二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!

南野雪花

第161話 やったか!


 月光を右手に駆け出す。
 一直線にヤマタノオロチへと向かって。

「……不思議だ。こいつの扱い方がすべて判る。まるで最初から知っているみたいに」

 俺のためだけに打たれたカタナ、月光。

 クンネチュプアイ月光の矢から名をもらい、彼女の血によって霊刀になった。
 誰に説明されなくとも、握りしめた柄から伝わってくる。

「母ちゃん! 急いで!」
「ネルネルっ!」

 すでに攻撃圏内に入っているアスカとサリエリの声が響く。
 ヤマタノオロチに残された三つの首には、もうすでに炎が溢れかけていた。
 一刻の猶予もならない。

 だが、俺の位置はまだ遠い。
 カタナの間合いではないのだ。
 しかし、できるという確信がある。

「大丈夫だ二人とも、俺も同時に仕掛ける!」
「判った!」
「しんじるぅ」

 ジャンプ一番、アスカとサリエリの身体が宙を駆ける。大地の力など無視したような大跳躍だ。
 聖剣オラシオンと炎剣エフリートが眩いばかりの光を放つ。

 二人ともこの一撃にすべてを賭けているのだろう。これでダメなら退くしかない、と。

「そいつには俺も賛成だ」

 足を止め、月光を肩に担ぐように構えた。

「ゆくぞ! 秘剣『皓月千里こうげつせんり』!!」

 渾身の力で振り下ろせば、月光の刀身から三日月型の剣光が高速で飛び出す。

 月光が持つ特殊能力のひとつだ。
 このカタナ、なんと遠距離攻撃が可能なのである。
 闇を貫く月の光のように、どこまで届く光の刃だ。

 それが着弾する瞬間、アスカとサリエリの斬撃も決まる。

 もちろん偶然の結果ではなく、二人ともちゃんとタイミングを計ってくれたのだ。
 空中でそんな芸当ができてしまうのが、『希望』のエースたちなのである。

 三つの長首が同時に落ちる。
 どう、と、地響きを立てて。

 すべての頭を失った胴体が、狂ったように尻尾を振り回した。
 巻き込まれたサムライたちが、投げ捨てられた人形みたいに宙を舞う。

 頭を全部落としたのに、まだ死なないのか。
 俺は頭上で円を描くように月光を振った。

 サムライたちが乗騎に拍車をくれ、一斉に距離を取る。もちろん歩兵たちも。

 そしてふたたび月光を振り下ろせば、街壁の上から猛然と矢が降り注いだ。

 ここまで大暴れされてしまうと接近戦はできない。
 近づいただけで吹き飛ばされてしまうから。

「射撃継続! 腕が千切れても休むでないぞ!」

 頭から血を流しながらアサマが命じた。かっこいい装飾のついた兜はどこかへ吹き飛び、大鎧にもあちこちひびが入っているが、黒い瞳は戦闘衝動に爛々と輝いている。

 彼だけではなく、サムライたちはみんなそうだ。
 仲間が死のうが食われようが意に介することなくヤマタノオロチと戦い続けていたのである。
 なかには薄ら笑いを浮かべているものまでいた。

「戦闘民族みたいスね」

 とは、偵察や連絡のために走り回っていたメグの感想であるが。

 何度目になるか判らない一斉射撃が降り注ぎ、ついに、ついにヤマタノオロチが動きを止めた。

「よし。やったか」

 戦況を見つめる俺が呟いた瞬間である。
 ヤマタノオロチの巨大な背が割れ、なにかがあらわれた。




 それは、全体の造形としては人間そっくりだった。
 しかし身の丈が十尺(約三メートル)に届こうという人間はそう滅多にいないだろうし、全身を覆っている筋肉はまるでオーガーみたいである。
 なにより、まとう気配が人間ではない。

「神族……」

 かつて戦ったアスラ神がもっていた雰囲気と似ているのだ。

「我がこの姿になるまで追いつめられるとは何万年ぶりのことであろうか。人間もずいぶんと強くなったものだ」

 にやりと偉丈夫が唇を歪める。
 褒めているような言葉だけど、込められている意味はこれから皆殺しにしてやるぞってとこかな。

「貴様! 何者か!!」

 大声でアサマが問いかける。
 彼も混乱しているのだろう。ヤマタノオロチをやっつけたと思ったら、中から神族っぽいものが出てきたんだから。
 けど、簡単に名前をきいちゃいけない。

「控えぬか、人間。我はスサノオ。三貴神が一柱ぞ」

 男が応えれば、がくりとアサマが膝をついてしまった。
 彼だけでなく、サムライたちも歩兵たちも。

 悪魔でも神族でも、すごく強い連中の名前には言霊が宿るのだ。気の弱いものだったら、それだけで死んでしまうこともある。

「ほほう? 我の名を耳にして、跪かぬものがいるか」

 愉悦の表情を浮かべるスサノオ。
 視線はまっすぐに俺たち『希望』へ。

「まあ、慣れてるんで」

 月光を構えたまま、にやりと笑って見せた。

 はったりである。
 実際のところは、プレッシャーでいまにも膝が崩れそうだ。悪魔ナイアーラトテップと戦った経験がなければ、とても立っていられなかっただろう。

 すっと俺の右前方にアスカが位置取る。サリエリは左前方だ。
 俺と合わせて、やや歪んだ三角形になるようなポジショニングで、スサノオがどう動いても対応できる。

 そして後ろにはミリアリアとメイシャ。メグは隠形せず、二人を守るように立っている。状況によっては前戦に参加するつもりだろう。

「ほう」
「で、俺たちがここに立ってるってことは、戦った神も悪魔も負けたってことさ。アンタも敗者の列に加えてやるよ」
「よくほざいた。人間ごときが」

 スサノオの右手に長大な剣が現れる。
 ランズフェローの神のくせにカタナではなく両刃の直刀で、グレートソード並のでかさだけど、この神には片手でちょうど良いくらいのサイズだ。

「みんな。第二ラウンドだ」
『OK!』

 娘たちが唱和する。

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