二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!

南野雪花

第187話 希望のジークフリート


「まあ、すでに四番機まで完成しているからな。ジークフリートの重要性は低下しているってのもある」

 魔王イングラルが笑いながら説明する。
 失伝魔法の産物である亜空間収納魔法がかかった金属環だ。その価値は計り知れない。

「歴史が変わるような大発見だからな」
「それはフロートトレインだって同じでしょうが」
「当初はな」

 しっかり研究し、再現できるようになった今では、そこまでの価値はないんだって。
 可哀想なジークフリート号だ。

「信賞必罰は国の基だからな、お母さんの功績に対して何も報いないというわけにはいかないのさ」
「それはそうでしょうけど……」

「筋書きはこうだ。ダガンにさらわれたお母さんを救出するため、『希望』の娘たちは俺に助けを求めた。それに応じて、俺はジークフリートを貸し与えた」
「まあ、事情を四捨五入すればだいたいその通りですよね」

 さらったのはダガンではないとか、ジークフリート号はダガンを目指したわけではないとか、語られなかった事情はあるにせよ。
 魔王イングラルが、ライオネル救出のためにフロートトレインを貸した、という事実からは外れていない。

「そして『希望』は見事に目的を果たしたわけだ。さすがジークフリートの俊足。やはり『希望』とジークフリート号はセットでないといかんよな」
「なるほど」

 気がつけば、ジークフリート号がすごいってことになってる。

 シュクケイが助けてくれたりとか、ガイリアの冒険者たちの奮戦とか、そういうのは語られず、『希望』の活躍も語られず、ジークフリートの性能が良かったから上手くいったんだという話になった。
 お見事だね。

「そして、機械の勇者であるジークフリートはやはり英雄たちとともにあるべきだってことで、下賜されることになったのさ」

 細かいディテールを気にする人間はいないだろう。

「俺たちとしては、もちろん否やはないんですが、本当に良いんですか?」
「それはむしろこっちのセリフだな。亜空間収納魔法の現物の価値は、フロートトレインなんてレベルじゃないぞ」

 だからこそ、個人で持つには危険が大きすぎる。
 きちんと国が管理して、研究するべきものだ。

「いずれ汎用型が開発されたら、『希望』にもひとつ進呈するぞ。冒険者にとって、大変にありがたいアイテムだろ?」
「それはありがたいですが、俺たちよりも軍人でしょうね。喜ぶのは」

 俺は肩をすくめてみせる。
 輸送部隊の負担が激減する。それはつまり、長期の作戦行動が可能になるということだ。
 遠征できる範囲だって広がるのである。

 これを、なんだそんな程度かって思うような人間は、そもそも軍師じゃないよね。

 フロートトレインといい、亜空間収納といい、魔導通信といい、軍事の常識を根底からひっくり返すようなシロモノだ。
 そういったものがあったのに、古代魔法王国は悪魔どもに滅ぼされてしまったのである。

 どれほど怖ろしい敵かっていう話さ。
 やつらと戦うには、やはり相当な覚悟がいる。

「軍と言えば、また新しい戦法を考えたそうじゃないか。お母さん」
「相変わらず耳が早いですね」
「ルターニャが従属することになったのでな。盟主タティアナが手土産がわりに教えてくれたんだよ」

 魔王イングラルが笑う。
 ダガンが事実上消滅したから、拠るべき大樹としてマスルを選んだということか。
 これは仕方のないことである。都市国家が生き残っていくためには、やはり大国の影に入る必要があるのだ。

 ピラン城は五百年もどこにも属さずやってきたけど、あれって存在を知られていないからできた芸当だしね。
 だからザックラントは、マスルに存在を知られると同時に従属することにしたわけだ。のほほんとしているように見えて、あの人の政治感覚はしっかりと骨太いんだよな。

「防御戦法ですから、攻勢には使えませんよ」

 十字射撃のことだ。
 クロスするような射線で二ヶ所から弓を射る。交差する場所では矢弾の密度が倍になるうえに、一方向からの攻撃じゃないから防ぎづらい。
 この戦法で、俺はダガン軍を撃退している。

「防御で良いんだよ。俺たちは基本的に自分からは攻めないから」
「魔王なのに世界征服をたくらんでませんもんね」
「イマドキ、そういうのは流行らないのさ」

 冗談を飛ばすイングラルと軽く抱擁を交わし、俺は懐かしの我が家へと帰還することになった。

 あ、シュクケイやコウとはここでお別れね。
 彼らだっていつまでも本国を留守にできないし。
 でも、マスルとセルリカの間にリアクターシップの定期航路が結ばれるって話だったから、けっこう簡単に会えるようにはなるだろう。

 セルリカは東大陸でも有数の大国だしね。
 しかもシュクケイやコウギョクの主導のもと、急速に国内も安定しつつある。
 国政を壟断していた貪官汚吏どもが一層され、皇帝リセイミも主君として一皮も二皮もむけたって、シュクケイが褒めていた。

 きっとマスルとも良い関係が築けるだろう。
 ただまあ、そのあたりは政治の領分で、いち冒険者に過ぎない俺が口を挟むようなことではまったくないんだけどね。

「じゃあ、本当にジークフリート号に乗って帰っちゃいますよ? いまさら返せとか言わないでくださいね?」
「言わないって。ただまあ、フロートトレインがあるんだから、頻繁に遊びにこれるよな」
「またすぐきますよ。いまクランハウスでコメ酒ってやつを作ってるんです。完成したら一緒に飲みましょう」

 それは楽しみだと笑う魔王。
 遊びの約束は、簡単に取り付けられるのである。

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