とか思ってるんだろうな。

 実際、良い剣だったし。
 あれ以上のものが手に入るかといえば、正直なところ簡単ではないだろう。

 最悪、俺の月光を譲る手だけど、あれは俺専用として作られてるから、いくらアスカが卓抜した剣士でも十全の性能を引き出すことはできないんだよな。
 それでもそのへんに売ってる三級品を使うよりはましだろうけど。

「そんなわけで、明日は休息日にする。みんな自由に過ごしてくれ」

 まだぐずってるアスカの頭を撫でながら告げる。
 娘たちは苦笑交じりに頷いた。
 元気印のアスカがしょんぼりしていると、みんな調子が狂ってしまうのである。




 達人は道具を選ばない、という言葉がある。

 一面では正しい。
 たとえばアスカくらいの剣士になると、ペティナイフですらものすごい威力を発揮するだろう。

 素人が完全武装で戦ったって、間違いなくアスカが完勝する。

 だから武器なんてなんでも良い、ということになるかという話だ。
 残念ながらそうではない。

 本気で戦ったら武器の方がもたないし、アスカが必死で戦わないといけないような相手というのは、そりゃあ武器だってすごいのを使っているのである。
 それこそアレクサンドラだって、雷帝の斧とかいうおっかない名前のバトルアックスを使ってたしね。

 俺の目には二人の実力差はないように見えた。
 多少の身びいきを入れれば、アスカが勝っていた。
 なのにオラシオンが砕けてしまったのは、腕の差ではなく武器の差だろう。

「うーむ。さすがに魔法の品物マジックアイテムは売ってないか」
「そりゃそうだよ!」

 アスカと連れだってやってきたのは、スペンシルの城下町でも一番の品揃えを誇っているという触れ込みの武器屋である。
 たしかに悪くない品質のモノが揃っており、種類も豊富だけど、アスカほどの剣客が使うような剣はない。

「リーサンサンで『フェンリル』を手に入れたときみたいな奇跡を期待したんだけどな」

 ぽりぽりと頭を掻く。

 ミリアリアが使っている魔法の杖のことだ。
 マスルの王都リーサンサンにある魔法屋で見つけた一品なのである。

 伝説級といっても良いくらいの代物で、手に入れるために俺たちは魔王イングラルからもらった報酬のほとんどを注ぎ込んだ。

「あんなの初めて見たってサリーも言ってたじゃん!」
「そうなんだけどな。アスカが持つ剣は、やっぱり『フェンリル』レベルでないと、そもそも俺が納得いかん」

 腕を組む俺に、なぜかアスカが身をよじらせる。

「そんなぁ。母ちゃん」
「大陸に冠たる剣士が、そんじょそこらのなまくら剣を使うわけにいかんしな」

「ほめてほめて! もっとほめて!」
「いや、これ以上褒めると、おまえたぶん調子に乗るからな」

 しがみついてきたアスカを、ぐーっと押し返した。
 こういうところは本当に子供みたいで、成人(数え十八)した大人とは思えないよね。

「軍神ライオネル様と闘神アスカ様とお見受けいたします」

 きゃいきゃいと騒いでいると、店主とおぼしき恰幅の良い男が近づいてきた。
 揉み手などしていかにも商売人という風情だが、その手にはあきらかな剣だこがあり、この主人もそれなりの剣士であることをうかがわせる。

「あるいは、剣をお探しですか?」
「ええまあ。先の戦いでこいつの剣が砕けてしまいましてね」
「闘神アスカの愛剣といえば聖剣オラシオン。それが砕かれたのですか?」

 ぎょっと目を剥く。

 ただ、オラシオンってそこまですごい剣ってわけじゃないはずなんだ。
 ドロス伯爵からもらったんだけどさ。それこそ国宝級の価値があったりするものだったら、人にあげたりしないよ。

 いくらリントライトとの決戦を控えていて、物惜しみをしてる場合じゃなかったといってもね。

 ずっとアスカが使っていて、それで有名になっただけ。
 ガイリアの宝物庫に眠ったままだったら、たぶん誰も知らなかったんじゃないかな。
 

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