二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!
第156話 ランズフェローの日々
専用のカタナが完成するまでの間、俺はルーベルシーの街にある剣術道場に通って修行することになった。
もちろん料金を払うつもりはあったんだけど、なんと無料で良いと言われてしまったのである。かわりに、アスカの剣技を教えて欲しいと。
これには俺もびっくり。ついにアスカが剣術のお師匠さんですよ。
ちなみに、アスカと俺は同じ技を使っている。
というよりアスカにとっての師匠というのが俺にあたるわけだ。ガイリアには剣術道場って一つしかないからね。
幼少の頃にそこで基礎を学び、独り立ちしてからは自分で自分を鍛えていくってのが普通。俺もアスカも同じパターンだね。
もちろんルークも。
で、独り立ちしたばかりのアスカは俺と出会い、俺から戦い方を学んでいったわけだ。
そして剣の腕では、俺をぐーんと抜いていったんですよ。
いま試合をしたら、たぶん百本やって一本も取れないだろうなぁ。
哀しい。
ともあれ、アスカは師範役を快諾した。
道場の師範も師範代も、彼女の興味を引くくらい強かったからね。ロングソードとカタナって違いはあるにせよ。
「ギョクもそうだったけど! 世の中にはまだまだ強い人いっぱいいるね!」
「俺としては、アスカにはぜひサボっていてもらいたいんだけどな」
「弱くなったわたしに追いついても仕方ないよ! 母ちゃんが強くならないと!」
「正論が痛すぎる。アスカに言われるととくに痛い」
肩を並べて道場への道を歩みながら、きゃいきゃいとバカ話で盛り上がる。
なぜかすごく懐かしい思いが胸をよぎるのは、大昔、ルークとこうやってふざけながら歩いた記憶が蘇るからだろう。
あいつとは、道を違えてしまったけどな。
「かーあちゃん!」
「お? なんだ?」
ふと遠い目をした俺に、アスカが腕を絡めてきた。
「わたしたちはずっと一緒にいてあげるからね!」
なんだかよく判らないことを言いながら。
「やはり良い筋をしておいでですな。達人は得物を選ばないとはまさにこのこと」
道場師範が褒めてくれる。
修行を始めてから十日。だいぶカタナの扱い方もわかってきた。
「俺は本質的な勘違いをしていたのだと実感しますよ。アキヤマどの」
ブロードソードやロングソードは力で斬る。しかしカタナというのは速度で斬るのだ。
鞘から抜き、斬撃を繰り出し、鞘に収める。これらが一連の挙動となっているのがカタナ。
剣の場合は、それぞれ独立した動きなのである。
「拙者もロングソードの扱いに戸惑っておりまするよ。ライどの。どれほど極めても、アスカどのに追いつける気がいたしませぬ」
「や、それは俺もですけどね」
肩をすくめ合い、門下生たちが次々とアスカに挑んでいるのを眺める。
若い子たちにからみれば、やはり闘神とまで呼ばれる彼女の剣技というのは憧れの対象なのだろう。
手さばきの一つ、足運びの一つでも盗もうと躍起になっている。
微笑ましいね。
俺は二十代、アキヤマだって三十代なのに、なんだか老父みたいに見守ってしまうよ。
「師範。城から使いが」
そのとき、どたどたと道場に門下生が駆け込んできた。
なんだか緊張した面持ちである。
よほど火急の用件なのだろう。
それならば邪魔するのは良くない。
俺はアスカに声をかけ、帰り支度を始めた。
客人である俺たちの前ではできない話だってあるだろうからね。
「帰ったらひとっ風呂浴びて、メシの準備をしよう」
「わたし、そろそろ肉が食べたい! ランズフェローの料理は美味しいけど、野菜が中心なのが不満!」
「だな。市場に寄って肉が売ってないか見てみるか」
アスカの言葉に頷くのは、俺も肉が食いたいからだ。
野菜を漬けたランズフェロー名物料理はたしかに美味いし、こちらの主食であるコメとも良く合う。
だが、あまりに健康的すぎるモノばかり食べていると、たまには不摂生をしたくなるというのが人間のサガなのである。
「売ってなかったら、わたしたちで狩りに行こう!」
「大イノシシの姿が見えたよな。街に入る前に」
「よーし! 一狩りいこうぜ! 母ちゃん!」
「俺たちは猟師じゃないんだけどな」
くだらない話で盛り上がりながら着替えを済ます。
といっても、顔や胴体を保護するちょっとした防具を外すだけなのだが。
俺たちが冒険者ギルドの修練所で使ってる防具より重いのは、実戦で使う鎧を想定しているからだろう。
「ライどの! アスカどの! よかった。まだおられたか!」
そこに、席を外していたアキヤマが戻ってきた。
先刻の門下生なみの緊張に顔を引きつらせて。
「どうしました? アキヤマどの」
彼ほどのマスターサムライがそんな表情をするなど、よほどの変事か凶事が起きたのだろう。
道場で世話になっていることでもあるし、俺には関係のない話と切り捨てるわけにはいかない。
「悪魔殺しの勇者を見込んで、お願いしたきことがございまする」
深々と頭を下げるアキヤマ。
思わず俺とアスカは顔を見合わせた。
えらく大げさだが、ようするに冒険者クランとしての『希望』の力を借りたいということなのだろう。
「戦かな! モンスターかな! 探索かな!」
アスカの目がらんらんと輝く。
もしかして、訓練に明け暮れる日々ってやつに退屈してたのか?
騒動師だなぁ。
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