二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!
閑話 大夜逃げ作戦
「アイシクルランス! スリーウェイ!」
「精霊砲~」
ミリアリアの放った氷の槍と、サリエリが撃ち出した青白い火球が衝突する。
両軍の中間地点よりもやや王国軍寄りの場所で。
味方同士の魔法をぶつけてどうするんだ、と、王国軍が思ったにしても、解答はすぐに与えられた。
戦場にとどろき渡る大音響。
遅れてやってきて、暴れ回る衝撃波。
そして天高く形成される、キノコのような形の雲。
なにが起こるか知っており、しっかりと準備をしていたライオネル隊ですら、衝撃でひっくり返る者が続出した。
ミリアリアとサリエリの合体技、フレアチックエクスプロージョンの魔法である。
王国軍の中心部で炸裂させるのは、あまりにも危険だと判断されたため、直接的な被害のない場所での爆発となった。
それでも、音と衝撃で王国軍の前衛は全滅に近い。
耳から血を流して倒れている者、口から泡吹いて昏倒している者、うずくまりガタガタと震える者。
一撃、わずか一撃で、一万以上の兵士が戦闘不能に陥った。
馬も倒れたり逃げ出したりして、もう一頭も役に立たない。
恐怖と混乱は、全軍へと伝播していく。
「これぇ、たぶん禁呪指定されそうだねぇ」
「ええ。人間相手に使って良い魔法じゃなさそうです」
自らが為したことながら、サリエリとミリアリアが青ざめた顔で語り合う。
彼女らはその程度で済んだが、王国軍は大パニックだ。
ついさっきまで敵前逃亡した兵士を追いかけ回していた士官は、衝撃で倒れた馬の下から這い出すと、鎧も兜も捨てて一目散に逃げ出す。
もう戦うどころではない。
動ける兵は三万はいるはずなのに、完全に戦意を喪失していた。
そしてリントライト王モリスンもまた、乗っていた輿から飛び降り、走って戦場から逃亡を始める。
これが決定的だった。
全軍が崩壊する。
四万以上の王国軍は、たった一千のガイリア軍に対して、ただの一合すら剣をあわせることなく敗北した。
半刻の後に戦場に残っていたのは、降伏を申し出る者と初撃の衝撃で前後不覚に陥ったものだった。
その数は、およそ三万。
四万で出撃し、干戈を交えることなく大半の兵を失い、ほとんど身ひとつで逃げたモリスン王は、この一事をもって愚王だの昏主だのいう不名誉な称号を奉られることとなった。
そして、その舞台となったパウル平原会戦の詳細は、後に公式記録から抹消されることとなる。
フレアチックエクスプロージョンの魔法が禁呪指定され、どのような魔法なのか、どうやって行使するのか、どんな効果があるのか、そのすべてを黒く塗りつぶす必要があったからだ。
ただ吟遊詩人たちが歌う叙事詩『愚王と大魔法使い』のなかに、大賢者ミリアリアが天の裁きをもって愚かなる王を打ちのめした、という一節を残すのみである。
ほうほうの体でモスリンが王都ガラングランに逃げ帰ったとき、彼を出迎えたのは愛すべき国民たちでも信頼すべき重臣たちでもなかった。
閑散とした街並み。
まるでゴーストタウンのような。
呆然と立ちすくむ王は、沈みゆく船から鼠たちが脱出する様を思い浮かべた。
もちろん王都の住民は鼠ではなく、人がいなくなったのはライオネル隊の別働隊の工作の結果である。
一ヶ月も前から王都に潜入し、様々な流言を飛ばしてきたのだ。
ガイリアから進軍してくるライオネル隊の情報を流したのもその一環である。
結果、モリスンは出戦せざるを得なくなった。
まさか一千程度の兵力を相手に、籠城を決め込むなんてできなかった。
こうして、王国軍が嫌々出撃したのを見計らい、ナザルを中心とした別働隊は、大夜逃げ作戦を決行する。
それは、王都に住む数十万の民の避難作戦だった。
ミカサ湖畔市をはじめとした、数十の町や村、宿場などに身を隠すのだ。敗走してきた王国軍に殺されないために。
現状、王国軍のモラルは盗賊団レベルにまで低下しているため、負けてささくれ立った状態で市民を見たら、なにをするか判らなかったからである。
それに、市民がいなくなってしまえば、籠城されたとしてもかなり大胆な攻撃ができる。
それこそ、例のフレアチックエクスプロージョンの魔法を城門や城壁にぶつけても大丈夫だ。
非戦闘員を巻き込む心配がない。
面白いのは、ナザルたち別働隊がガイリア軍の勝利を薄紙一枚分も疑っていなかったことだろう。
わずか一千のガイリア軍が、四万を超える王国軍に完勝できるというのが、この作戦の前提条件なのである。
なかなかに無茶な前提だが、これについては別働隊を指揮する中隊長のひとりであるジョシュアが、このようにコメントした。
「ネル隊長が指揮してる上に、アスカやミリアリアまでいるんだぜ? へなちょこの王国軍なんか、十万いたって勝てねえよ」
と。
ともあれ、戻ってきた王国軍に非道を働かせないための一時避難が、大夜逃げ作戦の骨子であり、それは完璧に成功した。
しかし、いかな軍師ライオネルといえども予言者ではないので、計算外の事態も発生する。
王国軍が予想以上の大敗を喫して、ガラングランに戻った兵力は五千に届かなかったことがそのひとつだし、誰もいなくなってしまった街といずこかへ逃亡してしまった重臣どもに絶望した愚王モリスンが、居城に火を放って家族ともども自殺してしまったのも、完全に予想外だった。
こうしてリントライト王国は、王城とともに炎の中に崩れ落ちる。
蓄えられた膨大な宝物などと一緒に。
前王朝を簒奪してから百二十年。
国の寿命としては極端に短命であり、その中でもモリスン王の在位二年というのはリントライト王国史上、最短であった。
第二部 完
「精霊砲~」
ミリアリアの放った氷の槍と、サリエリが撃ち出した青白い火球が衝突する。
両軍の中間地点よりもやや王国軍寄りの場所で。
味方同士の魔法をぶつけてどうするんだ、と、王国軍が思ったにしても、解答はすぐに与えられた。
戦場にとどろき渡る大音響。
遅れてやってきて、暴れ回る衝撃波。
そして天高く形成される、キノコのような形の雲。
なにが起こるか知っており、しっかりと準備をしていたライオネル隊ですら、衝撃でひっくり返る者が続出した。
ミリアリアとサリエリの合体技、フレアチックエクスプロージョンの魔法である。
王国軍の中心部で炸裂させるのは、あまりにも危険だと判断されたため、直接的な被害のない場所での爆発となった。
それでも、音と衝撃で王国軍の前衛は全滅に近い。
耳から血を流して倒れている者、口から泡吹いて昏倒している者、うずくまりガタガタと震える者。
一撃、わずか一撃で、一万以上の兵士が戦闘不能に陥った。
馬も倒れたり逃げ出したりして、もう一頭も役に立たない。
恐怖と混乱は、全軍へと伝播していく。
「これぇ、たぶん禁呪指定されそうだねぇ」
「ええ。人間相手に使って良い魔法じゃなさそうです」
自らが為したことながら、サリエリとミリアリアが青ざめた顔で語り合う。
彼女らはその程度で済んだが、王国軍は大パニックだ。
ついさっきまで敵前逃亡した兵士を追いかけ回していた士官は、衝撃で倒れた馬の下から這い出すと、鎧も兜も捨てて一目散に逃げ出す。
もう戦うどころではない。
動ける兵は三万はいるはずなのに、完全に戦意を喪失していた。
そしてリントライト王モリスンもまた、乗っていた輿から飛び降り、走って戦場から逃亡を始める。
これが決定的だった。
全軍が崩壊する。
四万以上の王国軍は、たった一千のガイリア軍に対して、ただの一合すら剣をあわせることなく敗北した。
半刻の後に戦場に残っていたのは、降伏を申し出る者と初撃の衝撃で前後不覚に陥ったものだった。
その数は、およそ三万。
四万で出撃し、干戈を交えることなく大半の兵を失い、ほとんど身ひとつで逃げたモリスン王は、この一事をもって愚王だの昏主だのいう不名誉な称号を奉られることとなった。
そして、その舞台となったパウル平原会戦の詳細は、後に公式記録から抹消されることとなる。
フレアチックエクスプロージョンの魔法が禁呪指定され、どのような魔法なのか、どうやって行使するのか、どんな効果があるのか、そのすべてを黒く塗りつぶす必要があったからだ。
ただ吟遊詩人たちが歌う叙事詩『愚王と大魔法使い』のなかに、大賢者ミリアリアが天の裁きをもって愚かなる王を打ちのめした、という一節を残すのみである。
ほうほうの体でモスリンが王都ガラングランに逃げ帰ったとき、彼を出迎えたのは愛すべき国民たちでも信頼すべき重臣たちでもなかった。
閑散とした街並み。
まるでゴーストタウンのような。
呆然と立ちすくむ王は、沈みゆく船から鼠たちが脱出する様を思い浮かべた。
もちろん王都の住民は鼠ではなく、人がいなくなったのはライオネル隊の別働隊の工作の結果である。
一ヶ月も前から王都に潜入し、様々な流言を飛ばしてきたのだ。
ガイリアから進軍してくるライオネル隊の情報を流したのもその一環である。
結果、モリスンは出戦せざるを得なくなった。
まさか一千程度の兵力を相手に、籠城を決め込むなんてできなかった。
こうして、王国軍が嫌々出撃したのを見計らい、ナザルを中心とした別働隊は、大夜逃げ作戦を決行する。
それは、王都に住む数十万の民の避難作戦だった。
ミカサ湖畔市をはじめとした、数十の町や村、宿場などに身を隠すのだ。敗走してきた王国軍に殺されないために。
現状、王国軍のモラルは盗賊団レベルにまで低下しているため、負けてささくれ立った状態で市民を見たら、なにをするか判らなかったからである。
それに、市民がいなくなってしまえば、籠城されたとしてもかなり大胆な攻撃ができる。
それこそ、例のフレアチックエクスプロージョンの魔法を城門や城壁にぶつけても大丈夫だ。
非戦闘員を巻き込む心配がない。
面白いのは、ナザルたち別働隊がガイリア軍の勝利を薄紙一枚分も疑っていなかったことだろう。
わずか一千のガイリア軍が、四万を超える王国軍に完勝できるというのが、この作戦の前提条件なのである。
なかなかに無茶な前提だが、これについては別働隊を指揮する中隊長のひとりであるジョシュアが、このようにコメントした。
「ネル隊長が指揮してる上に、アスカやミリアリアまでいるんだぜ? へなちょこの王国軍なんか、十万いたって勝てねえよ」
と。
ともあれ、戻ってきた王国軍に非道を働かせないための一時避難が、大夜逃げ作戦の骨子であり、それは完璧に成功した。
しかし、いかな軍師ライオネルといえども予言者ではないので、計算外の事態も発生する。
王国軍が予想以上の大敗を喫して、ガラングランに戻った兵力は五千に届かなかったことがそのひとつだし、誰もいなくなってしまった街といずこかへ逃亡してしまった重臣どもに絶望した愚王モリスンが、居城に火を放って家族ともども自殺してしまったのも、完全に予想外だった。
こうしてリントライト王国は、王城とともに炎の中に崩れ落ちる。
蓄えられた膨大な宝物などと一緒に。
前王朝を簒奪してから百二十年。
国の寿命としては極端に短命であり、その中でもモリスン王の在位二年というのはリントライト王国史上、最短であった。
第二部 完
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