二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!
閑話 身も蓋もないって
夜の闇を切り裂いてフロートトレインが駆ける。
速度は二頭立て馬車の十倍近くは出ているだろう。月と星の明かりしかない街道を、まるで疾風のように駆け抜けてゆく。
「ネルネルぅ。追撃を振り切れないのぅ」
背後を飛ぶ二体の悪魔を確認してサリエリが言った。
いつも通りののへーっとした口調だが、内容は深刻である。
「この速度についてくるなんて、私の高速飛行魔法より速いかもですね」
ミリアリアはやや悔しそうだ。
ふむとライオネルが右手で下顎を撫でる。
それは、彼の脳細胞が高速稼働している証拠だとしっている娘たちは、黙考する軍師の邪魔にならぬよう口を閉じた。
「ミリアリアとサリエリって、高速飛行魔法を習得するとき、いつも傷だらけになっていたよな」
「コントロールがけっこう難しいんですよ。母さん」
速度が上がれば上がるほど小回りは利かなくなり、方向転換にすら苦労するのだとミリアリアが説明する。
そのため、回避できずに立ち木に激突したり、あるいは速度を落としすぎた結果、失速して墜落してしまったりと、毎日のようにぼろぼろになってなっていた。
それでも、ドラゴンゴーレムとの戦闘のときに感じた、身体の大きさが違いすぎるがゆえの不利を解消するためには、高速飛行しかなかったのである。
「なるほど」
ライオネルがにやりと笑った。
それは、蓋世の軍師というより、とびきり悪戯を思いついた悪餓鬼のような表情であった。
「全員、手近なものに身体を固定して衝撃に備えろ。アスカ、急制動だ」
「あいあいさ!」
ライオネルの指示に応じて、アスカが思い切りブレーキレバーを引く。
駆動炎を逆噴射してフロートトレインが急激に減速した。
車体がきしみ、乗っている者たちの身体が前方に押しつけられる。
カイムとブーシュヤンスターがみるみる間に追いつき、そして追い越してしまう。
「いまだ! 前進全速!!」
加圧に顔を歪めながらライオネルが命令した。
悪魔どもがフロートトレインを抜き去るタイミングで。
「りょう……! かいっ!」
渾身の力を込め、アスカが前進レバーを押し込む。
無茶苦茶な扱いに抗議するように魔力炉がうなり、ジークフリート号が再加速する。
「メイシャ! ホーリーフィールドを!」
「今からこれは神の御車ですわ。悉く頭を垂れなさいませ」
前方へ押しつけられていたのが、今度は後方に押しつけられながら、メイシャが神の奇跡を招いた。
フロートトレインそのものが巨大な聖なる矢と化して突き進む。
その先には、急停車しようとしたジークフリート号を追い越してしまった悪魔たち。
驚愕のまなざしを向けた。
が、それも一瞬のこと。高速で突っ込んできたフロートトレインに撥ね飛ばされる。
どんと車内に重い衝撃が伝わり、二体の悪魔が黒い塵になって消えていった。
「こいつは、『希望』が倒したとは言えないだろうな」
唇を歪めたライオネルが傲然と嘯く。
おそらく、カイムもブーシュヤンスターも、なにが起きたのか判らないまま滅びたことだろう。
「小回りの利かない高速移動中だったからこその作戦ですか。さすが母さんです」
感心したように言ったミリアリアが、加圧で吹き飛ばされたとんがり帽子を拾った。
話としては、そう複雑なものではない。
フロートトレインが急ブレーキをかけたことにより、高速飛行していた悪魔たちは追い抜いてしまった。
まさか、いきなり減速するとは思わなかったのだろう。追い越しざまに攻撃を加える余裕はなく、彼らもまた急制動をかける。
しかしそのときには、フロートトレインは再加速していたのだ。
急停止した悪魔たちは揃って列車に撥ね飛ばされるという運命をたどったのである。
そしてフロートトレインには、メイシャの神聖魔法がかかっている。
悪魔にとっては猛毒だ。
こんなものに高速でぶつかられたらひとたまりもない。
あえなく二体とも消滅してしまった。
カイムなど『希望』と一度も切り結ぶこともなかったわけで、まったく見せ場のないままに退場である。
「なにしに出てきたんだって感じだよね!」
笑ったアスカが、ジークフリート号の速度を弛めた。
東の空がわずかに明るさを増してゆく。
「たしかに、ご愁傷様としか言いようがないな」
ずっと床に伏せていたザックラントが、よいしょと身を起こした。
彼はライオネルの知謀を熟知しているから『希望』の勝利を疑いもしていなかったから、カイムもブーシュヤンスターも気の毒なことだ、などと考える余裕がある。
身も蓋もないやられかたをしてしまったから。
「労せず倒せるならそれにこしたことはないですよ。ザックラントさん」
「ですが、どうして母さんのことを知っていたのか、その辺りの事情は知りたかったですね」
応えたライオネルの横から、ミリアリアが口を挟んだ。
死者も重傷者も出さずに勝利したが、情報という一点に絞ればまったく得られなかった。
悪魔とどう戦うか、という戦訓すら得られなかったわけだから、無邪気に勝利を喜んでいるわけにはいかない。
「ゆうて~ 苦戦したからって情報が得られるとはぁ、限らないのん~」
勝ちやすきに勝つのが一番、とサリエリが笑う。
まったくその通りだったので、ライオネルは苦笑しただけだった。
速度は二頭立て馬車の十倍近くは出ているだろう。月と星の明かりしかない街道を、まるで疾風のように駆け抜けてゆく。
「ネルネルぅ。追撃を振り切れないのぅ」
背後を飛ぶ二体の悪魔を確認してサリエリが言った。
いつも通りののへーっとした口調だが、内容は深刻である。
「この速度についてくるなんて、私の高速飛行魔法より速いかもですね」
ミリアリアはやや悔しそうだ。
ふむとライオネルが右手で下顎を撫でる。
それは、彼の脳細胞が高速稼働している証拠だとしっている娘たちは、黙考する軍師の邪魔にならぬよう口を閉じた。
「ミリアリアとサリエリって、高速飛行魔法を習得するとき、いつも傷だらけになっていたよな」
「コントロールがけっこう難しいんですよ。母さん」
速度が上がれば上がるほど小回りは利かなくなり、方向転換にすら苦労するのだとミリアリアが説明する。
そのため、回避できずに立ち木に激突したり、あるいは速度を落としすぎた結果、失速して墜落してしまったりと、毎日のようにぼろぼろになってなっていた。
それでも、ドラゴンゴーレムとの戦闘のときに感じた、身体の大きさが違いすぎるがゆえの不利を解消するためには、高速飛行しかなかったのである。
「なるほど」
ライオネルがにやりと笑った。
それは、蓋世の軍師というより、とびきり悪戯を思いついた悪餓鬼のような表情であった。
「全員、手近なものに身体を固定して衝撃に備えろ。アスカ、急制動だ」
「あいあいさ!」
ライオネルの指示に応じて、アスカが思い切りブレーキレバーを引く。
駆動炎を逆噴射してフロートトレインが急激に減速した。
車体がきしみ、乗っている者たちの身体が前方に押しつけられる。
カイムとブーシュヤンスターがみるみる間に追いつき、そして追い越してしまう。
「いまだ! 前進全速!!」
加圧に顔を歪めながらライオネルが命令した。
悪魔どもがフロートトレインを抜き去るタイミングで。
「りょう……! かいっ!」
渾身の力を込め、アスカが前進レバーを押し込む。
無茶苦茶な扱いに抗議するように魔力炉がうなり、ジークフリート号が再加速する。
「メイシャ! ホーリーフィールドを!」
「今からこれは神の御車ですわ。悉く頭を垂れなさいませ」
前方へ押しつけられていたのが、今度は後方に押しつけられながら、メイシャが神の奇跡を招いた。
フロートトレインそのものが巨大な聖なる矢と化して突き進む。
その先には、急停車しようとしたジークフリート号を追い越してしまった悪魔たち。
驚愕のまなざしを向けた。
が、それも一瞬のこと。高速で突っ込んできたフロートトレインに撥ね飛ばされる。
どんと車内に重い衝撃が伝わり、二体の悪魔が黒い塵になって消えていった。
「こいつは、『希望』が倒したとは言えないだろうな」
唇を歪めたライオネルが傲然と嘯く。
おそらく、カイムもブーシュヤンスターも、なにが起きたのか判らないまま滅びたことだろう。
「小回りの利かない高速移動中だったからこその作戦ですか。さすが母さんです」
感心したように言ったミリアリアが、加圧で吹き飛ばされたとんがり帽子を拾った。
話としては、そう複雑なものではない。
フロートトレインが急ブレーキをかけたことにより、高速飛行していた悪魔たちは追い抜いてしまった。
まさか、いきなり減速するとは思わなかったのだろう。追い越しざまに攻撃を加える余裕はなく、彼らもまた急制動をかける。
しかしそのときには、フロートトレインは再加速していたのだ。
急停止した悪魔たちは揃って列車に撥ね飛ばされるという運命をたどったのである。
そしてフロートトレインには、メイシャの神聖魔法がかかっている。
悪魔にとっては猛毒だ。
こんなものに高速でぶつかられたらひとたまりもない。
あえなく二体とも消滅してしまった。
カイムなど『希望』と一度も切り結ぶこともなかったわけで、まったく見せ場のないままに退場である。
「なにしに出てきたんだって感じだよね!」
笑ったアスカが、ジークフリート号の速度を弛めた。
東の空がわずかに明るさを増してゆく。
「たしかに、ご愁傷様としか言いようがないな」
ずっと床に伏せていたザックラントが、よいしょと身を起こした。
彼はライオネルの知謀を熟知しているから『希望』の勝利を疑いもしていなかったから、カイムもブーシュヤンスターも気の毒なことだ、などと考える余裕がある。
身も蓋もないやられかたをしてしまったから。
「労せず倒せるならそれにこしたことはないですよ。ザックラントさん」
「ですが、どうして母さんのことを知っていたのか、その辺りの事情は知りたかったですね」
応えたライオネルの横から、ミリアリアが口を挟んだ。
死者も重傷者も出さずに勝利したが、情報という一点に絞ればまったく得られなかった。
悪魔とどう戦うか、という戦訓すら得られなかったわけだから、無邪気に勝利を喜んでいるわけにはいかない。
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