二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!

南野雪花

第72話 頑固オカン

 比喩的な意味ではなく、絶対に負けられない戦いというものが存在する。
 アスピム平原会戦がそうだ。
 ガイリアにとっても、リントライト王国にとっても。

 負けたら滅亡への道をまっしぐら、という戦いだったのである。
 で、負けたリントライト王国は、いままさに滅亡の危機にあるわけだ。

「ロンデン侯爵が独立を宣言したよ」

 俺とメイシャを出迎えたドロス伯爵が告げる。
 有力な貴族の一人で、なにかと王国政府とは対立してきた人だ、という程度の知識は俺にもあった。

「今年のうちに、あと二つばかりの貴族領が王国に反旗を翻すだろう。もう終わりだな」
「なるほど」

 軽く頷いてみせる。
 アスピム平原の戦いに敗れた王国軍は、他の貴族に対するにらみを利かせられなくなったのだ。
 そうなったら、普段から不平不満を持ってる貴族は背くよね。普通に。

 国に対する供出金だって、べつに好きこのんで納めているわけじゃないし。
 俺たちが冒険者ギルドに納める協賛金と同じだよな。組織を円滑に動かすための会費だと自分を納得させて、安くない金を払ってるんだ。

 払わなくても不利益がないとなったら、誰が払うかよ。あんなもん。
 で、その不利益ってのは国の場合は武力行使なんだよね。
 圧倒的な武力で蹂躙されるのが嫌だから、貴族たちは自分の所領の税収の三割くらいを国に差し出してるわけだ。

 三割って簡単にいっちゃったけど、すごい額だよ?
 収入の三割よこせなんていわれたら、普通の冒険者は暴れるって。あこぎあこぎと俺たちが嘆く協賛金だって、クランの総収入の一割にも届かない。

 だからこそ、領地持ちの貴族は他に商売とかもやってるんだけどね。
 ドロス伯爵だと魔族との密貿易とか。

「それで、ガイリアはどうするんですか?」
「年明け早々に独立を宣言し、ガイリア王国を称するつもりだ」

 きっぱりと伯爵が言った。
 うん。
 まさに群雄割拠だね。

「そこでだ。じつはきみに頼みがあるのだよ。ライオネルくん」
「嫌です」
「まだなにも言っていないが?」
「建国してドロス伯爵閣下が王になるのは、俺としても賛成です。おおいに応援します。でも、新王の横に英雄アスカと聖女メイシャを立たせようというのは、首肯できませんよ」

 アスカやメイシャを政治の道具にさせるわけにはいかない。
 二人だけでなく、ミリアリアもメグも、俺の大事な家族たちを政争の渦中に放り込むつもりはさらさらないのだ。

「もちろん、きみにも相応の地位を用意する。大将軍でも宰相でも」

 伯爵として美味しそうなエサを出してるつもりなんだろうね。
 でもいらんよ。そんな地位。

 いや、俺一人のことだったらさ、能力を買ってもらえたなら嬉しいし、彼に助力するのも吝かじゃないんだ。
 けど娘たちを政略に使うのは許せない。

「いまは求心力としての偶像が必要でしょう。ですが事が落ち着いて平和になったら、すぐに邪魔になりますよ。王より人気のある英雄なんて」

 俺は肩をすくめる。
 ドロス伯爵は明敏なお方だから、これで充分に察することができるはず。
 ふうとため息をつく伯爵。

「なんと頑固な……」
「だから言ったであろう。ドロス卿。地位や名誉で簡単に転ぶような男なら、とっくに某の幕下ばっかに入っておると」

 がちゃりと扉を開けてカイトス将軍が入室してきた。
 隣で聞いてたのかよこのおっさん……。





 じつは、俺を呼び出した用件はべつにあった。

 召し抱えるとかそういうのは、ようするに存念をたしかめるため小芝居である。
 頷いたら頷いたで良かったらしいけどね。

 たぶん俺は首を縦に振らないって、あらかじめカイトス将軍はドロス伯爵に語っていたそうだ。
 まったく、いっぱい食わされたぜ。
 タヌキ親父とキツネ親父に。

「じつは王都周辺がひどいことになっているのだ。ライオネルよ」

 将軍が重々しく口を開く。
 貴族からの供出金もなく、財政的に逼迫した王国政府は、平民からむしり取ろうと考えたらしい。
 王都とその周辺に住む人々に重税を課した。

 それは重税っていうより苛税っていった方が正しいくらいで、とにかくいまある金を全部よこせ、みたいなレベルらしい。
 逆らったら殺され、家財ごと没収される。逃げたら殺され、家財ごと没収される。

 盗賊団の方がまだマシだろうってことを王国政府が始めてしまった。
 固有の武力を持っている貴族には手を出せなくても、何の力もない庶民が相手なら好き放題にできるというわけだ。

「末期症状じゃないですか」

「某としては、このまま手をこまねいて見ているというのはつらい。なんとか彼らを助ける手段がないかと考えているのだ」
「逆に私としては、心を鬼にして見捨てるべきと考えている。リントライト王家は自らの死刑執行命令書にサインしたようなものなのだからな」

 カイトス将軍とドロス伯爵が口々に言う。
 これが俺とメイシャを呼び出した理由らしい。

 より正確には伯爵が俺を、将軍がメイシャを指名したのだ。
 俺なら冷静で感情に流されない意見を提示できると思われれたため。聖女と称えられるメイシャなら民を見捨てるようなことは言わないと思われたため。

 一対一で分かれた意見を調整するために二人呼んだのでは、二対二になるだけではないかと思っちゃうんだけど、そこは同格の盟友って立場の難しいところだ。
 どちらかの意見だけとを通すってわけにはいかないのである。

「メイシャはどう思う? 方法はこれから考えるとして、王都の人たちを助けるべきか。それともこのままなにもしないか」

 とうのメイシャに、俺は訊ねてみる。
 彼女は数瞬、深沈と考え込んだ。

「わたくしはネルママの方針に従いますわ」

 そしてきっぱりと言ったのである。

 聡い彼女は、べつに事態を投げたわけではない。俺に二票持たせる、という選択をしたのだ。
 この場にいる四人で決を採った場合、三票というのが絶対多数になる。ようするに俺がどう動くかで事態が決まるという局面を作り上げたのである。

 これが長女役の判断だ。

 俺は、息を呑むカイトス将軍とドロス伯爵に向き直り、ゆっくりと口を開いた。

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