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二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!

南野雪花

第131話 再出発


 夜明けを待って、ジークフリート号の車体をみんなで確認する。

「ああー、けっこう喰らってるな。攻撃」
「ですね。後ろから好きなように撃たれてしまいましたから」

 ふうとミリアリアがため息をついた。
 車両の後部など、窓は割れているしあちこち焦げているし、かなり酷いありさまである。
 俺はぽんとミリアリアの頭に手を置く。

「べつにお前さんのせいじゃないさ。そう悔しそうな顔をしなさんな」

 そして茶色い髪をかきまわした。
 この小さな大魔法使いウィザードさまは、暗闇の中を飛翔する二匹の悪魔をたった一人で牽制し続けていたのである。

 彼女の働きがあったからフロートトレインは直撃を免れた。
 この程度の損害で済んだのはむしろ僥倖というべきだろう。

「ありがとうな。ミリアリアのおかげで命拾いしたよ」
「そうですか? だったら感謝のキッスとかしてくれても良いんですよ? 母さん」

 むっふーと胸を反らす。
 悔しそうな表情からは一転、鼻高々って感じだ。

「なんかあれだな。調子の乗り方がアスカに似てきたな。最近」
「なん……ですって……」

 俺の言葉にショックを受け、ずずーんと沈んでいくミリアリアだった。

「わたしと似てるってのがそんなに不満なの!?」

 そしてアスカが息巻いている。
 元気なことだ。

 危機を脱した、という安心感もあるのだろう。
 悪魔と戦って楽勝ということはない。いつだってぎりぎりの綱渡りだ。
 今回みたいに身も蓋もない勝利というのはちょっと珍しい。

 だからこそアスカやサリエリなんかは元気が余っているかもしれないが。

「うちを一緒にしないのぅ」

 いつの間にか横に立っていたサリエリが、うりうりと脇腹を小突いてきた。
 おやめなさいって。
 くすぐったいんだから。

「周囲におかしげな気配はなかったス」

 損害の確認が終わるころ、そのあたりをざっと偵察してくれていたメグが報告に戻ってくる。
 草原を貫く街道で見通しも良い場所だから、なにか近づいてくればすぐにわかるだろうと。

「じゃあみんな、すこし休もう。適当に椅子を並べ替えて」

 俺の提案に娘たちばかりでなくザックラントやシュイナも大きく頷いた。
 深夜の襲撃からずっと不眠不休だから。

 さすがに身体が休息を強く要求している。




 二刻(四時間)ほどの休息の後、ふたたびジークフリート号が走り出した。
 今度は最高速ではなく巡航速度で。

 日中の街道で猛スピードを出したら旅人をはね殺しまくりだからね。もちろんフロートトレインの走行レーンに入らないようにお触れがでてるし、あちこちに看板はたっているけど、それでも入ってくる人間ってのはいるものだからね。
 その場合、はねられた方が悪いわけだが。

「だからといって轢き殺したいわけじゃないからな。慎重に操縦しろよ。アスカ」
「あいあいさー!」

 慎重さの対極にあるような返事をして、アスカが操縦レバーを操作する。
 フロートトレインが目指すのはマスル王国第二の都、シュリーライ。ガイリアにおける新ミルト市のような位置づけだ。

 ここがガイリア貿易の拠点都市となる。
 フロートトレインを使えば新ミルトまで二日、リーサンサンまで一日という絶好のロケーションだ。

 どうして王都リーサンサンを拠点都市として扱わないのかといえば、それはもう、王都だからとしかいいようがない。

 経済の中心と政治の発信源は分けた方が良いし、そもそも王都に貿易商人たちが何の制限もなく出入りするというのも問題がある。
 リーサンサンの場合は貿易港もあるしね。

「あんまり人種の坩堝になりすぎると統制がきかなくなるし、治安だって悪くなってしまう。だから受け皿になる都市を造るんだ」
「なるほど。だからガイリアシティでも貧民街の整理をしているんですね」
「そういうことだ。もちろん深刻な労働力不足ってのもあるけどな」

 ミリアリアの問いに頷く。
 どの道、王都とか帝都とか首都とかいわれる場所には、放っておいても人も物も集まってくる。そのまえにワンクッション置くというのはそう珍しい考え方じゃない。

 まあ、そのワンクッションが王都よりずっと大きく豊かになっていって、中央政府のコントロールを受け付けなくなるってのも良くある話だったりする。
 たとえばリントライト王国におけるガイリア伯爵領とかね。

「王都に近すぎず遠すぎず。そしてそこを治めるのは王の腹心ってのが望ましいわけですね」

 なかなかシャープな政治感覚をみせ、ミリアリアが正解を導く。

「ミリミリすごいのん~」

 のへーっと手をたたくサリエリだけど、こいつはきっと最初から答えを知っているのだろう。
 特殊部隊のピースメイカーに身を置いていてた俊秀だもの。

「シュリーライはぁ、グラント魔将軍のお膝元だよぅ」

 けっこう縁のある御仁だ。
 リントライト動乱のときには援軍としてガイリアにやってきたし、ダガン帝国との戦いにおいても一翼を担っていたので、幾度も軍議で顔を合わせている。
 為人としては実直で裏表がなく、びしっと筋が通ってる感じ。

「ジークフリート号がぼろぼろなことについて、ちゃんと話をきいてくれたらいいなぁ」

「大丈夫だよぅ。ネルネルぅ。うちも口添えするしぃ」
「もちろん私もな」

 サリエリがのへーっと、ザックラントがにやにやと保証してくれた。

 不安しかない。
 適当なことをいって事態を面白くしよう、なんて考えてないだろうな。こいつら。

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