二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!
閑話 魔王さまの憂鬱 2
「犯人がわかったと聞いたが」
「いいえ。判明したのは実行犯です。今朝方、城壁から飛び降り自殺した小間使いの部屋から、犯行を告白する遺書が見つかっただけですね」
イングラルの問いかけに、ミレーヌが苦い顔で応えた。
小間使いが、自らの打算や野望に基づいて王城の宝物を盗み出すとは思えない。
誰かに唆されたに決まっているのだ。
それを証拠に、その小間使いの荷物から支配の宝珠は見つかっていない。
利用され、口封じのために殺されたのだ。
「遺族に不自由はさせるなよ」
状況報告を聞き、魔王は眉間を指で押さえた。
まだ数え十六(満十五)だったという。寒門出身の娘で、それゆえにこそ駒として使いやすかったのだろう。
「自殺かどうかも怪しいですしね。引き続き捜査を進めます」
「頼む。ミレーヌ自身はどう思ってるんだ? この件。参考までにきかせてくれ」
「主戦派の門閥貴族でしょう」
「地面を大金槌でぶっ叩くような答えだな。外れようがない」
秘書の回答に魔王が肩をすくめた。
犯人が誰かなんて、ミレーヌの言うとおり考えるまでもないからだ。
問題は、何のためにあんなモノを持ち出したかってことである。
モンスターを操るマジックアイテムなど、間違いなく邪な目的で使うに決まっているのだ。
騒動を起こして、人間どもの仕業に違いないと喧伝し、主戦論を沸騰させるとか、そんな感じだろう。
積極的に恨んでいるものは減ってきたとはいえ、父祖の地を奪った人間たちに対して、単純ならざる感情を持っているものは多い。
「マッチ一本あれば、簡単に燃え広がるだろうしな」
「そうさせないための私たち『火消し』ですよ。イングラル」
に、と笑った秘書が、繊手をのばして魔王の頬に触れた。
その手をイングラルが握る。
二人が男女の関係を持ったのは即位よりだいぶ前のことだ。しかし百年近くの間、誰にも関係を疑われたことはない。
理想家の魔王を支える怜悧な秘書。
誰の目にもそう見えるから。公的な場では。
「いつもすまないねぇ」
「おとっつぁん。それは言わない約束よ」
くだらない冗談を言い合ってから、ミレーヌは踵を返して執務室を出ていく。彼女のもつもう一つの顔になるために。
当たり前の話だが、理想論だけでは国を運営することはできない。
それはべつに政治はきれい事では済まないと言い訳すれば汚職などの悪いことをしていい、という意味ではなくて、反対者を黙らせるために武力が必要になるということだ。
王権に対して従順ならざるものには、相応の対処が必要になってくる。
イングラルの掲げる「皆が仲良く、幸福に」という理想は尊いが、その尊さにすら石を投げつける者が存在するのが社会だ。
ゆえに、彼女たちはその芽を摘んでゆく。
火消し。
王子だったころのイングラルの思想に感銘を受けたダークエルフ族によって組織された暗殺者集団である。
平和な治世を乱す者を人知れず始末していくのが仕事だ。
ちなみに、発足当時はもっとずっと過激だった。第四王子だったイングラルが王位に就いたのは、兄たちがすべて病死または事故死してしまったからなのだが、そこにも火消しの暗躍があったのである。
手段を選ばないやり方を憂慮したイングラルによって組織は改編され、ミレーヌが二代目のリーダーとなった。
彼女はダークエルフ族が忠誠の証として差し出した愛妾候補だったのだが、意外なことに組織運営者としての才能も持ち合わせていたのである。
「辺境領域、とりわけリントライトの国境付近におかしな動きがないか監視して。騒ぎを起こすなら王都じゃないわ」
『は!』
一礼し、影のように消え去る配下たち。
いずれも二百歳未満の若いダークエルフである。
剣、魔法、身体能力や素手での格闘術、どれも一級品の精鋭たちだ。
「ミレーヌ様ぁ。ちょっといいですかぁ」
「ゴーサイン出したら、しゅぱっと消えてよ。居座られるとすごく気まずいんだけど」
火消しの司令室。一人残されるはずのミレーヌの前には、のへーっとした寝ぼけ顔の少女が残っていた。
サリエリという名で、血統上はミレーヌの従妹にあたる。
さらさらと流れるような銀髪も、神秘的な金色の瞳も、じつによく似ていたが、ぼけーっとした間抜け面のためあまり血縁だとは思われない。
「でぇ、「間に合えば良いが……」とか、格好いい独り言をいってぇ、悦に入るんですよねぇ」
「ほっといてよ!」
ミレーヌが赤面してしまう。
微妙な悪癖を指摘されて。
魔王の秘書と秘密組織の長官、なかなかにストレスの溜まる仕事なのだ。
ちょっとくらい遊んだっていいじゃない。
「で、なんなのよ一体。もう指令は出したでしょ。あとは自分の裁量で行動しなさいよ」
火消しには、ああしろこうしろという細々とした命令は下されない。問題解決のため自分が最善と信じる方法で行動する裁量権が与えられているからだ。
人を雇うのも自由だし、賄賂などを使って敵に接近するのもアリなのである。
国内に限定されるが。
外国に出向いて、そんなスパイみたいな工作やってたら外交問題になってしまう。
「むしろぉ。リントライトに潜入した方がいいと思うんですよぉ。騒ぎを起こすとしたら、国境線のこっち側じゃなくて、あっち側じゃないかとぉ」
「どうしてそう思うの?」
「ただの山勘ですぅ」
「……いいわ。国外行動を許可します。探ってちょうだい」
ミレーヌが挿入した沈黙は、深くはあったが長くはなかった。
サリエリの勘は、昔から妙に鋭いところがある。
「ただし、枝の一本、葉の一枚も揺らしちゃダメよ」
「御意ですよぅ」
あいかわらずのへーっとした表情のまま、サリエリが頷いた。
「いいえ。判明したのは実行犯です。今朝方、城壁から飛び降り自殺した小間使いの部屋から、犯行を告白する遺書が見つかっただけですね」
イングラルの問いかけに、ミレーヌが苦い顔で応えた。
小間使いが、自らの打算や野望に基づいて王城の宝物を盗み出すとは思えない。
誰かに唆されたに決まっているのだ。
それを証拠に、その小間使いの荷物から支配の宝珠は見つかっていない。
利用され、口封じのために殺されたのだ。
「遺族に不自由はさせるなよ」
状況報告を聞き、魔王は眉間を指で押さえた。
まだ数え十六(満十五)だったという。寒門出身の娘で、それゆえにこそ駒として使いやすかったのだろう。
「自殺かどうかも怪しいですしね。引き続き捜査を進めます」
「頼む。ミレーヌ自身はどう思ってるんだ? この件。参考までにきかせてくれ」
「主戦派の門閥貴族でしょう」
「地面を大金槌でぶっ叩くような答えだな。外れようがない」
秘書の回答に魔王が肩をすくめた。
犯人が誰かなんて、ミレーヌの言うとおり考えるまでもないからだ。
問題は、何のためにあんなモノを持ち出したかってことである。
モンスターを操るマジックアイテムなど、間違いなく邪な目的で使うに決まっているのだ。
騒動を起こして、人間どもの仕業に違いないと喧伝し、主戦論を沸騰させるとか、そんな感じだろう。
積極的に恨んでいるものは減ってきたとはいえ、父祖の地を奪った人間たちに対して、単純ならざる感情を持っているものは多い。
「マッチ一本あれば、簡単に燃え広がるだろうしな」
「そうさせないための私たち『火消し』ですよ。イングラル」
に、と笑った秘書が、繊手をのばして魔王の頬に触れた。
その手をイングラルが握る。
二人が男女の関係を持ったのは即位よりだいぶ前のことだ。しかし百年近くの間、誰にも関係を疑われたことはない。
理想家の魔王を支える怜悧な秘書。
誰の目にもそう見えるから。公的な場では。
「いつもすまないねぇ」
「おとっつぁん。それは言わない約束よ」
くだらない冗談を言い合ってから、ミレーヌは踵を返して執務室を出ていく。彼女のもつもう一つの顔になるために。
当たり前の話だが、理想論だけでは国を運営することはできない。
それはべつに政治はきれい事では済まないと言い訳すれば汚職などの悪いことをしていい、という意味ではなくて、反対者を黙らせるために武力が必要になるということだ。
王権に対して従順ならざるものには、相応の対処が必要になってくる。
イングラルの掲げる「皆が仲良く、幸福に」という理想は尊いが、その尊さにすら石を投げつける者が存在するのが社会だ。
ゆえに、彼女たちはその芽を摘んでゆく。
火消し。
王子だったころのイングラルの思想に感銘を受けたダークエルフ族によって組織された暗殺者集団である。
平和な治世を乱す者を人知れず始末していくのが仕事だ。
ちなみに、発足当時はもっとずっと過激だった。第四王子だったイングラルが王位に就いたのは、兄たちがすべて病死または事故死してしまったからなのだが、そこにも火消しの暗躍があったのである。
手段を選ばないやり方を憂慮したイングラルによって組織は改編され、ミレーヌが二代目のリーダーとなった。
彼女はダークエルフ族が忠誠の証として差し出した愛妾候補だったのだが、意外なことに組織運営者としての才能も持ち合わせていたのである。
「辺境領域、とりわけリントライトの国境付近におかしな動きがないか監視して。騒ぎを起こすなら王都じゃないわ」
『は!』
一礼し、影のように消え去る配下たち。
いずれも二百歳未満の若いダークエルフである。
剣、魔法、身体能力や素手での格闘術、どれも一級品の精鋭たちだ。
「ミレーヌ様ぁ。ちょっといいですかぁ」
「ゴーサイン出したら、しゅぱっと消えてよ。居座られるとすごく気まずいんだけど」
火消しの司令室。一人残されるはずのミレーヌの前には、のへーっとした寝ぼけ顔の少女が残っていた。
サリエリという名で、血統上はミレーヌの従妹にあたる。
さらさらと流れるような銀髪も、神秘的な金色の瞳も、じつによく似ていたが、ぼけーっとした間抜け面のためあまり血縁だとは思われない。
「でぇ、「間に合えば良いが……」とか、格好いい独り言をいってぇ、悦に入るんですよねぇ」
「ほっといてよ!」
ミレーヌが赤面してしまう。
微妙な悪癖を指摘されて。
魔王の秘書と秘密組織の長官、なかなかにストレスの溜まる仕事なのだ。
ちょっとくらい遊んだっていいじゃない。
「で、なんなのよ一体。もう指令は出したでしょ。あとは自分の裁量で行動しなさいよ」
火消しには、ああしろこうしろという細々とした命令は下されない。問題解決のため自分が最善と信じる方法で行動する裁量権が与えられているからだ。
人を雇うのも自由だし、賄賂などを使って敵に接近するのもアリなのである。
国内に限定されるが。
外国に出向いて、そんなスパイみたいな工作やってたら外交問題になってしまう。
「むしろぉ。リントライトに潜入した方がいいと思うんですよぉ。騒ぎを起こすとしたら、国境線のこっち側じゃなくて、あっち側じゃないかとぉ」
「どうしてそう思うの?」
「ただの山勘ですぅ」
「……いいわ。国外行動を許可します。探ってちょうだい」
ミレーヌが挿入した沈黙は、深くはあったが長くはなかった。
サリエリの勘は、昔から妙に鋭いところがある。
「ただし、枝の一本、葉の一枚も揺らしちゃダメよ」
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