二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!
閑話 魔王の思惑
「人間どもと貿易を始めるですと!? 陛下! お気でも触れられましたか!」
唾を飛ばしながら最長老が怒鳴る。
しわくちゃの老婆だ。
五百年前の人魔戦争の頃から魔王国の中枢にいたような人物である。
星降りの巫女と呼ばれ、その当時……つまり二百歳前後のころはものすごい美人だったらしい。
「べつに気など触れておらん。政略的な判断だ」
最長老の言葉などどこ吹く風で、魔王イングラルは面倒そうに手を振る。
若々しいその顔には、何百年も前に引退した老婆と会ってやっているだけありがたく思え、と、大書きしてあった。
「先々代、先代の屈辱をお忘れになられたのか!」
「おばばよ。予は寛大な王のつもりでいるし、今後もそうありたいと思っている」
すっと目を細める魔王。
執務室の気温が一気に下がったように、老婆には感じられた。
「しかし、王の決定に異を唱えるというのならば、予としては遇する方法を知らぬな」
「ひ……」
「反逆の意志ありと解釈して良いのだな? おばばよ」
「めっそうも……ございません……」
声を詰まらせながら一礼し、老婆が執務室を辞する。
やっと気づいたのだろう。
魔王が自分を罰しないのは、年長者として立ててくれているからに過ぎず、なんらの法的根拠があるわけでもないのだと。
反逆者として断じられれば、王城の宝物を盗んだギューネイのように、公開処刑されるのだということを。
「これで少しは変わるかな。あの人も」
「怖がらせすぎです。魔眼で睨まれて気を失わないのは、さすがにオババさまですが」
イングラルの横に立った秘書官ミレーヌが、つんと魔王の側頭部をつついた。
他に誰もいないからできることである。
「それで、国境からミルトまでの街道整備ですが、本当にやってしまってよろしいのですか?」
「やらなかったら出遅れるぞ」
「それはそうですけど……」
リントライト王国の内戦に介入するため、グラント魔将軍麾下の一万が進発したばかりである。
今後の貿易についての内諾は、ドロス伯爵から取り付けているが、今の時点で他国の領土を勝手に開発してしまうのは、さすがにまずくないだろうか。
「まずいかまずくないかでいえば、まずいさ。決まってるだろ」
「またなにか企んでるわね……この男は……」
「どうせどこからも文句は出ないからさ」
リントライト王国の領土を勝手に開発するわけだから、文句は当然のようにリントライト王国から出る。
下手をすれば戦争だ。
「ところがあら不思議。もう戦争やってたわ。しかもどうせリントライト王国はなくなるしね。文句なんて出てこないよ」
「なんですかその論理のアクロバットは……」
笑ってる魔王をつつく指のスピードが速くなっていく。
いていていて、とか言ってるけどミレーヌは気にしなかった。
この程度で反省なんかするわけないから。
「それに、リントライトが滅ぶとき大量の難民が発生すると思うんだ。彼らを受け入れるのはガイリアしかないだろ。働く場所を用意してやらないと」
「それがミルトですか?」
「ライオネルならそう考えると思うよ」
にっと魔王が笑う。
あの男なら、と。
在野にいるのが不思議なくらいシャープな政治感覚を持っているから。
「で、やつと同じくらい鋭いのがザックラントだよ。おそらくもう手をつけてると思うぞ。ピランからミルトまでの街道整備に」
「……私はあなたに会って、なんと先の見えるお方だと感心したものです。そのように感じさせさせる人物に、今年になって二人も出会うとは。世の中は広く、人材は多いのだと痛感させられますね」
ため息をついたミレーヌが、肩をすくめてみせた。
つっつき攻撃から解放されたイングラルが薄く笑う。
「褒められたと思って良いのかな」
と。
スクリーンに映るライオネルの顔は、ずいぶんと緊張しているようだった。
無理もない。
生まれて初めての魔導通信だろうから。
どうしていいのか判らないといったところだろうな。
そう判断して、イングラルは自分から水を向けてやることにした。
「久しぶりだな。ライオネル」
「動っ!? 喋っ!?」
帰ってきた反応が期待以上に大きかった、思わず笑ってしまう魔王である。
「魔導通信についてレクチャーは受けなかったのか?」
「受けましたけど……ホントにこの箱の中に陛下が入ってるわけじゃないですよね? こんな手の込んだ悪戯をしても喜ぶ人はいませんよ?」
映像を叩いたり、通信機の後ろに回ったりするのを、イングラルは微笑ましく見守る。
この技術が開発されたのは三年ほど前で、当時はじめて使った人は、だいたい今のライオネルみたいな行動をしたものだ。
「満足したかね?」
「なんだか妖怪にでも化かされているような気分です。陛下はリーサンサンにいらっしゃるんですよね」
歩いて十日以上の距離を離れている相手と、こうして顔を見ながら話をできるなんて。
ちゃんと説明を聞いていても理解の外側だ。
「マスルの技術には目を見張るばかりです。これもまた戦の常識を変えてしまいますよ」
「個人で持ち運べるようなものではないからな。今回は実験的にミルトに置いてみたが、はたして運用に耐えるかどうか」
魔王が首を振る。
単一方向へ、一方的にメッセージを送る魔導技術は開発されていて、それを応用したものなのだと付け加えながら。
それだって人間から見たら夢の技術である。
ふうとライオネルは息を吐き、気を取り直して魔王に相対した。
「それで、俺に用というのはなんでしょうか」
「ああ、じつは仕事を頼みたくてな」
にっと笑う魔王イングラル。
悪い予感しかしないな、と思ったライオネルの内心を知っているかのように。
唾を飛ばしながら最長老が怒鳴る。
しわくちゃの老婆だ。
五百年前の人魔戦争の頃から魔王国の中枢にいたような人物である。
星降りの巫女と呼ばれ、その当時……つまり二百歳前後のころはものすごい美人だったらしい。
「べつに気など触れておらん。政略的な判断だ」
最長老の言葉などどこ吹く風で、魔王イングラルは面倒そうに手を振る。
若々しいその顔には、何百年も前に引退した老婆と会ってやっているだけありがたく思え、と、大書きしてあった。
「先々代、先代の屈辱をお忘れになられたのか!」
「おばばよ。予は寛大な王のつもりでいるし、今後もそうありたいと思っている」
すっと目を細める魔王。
執務室の気温が一気に下がったように、老婆には感じられた。
「しかし、王の決定に異を唱えるというのならば、予としては遇する方法を知らぬな」
「ひ……」
「反逆の意志ありと解釈して良いのだな? おばばよ」
「めっそうも……ございません……」
声を詰まらせながら一礼し、老婆が執務室を辞する。
やっと気づいたのだろう。
魔王が自分を罰しないのは、年長者として立ててくれているからに過ぎず、なんらの法的根拠があるわけでもないのだと。
反逆者として断じられれば、王城の宝物を盗んだギューネイのように、公開処刑されるのだということを。
「これで少しは変わるかな。あの人も」
「怖がらせすぎです。魔眼で睨まれて気を失わないのは、さすがにオババさまですが」
イングラルの横に立った秘書官ミレーヌが、つんと魔王の側頭部をつついた。
他に誰もいないからできることである。
「それで、国境からミルトまでの街道整備ですが、本当にやってしまってよろしいのですか?」
「やらなかったら出遅れるぞ」
「それはそうですけど……」
リントライト王国の内戦に介入するため、グラント魔将軍麾下の一万が進発したばかりである。
今後の貿易についての内諾は、ドロス伯爵から取り付けているが、今の時点で他国の領土を勝手に開発してしまうのは、さすがにまずくないだろうか。
「まずいかまずくないかでいえば、まずいさ。決まってるだろ」
「またなにか企んでるわね……この男は……」
「どうせどこからも文句は出ないからさ」
リントライト王国の領土を勝手に開発するわけだから、文句は当然のようにリントライト王国から出る。
下手をすれば戦争だ。
「ところがあら不思議。もう戦争やってたわ。しかもどうせリントライト王国はなくなるしね。文句なんて出てこないよ」
「なんですかその論理のアクロバットは……」
笑ってる魔王をつつく指のスピードが速くなっていく。
いていていて、とか言ってるけどミレーヌは気にしなかった。
この程度で反省なんかするわけないから。
「それに、リントライトが滅ぶとき大量の難民が発生すると思うんだ。彼らを受け入れるのはガイリアしかないだろ。働く場所を用意してやらないと」
「それがミルトですか?」
「ライオネルならそう考えると思うよ」
にっと魔王が笑う。
あの男なら、と。
在野にいるのが不思議なくらいシャープな政治感覚を持っているから。
「で、やつと同じくらい鋭いのがザックラントだよ。おそらくもう手をつけてると思うぞ。ピランからミルトまでの街道整備に」
「……私はあなたに会って、なんと先の見えるお方だと感心したものです。そのように感じさせさせる人物に、今年になって二人も出会うとは。世の中は広く、人材は多いのだと痛感させられますね」
ため息をついたミレーヌが、肩をすくめてみせた。
つっつき攻撃から解放されたイングラルが薄く笑う。
「褒められたと思って良いのかな」
と。
スクリーンに映るライオネルの顔は、ずいぶんと緊張しているようだった。
無理もない。
生まれて初めての魔導通信だろうから。
どうしていいのか判らないといったところだろうな。
そう判断して、イングラルは自分から水を向けてやることにした。
「久しぶりだな。ライオネル」
「動っ!? 喋っ!?」
帰ってきた反応が期待以上に大きかった、思わず笑ってしまう魔王である。
「魔導通信についてレクチャーは受けなかったのか?」
「受けましたけど……ホントにこの箱の中に陛下が入ってるわけじゃないですよね? こんな手の込んだ悪戯をしても喜ぶ人はいませんよ?」
映像を叩いたり、通信機の後ろに回ったりするのを、イングラルは微笑ましく見守る。
この技術が開発されたのは三年ほど前で、当時はじめて使った人は、だいたい今のライオネルみたいな行動をしたものだ。
「満足したかね?」
「なんだか妖怪にでも化かされているような気分です。陛下はリーサンサンにいらっしゃるんですよね」
歩いて十日以上の距離を離れている相手と、こうして顔を見ながら話をできるなんて。
ちゃんと説明を聞いていても理解の外側だ。
「マスルの技術には目を見張るばかりです。これもまた戦の常識を変えてしまいますよ」
「個人で持ち運べるようなものではないからな。今回は実験的にミルトに置いてみたが、はたして運用に耐えるかどうか」
魔王が首を振る。
単一方向へ、一方的にメッセージを送る魔導技術は開発されていて、それを応用したものなのだと付け加えながら。
それだって人間から見たら夢の技術である。
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