二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!
第59話 草原の退却戦(2)
最初の一撃で、じつは勝負は決まったようなものだった。
初撃で一割以上の戦力を失ったのである。
まともに考えたら、もう逃げの一手しかない。
突進しようとする出鼻をくじかれて動揺したところに、カイトス将軍が率いる騎馬隊の横撃をくらい、逃げ崩れたところに歩兵部隊の突撃だ。
体勢の上でも勢いの上でも、ここからの逆転なんかできない。
俺が指揮官だったら、恥も外聞もなく総退却の指示を出すね。
計算もなにもなく「逃げろ!」って。
けど王国軍は逃亡しない。
絶望的な状況なのに、なお頑強に抵抗している。
「まずいな……こいつは……」
「なにがです? ネル母さん」
俺のつぶやきにミリアリアが首をかしげた。
だれが見ても味方が有利な状況だから、俺の言葉に疑問を抱いたのだろう。
「敵が逃げないことさ。どう思う?」
「あれ? いわれてみればおかしいですよね?」
ここから戦況をひっくり返すのは不可能に近い。
俺が王国軍の指揮を執っていたとしても、なにも思いつかないだろう。であれば、逃げるしかないのだ。
逃げるという表現が気に食わないなら、一度撤退して体勢を整え直すとか、戦力の再編成をするとか、言い方は何でもいい。
このまま戦い続けたら全滅するだけなのである。
「まさか、時間を稼いでいるとか?」
「さすがにそれはないと思う。駆けつけられる場所に味方がいるなら、合流してから戦えば良かっただけだし」
時差を付けて衝突しても、各個撃破の対象になるだけだ。
王国軍の指揮官がその程度のことも判らないとは思えない。
「それなら……」
「俺の目には共倒れを狙っているように見える。まるで地獄の底に引きずり込もうとする亡者みたいにな」
「まさか……」
首を振るミリアリアだったが、明敏な彼女はその可能性に気づいてしまったのだろう。
顔色が悪い。
前戦で戦う味方の数は九十。敵は二百以上。損耗比率では味方が圧倒的に有利だが、こちらを一人倒すのに向こうが二人犠牲になったとしても、なお敵が二十以上残るのだ。
「消耗戦……」
ミリアリアの声がかすれる。
これをやられるのが一番困る。敵も味方もものすごく損害が出てしまうから。
俺たち軍師や、参謀っていわれる人たちが最も避けようとするのも、こういう状況だ。
戦略的な計算の仕方としては正しいんだけどね。敵を一人倒すために味方が何人犠牲になれば良いのかっていうふうに考えるのは。
「ネル母さん。なんとかしないと」
「打てる手がないんだよ」
俺は首を振ってみせた。
戦力はすべて投入している。
予備兵力なんて上等なものは俺たちにはない。
今ここにいるのは魔法使いと僧侶十三名、それに俺とメグだけだ。少しでも接近戦ができるのが二人だけでは、やれることなんかなにもないのである。
「もっと兵がいればな……。五十人……いや、三十人でもいいから……」
はなはだ現実性を欠く愚痴をこぼしてしまう。
その瞬間だ。
「よかったですね! ネル副団! ちょうどその三十人、現着ですぜ!」
声が響き渡った。
怒濤の勢いで戦場に躍り込んできた一団。
翻る団旗には死神の鎌が描かれている。
中堅の冒険者クラン『葬儀屋』のエンブレムだ。
「ネル副団! 助けにきやしたぜ!」
「寝ないで駆けたんで、みんなハイになってます。複雑な指示は聞けませんよ」
「おまえら……」
ジョシュアとニコル。
かつて『金糸蝶』に所属し、同じ釜の飯を食った仲間である。
「新進気鋭の『希望』に貸しを作るのは良い気分だからな」
にっと笑って見せた黒髪の剣士はナザル。『葬儀屋』のリーダーだ。
事情はわからないが、『葬儀屋』が援軍として駆けつけてくれたらしい。
助かった。
本当に助かった。
これだけの兵力があれば。
「さあ、命令をくれ。軍師どの」
ナザルの言葉に俺は頷き、長剣で一点を指す。
「突撃し、蹂躙せよ」
この上なくシンプルな命令だ。
「OK! 野郎ども! 吶喊だ!」
『うぉぉぉぉっ!!』
喊声とともに『葬儀屋』が突進する。
「みんな! 援軍がきたよ!」
いち早く気づいたアスカの声に、延々と続く消耗戦に辟易していた味方も活気づいた。
ここで大きな武勲を上げれば、一気に大勢が決まる。
そういう局面だ。
「アスカぁ。あれ指揮官っぽくない~?」
剣と魔法で次々に王国兵を倒しながら、サリエリが間抜けっぽい声で指し示す。
ものすごく強い上に、リントライト人を殺すことにまったくの躊躇いがないマスル人だから、彼女の戦果は群を抜いている。
同じくらい活躍してるのって、カイトス将軍とアスカくらいだ。
「あいつか!」
「ここはぁ、うちが引き受けたぁ」
「感謝!」
勇者が啓開した道を英雄が駆ける。
一直線に王国軍の指揮官を目指して。
立ち塞がる敵兵を草でも刈るようになぎ倒しながら。
「隊長っぽい人! その首もらったーっ!」
「ちょこざいな小娘め! 返り討ちにしてくれる!」
馬上から高速で突き出される槍をアスカは巧みに回避する。
二度三度。
四度目の刺突で、ついにその身体を貫いた、かに見えた。
「残念!」
穂先は地面をえぐり、前方宙返りで回避したアスカの身体は、なんと槍の上に立っていた。
あまりの事態に驚く騎士。
咄嗟に槍から手を離すことできない。
そのまま敵の武器の上を駆け上がってジャンプ一番、くるくると横回転しながらアスカの剣が一閃する。
驚愕の表情を浮かべたまま、指揮官の首が宙を舞った。
「隊長っぽい人! 討ち取ったりーっ!!」
空中でそれをキャッチした赤毛の英雄が、高々と掲げてみせる。
味方が一斉に鬨の声を上げた。
「よし。勝ったな」
アスカの武功を遠望した俺は、小さく拳を握った。
初撃で一割以上の戦力を失ったのである。
まともに考えたら、もう逃げの一手しかない。
突進しようとする出鼻をくじかれて動揺したところに、カイトス将軍が率いる騎馬隊の横撃をくらい、逃げ崩れたところに歩兵部隊の突撃だ。
体勢の上でも勢いの上でも、ここからの逆転なんかできない。
俺が指揮官だったら、恥も外聞もなく総退却の指示を出すね。
計算もなにもなく「逃げろ!」って。
けど王国軍は逃亡しない。
絶望的な状況なのに、なお頑強に抵抗している。
「まずいな……こいつは……」
「なにがです? ネル母さん」
俺のつぶやきにミリアリアが首をかしげた。
だれが見ても味方が有利な状況だから、俺の言葉に疑問を抱いたのだろう。
「敵が逃げないことさ。どう思う?」
「あれ? いわれてみればおかしいですよね?」
ここから戦況をひっくり返すのは不可能に近い。
俺が王国軍の指揮を執っていたとしても、なにも思いつかないだろう。であれば、逃げるしかないのだ。
逃げるという表現が気に食わないなら、一度撤退して体勢を整え直すとか、戦力の再編成をするとか、言い方は何でもいい。
このまま戦い続けたら全滅するだけなのである。
「まさか、時間を稼いでいるとか?」
「さすがにそれはないと思う。駆けつけられる場所に味方がいるなら、合流してから戦えば良かっただけだし」
時差を付けて衝突しても、各個撃破の対象になるだけだ。
王国軍の指揮官がその程度のことも判らないとは思えない。
「それなら……」
「俺の目には共倒れを狙っているように見える。まるで地獄の底に引きずり込もうとする亡者みたいにな」
「まさか……」
首を振るミリアリアだったが、明敏な彼女はその可能性に気づいてしまったのだろう。
顔色が悪い。
前戦で戦う味方の数は九十。敵は二百以上。損耗比率では味方が圧倒的に有利だが、こちらを一人倒すのに向こうが二人犠牲になったとしても、なお敵が二十以上残るのだ。
「消耗戦……」
ミリアリアの声がかすれる。
これをやられるのが一番困る。敵も味方もものすごく損害が出てしまうから。
俺たち軍師や、参謀っていわれる人たちが最も避けようとするのも、こういう状況だ。
戦略的な計算の仕方としては正しいんだけどね。敵を一人倒すために味方が何人犠牲になれば良いのかっていうふうに考えるのは。
「ネル母さん。なんとかしないと」
「打てる手がないんだよ」
俺は首を振ってみせた。
戦力はすべて投入している。
予備兵力なんて上等なものは俺たちにはない。
今ここにいるのは魔法使いと僧侶十三名、それに俺とメグだけだ。少しでも接近戦ができるのが二人だけでは、やれることなんかなにもないのである。
「もっと兵がいればな……。五十人……いや、三十人でもいいから……」
はなはだ現実性を欠く愚痴をこぼしてしまう。
その瞬間だ。
「よかったですね! ネル副団! ちょうどその三十人、現着ですぜ!」
声が響き渡った。
怒濤の勢いで戦場に躍り込んできた一団。
翻る団旗には死神の鎌が描かれている。
中堅の冒険者クラン『葬儀屋』のエンブレムだ。
「ネル副団! 助けにきやしたぜ!」
「寝ないで駆けたんで、みんなハイになってます。複雑な指示は聞けませんよ」
「おまえら……」
ジョシュアとニコル。
かつて『金糸蝶』に所属し、同じ釜の飯を食った仲間である。
「新進気鋭の『希望』に貸しを作るのは良い気分だからな」
にっと笑って見せた黒髪の剣士はナザル。『葬儀屋』のリーダーだ。
事情はわからないが、『葬儀屋』が援軍として駆けつけてくれたらしい。
助かった。
本当に助かった。
これだけの兵力があれば。
「さあ、命令をくれ。軍師どの」
ナザルの言葉に俺は頷き、長剣で一点を指す。
「突撃し、蹂躙せよ」
この上なくシンプルな命令だ。
「OK! 野郎ども! 吶喊だ!」
『うぉぉぉぉっ!!』
喊声とともに『葬儀屋』が突進する。
「みんな! 援軍がきたよ!」
いち早く気づいたアスカの声に、延々と続く消耗戦に辟易していた味方も活気づいた。
ここで大きな武勲を上げれば、一気に大勢が決まる。
そういう局面だ。
「アスカぁ。あれ指揮官っぽくない~?」
剣と魔法で次々に王国兵を倒しながら、サリエリが間抜けっぽい声で指し示す。
ものすごく強い上に、リントライト人を殺すことにまったくの躊躇いがないマスル人だから、彼女の戦果は群を抜いている。
同じくらい活躍してるのって、カイトス将軍とアスカくらいだ。
「あいつか!」
「ここはぁ、うちが引き受けたぁ」
「感謝!」
勇者が啓開した道を英雄が駆ける。
一直線に王国軍の指揮官を目指して。
立ち塞がる敵兵を草でも刈るようになぎ倒しながら。
「隊長っぽい人! その首もらったーっ!」
「ちょこざいな小娘め! 返り討ちにしてくれる!」
馬上から高速で突き出される槍をアスカは巧みに回避する。
二度三度。
四度目の刺突で、ついにその身体を貫いた、かに見えた。
「残念!」
穂先は地面をえぐり、前方宙返りで回避したアスカの身体は、なんと槍の上に立っていた。
あまりの事態に驚く騎士。
咄嗟に槍から手を離すことできない。
そのまま敵の武器の上を駆け上がってジャンプ一番、くるくると横回転しながらアスカの剣が一閃する。
驚愕の表情を浮かべたまま、指揮官の首が宙を舞った。
「隊長っぽい人! 討ち取ったりーっ!!」
空中でそれをキャッチした赤毛の英雄が、高々と掲げてみせる。
味方が一斉に鬨の声を上げた。
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