二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!
第97話 ダガンの使者
俺たちは五日ほどかけて、ダガン軍の物資集積所となっている町や村、八ヶ所を攻撃して回った。
こちらの損害はゼロ。
相手も、たぶんそんなに減っていないと思う。
火事に巻き込まれて死んだ人はいるだろうけど、おそらく累計で百人以下じゃないかな。
けど、戦力が減らなくたって物資がなくなってしまった軍は戦えない。
ダガン軍には撤退の選択肢しか残されていないのだ。
まさか、国境近くに布陣するマスル王国軍五万を抜いて、マスルの町や村を寇掠できるなんて考えるほど、ダガン帝国軍の首脳部の頭はリゾートアイランドではないだろう。
飢えた状態で戦って、蹴散らされるだけだ。
俺がダガン軍を率いる将軍を補佐している軍師だったとしても、即時撤退を進言するね。
時間をかければかけるほど状況は悪くなっていくし。
そもそも撤退するなら余力のあるうちにってのが基本だし。
「この時期に全軍撤退ともなれば、マスルは逆に警戒して追撃もできないだろうって予測も成り立つしな」
はぁぁぁぁ、と、魔王イングラルが盛大なため息をついた。
気持ちは判る。
ダガン帝国軍は撤退しなかったのである。
それどころか、布陣するマスル軍に対して使者を送ってきた。
国内で正体不明の怪物が暴れているから、それを討伐するのに力を貸せ、と。
びっくりである。
開いた口がふさがらないとは、まさにこのことだろう。
マスル王国に対して宣戦布告をおこない、いままさに攻めかかろうと国境付近に集結しているのは、どこのどなた様だって話だ。
攻めようとしている相手に助力を請うってのは、ちょっと面の皮の厚さが計測不能ですよ。
「阿呆かと断ったら、無辜の民が死ぬのを見過ごすのか。貴国には人道というものが存在しないのか、だとさ」
「これからマスルの無辜の民を殺したり略奪しようとしてたんじゃないですかね? ダガン帝国って」
すごいメンタリティに、思わず俺は感心するようにコメントしてしまった。
野戦陣地での会議である。
おそらく敵はもう撤退するしかないだろうって思っていたから、ライオネル隊は陣に引き上げてきたのだ。
まさかこんな方向に話が進んでいるとは、ちょっと想像の外側である。
「自分たちがやるのは良いんだよ。けど、自国民が死ぬのはダメってことなんだろうな」
魔王が両手を広げて見せた。
めんどくせえから滅ぼしちゃおうかな、と、言わないところが、イングラルが良心的で寛大な王である証だろう。
「で、結局はどう返答したんですか?」
「相談する相手を間違っている。貴国と我が国は戦争状態にあることを忘れるな、とな」
「よく我慢しましたね。陛下。リントライトのモリスン王だったら間違いなく使者を斬り殺してますよ」
「えらいだろ? よく頑張っただろ? だからご褒美として、ライオネルは俺の部下になれ」
よく判らない冗談を飛ばす魔王だった。
俺は曖昧に笑ってみせる。
ダガン帝国軍の指揮官も、きっとバカではないんだろうから、この交渉はフェイクだ。
最初から頷くわけがない条件を持ってきて、撤退するときに追撃させないよう釘を刺しているのだろう。
自分たちは無辜の民を救うために撤退するわけだから、まさかその後背を撃つような非人道的な振る舞いをしないだろうな、と。
えらく回りくどいやり方だけど、イングラルが撤退する軍を撃つような人物でないことを知っているのは、マスル軍だけだからね。
ダガンとしては、安全装置をかけたくなるだろう。
慎重に判断した結果、ということだ。
「と、思っていた時期が俺にもありました」
内心で俺は謎のナレーションを入れた。
翌日のことである。
ふたたび、ダガン帝国の使者がやってきたのだ。
俺はイングラルから会談の場に同席するよう求められ、天幕の片隅に立って使者の口上をきくことになった。
曰く、軍を退いてやるから費用と糧食を差し出せ、と。
もうね。
「本気で言っているのか?」
と訊ねたイングラルの気持ちがわかりすぎる。
費用を出せって要求はさ、戦勝国が敗戦国に対してするものなんだよ。賠償金の請求って形でね。
なんで決着も付いてない相手に出さないといけないんだ?
「我が軍が退くことによって、貴軍は損害なく撤収できる。そのための費用負担と考えていただきたい」
ナマズみたいなヒゲを生やした使者がとうとうと喋る。
すごいな。
論理のアクロバットだ。
そもそもお前らが宣戦布告をしたんだろうが。
お前らが進軍しなかったら、マスルだって軍を動かしてないだろうが。
やばいね。
ダガン人って、こういう考え方をする人たちなんだっていう偏見を持っちゃうよ。
「仮に、だ。こちらが百歩譲って、戦による損害を金で回避しようと考えたとしよう。しかしそれは我が国の考えであって、貴国の方針とは何らの関係もないことだと思わぬか?」
疲れたようにイングラルが言い放った。
左手の指先が音もなくテーブルをタップしているのは、おそらくいらついてるからだろう。
「では、費用の支払いに応じてもらえるのですな」
「仮にといっただろう。使者殿は大陸公用語を理解できないのか?」
「まさか戦うと? 何千という兵が死にますぞ」
この使者、あえて論点をずらしてるんだな。
戦争なんだもの死者が出るのは当たり前だ。出ないとしたら、それは競技や遊戯だ。
ダガンだって判らないわけがない。
いま戦ったら不利だから戦争を回避したいのは彼ら方。だからこそ、論点をずらして人道だのなんだのって話に持って行こうとしているわけか。
おそらく、というか疑いなく、ここで金や食料をくれてやっても、ダガンは撤退なんかしない。
むしろ喜んで攻めてくるだろう。
もし撤退したら、戦わずして勝ったとか喧伝するかな。
いずれにしても乗れる交渉じゃない。
「よろしい」
すっとイングラルが椅子から立ち上がる。
使者の顔に喜色が浮かびかかったが、魔王の次の一言で吹き飛ぶことになった。
「では戦おう。貴国が望んだことだ。望み通りに叩き潰してやるから攻め込んでくるが良い」
こちらの損害はゼロ。
相手も、たぶんそんなに減っていないと思う。
火事に巻き込まれて死んだ人はいるだろうけど、おそらく累計で百人以下じゃないかな。
けど、戦力が減らなくたって物資がなくなってしまった軍は戦えない。
ダガン軍には撤退の選択肢しか残されていないのだ。
まさか、国境近くに布陣するマスル王国軍五万を抜いて、マスルの町や村を寇掠できるなんて考えるほど、ダガン帝国軍の首脳部の頭はリゾートアイランドではないだろう。
飢えた状態で戦って、蹴散らされるだけだ。
俺がダガン軍を率いる将軍を補佐している軍師だったとしても、即時撤退を進言するね。
時間をかければかけるほど状況は悪くなっていくし。
そもそも撤退するなら余力のあるうちにってのが基本だし。
「この時期に全軍撤退ともなれば、マスルは逆に警戒して追撃もできないだろうって予測も成り立つしな」
はぁぁぁぁ、と、魔王イングラルが盛大なため息をついた。
気持ちは判る。
ダガン帝国軍は撤退しなかったのである。
それどころか、布陣するマスル軍に対して使者を送ってきた。
国内で正体不明の怪物が暴れているから、それを討伐するのに力を貸せ、と。
びっくりである。
開いた口がふさがらないとは、まさにこのことだろう。
マスル王国に対して宣戦布告をおこない、いままさに攻めかかろうと国境付近に集結しているのは、どこのどなた様だって話だ。
攻めようとしている相手に助力を請うってのは、ちょっと面の皮の厚さが計測不能ですよ。
「阿呆かと断ったら、無辜の民が死ぬのを見過ごすのか。貴国には人道というものが存在しないのか、だとさ」
「これからマスルの無辜の民を殺したり略奪しようとしてたんじゃないですかね? ダガン帝国って」
すごいメンタリティに、思わず俺は感心するようにコメントしてしまった。
野戦陣地での会議である。
おそらく敵はもう撤退するしかないだろうって思っていたから、ライオネル隊は陣に引き上げてきたのだ。
まさかこんな方向に話が進んでいるとは、ちょっと想像の外側である。
「自分たちがやるのは良いんだよ。けど、自国民が死ぬのはダメってことなんだろうな」
魔王が両手を広げて見せた。
めんどくせえから滅ぼしちゃおうかな、と、言わないところが、イングラルが良心的で寛大な王である証だろう。
「で、結局はどう返答したんですか?」
「相談する相手を間違っている。貴国と我が国は戦争状態にあることを忘れるな、とな」
「よく我慢しましたね。陛下。リントライトのモリスン王だったら間違いなく使者を斬り殺してますよ」
「えらいだろ? よく頑張っただろ? だからご褒美として、ライオネルは俺の部下になれ」
よく判らない冗談を飛ばす魔王だった。
俺は曖昧に笑ってみせる。
ダガン帝国軍の指揮官も、きっとバカではないんだろうから、この交渉はフェイクだ。
最初から頷くわけがない条件を持ってきて、撤退するときに追撃させないよう釘を刺しているのだろう。
自分たちは無辜の民を救うために撤退するわけだから、まさかその後背を撃つような非人道的な振る舞いをしないだろうな、と。
えらく回りくどいやり方だけど、イングラルが撤退する軍を撃つような人物でないことを知っているのは、マスル軍だけだからね。
ダガンとしては、安全装置をかけたくなるだろう。
慎重に判断した結果、ということだ。
「と、思っていた時期が俺にもありました」
内心で俺は謎のナレーションを入れた。
翌日のことである。
ふたたび、ダガン帝国の使者がやってきたのだ。
俺はイングラルから会談の場に同席するよう求められ、天幕の片隅に立って使者の口上をきくことになった。
曰く、軍を退いてやるから費用と糧食を差し出せ、と。
もうね。
「本気で言っているのか?」
と訊ねたイングラルの気持ちがわかりすぎる。
費用を出せって要求はさ、戦勝国が敗戦国に対してするものなんだよ。賠償金の請求って形でね。
なんで決着も付いてない相手に出さないといけないんだ?
「我が軍が退くことによって、貴軍は損害なく撤収できる。そのための費用負担と考えていただきたい」
ナマズみたいなヒゲを生やした使者がとうとうと喋る。
すごいな。
論理のアクロバットだ。
そもそもお前らが宣戦布告をしたんだろうが。
お前らが進軍しなかったら、マスルだって軍を動かしてないだろうが。
やばいね。
ダガン人って、こういう考え方をする人たちなんだっていう偏見を持っちゃうよ。
「仮に、だ。こちらが百歩譲って、戦による損害を金で回避しようと考えたとしよう。しかしそれは我が国の考えであって、貴国の方針とは何らの関係もないことだと思わぬか?」
疲れたようにイングラルが言い放った。
左手の指先が音もなくテーブルをタップしているのは、おそらくいらついてるからだろう。
「では、費用の支払いに応じてもらえるのですな」
「仮にといっただろう。使者殿は大陸公用語を理解できないのか?」
「まさか戦うと? 何千という兵が死にますぞ」
この使者、あえて論点をずらしてるんだな。
戦争なんだもの死者が出るのは当たり前だ。出ないとしたら、それは競技や遊戯だ。
ダガンだって判らないわけがない。
いま戦ったら不利だから戦争を回避したいのは彼ら方。だからこそ、論点をずらして人道だのなんだのって話に持って行こうとしているわけか。
おそらく、というか疑いなく、ここで金や食料をくれてやっても、ダガンは撤退なんかしない。
むしろ喜んで攻めてくるだろう。
もし撤退したら、戦わずして勝ったとか喧伝するかな。
いずれにしても乗れる交渉じゃない。
「よろしい」
すっとイングラルが椅子から立ち上がる。
使者の顔に喜色が浮かびかかったが、魔王の次の一言で吹き飛ぶことになった。
「では戦おう。貴国が望んだことだ。望み通りに叩き潰してやるから攻め込んでくるが良い」
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