二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!

南野雪花

第39話 ピラン城は本当にあった!

 眼前に広がる光景に、俺は盛大なため息をついた。
 五百年も昔の城が、倒壊も崩落もせずに巍然とそびえ立ってるんだから、ため息の一つもでるというものだろう。

「いや、なんとなくは想像ついていたけどな」

 ミルトの宿場から西進すること二日、ピラン廃城までの道程はちゃんと道があったのだ。
 街道と呼べるほど整備されたものではないが、獣道などとはあきらかに違う、多くの人間が往来しているような道が延びていたのである。

 それを見た瞬間、俺の中ではピラン廃城という単語は、ピラン城へと置き換わった。
 往来があるってのは、まさにそういう意味だ。

「リッチもこの城からきたのかもしれませんね」
「ああ。おそらくな」

 横に立ったミリアリアの言葉に頷く。
 いつの間にか、彼女は副官のような立ち位置になっていた。

 たぶん俺は一人であれこれ考えるより、誰かと議論しながら思考をまとめていくタイプなのだ。ミリアリアとのやりとりはいつだって俺の脳みそを賦活させてくれる。

 あ、なんにも考えてないアスカと、隙あらば横道に逸れようと狙っているメイシャは、作戦立案の話し合いには向かないよ。
 雑談相手なら面白いけどな。

 メグはまあ、けっこう鋭い意見を言ってはくれるんだけど、基本的に発想が殺伐としてるんだよなあ。
 殺すとか脅迫するとか、手口が盗賊ギルド過ぎる。

 あと、自分が積極的に汚れ仕事を引き受けようって姿勢もダメだ。
 仲間ってのはさ、誰かに貧乏くじを押しつけるような集団じゃないんだよ。

 盗賊ギルドではどうだったか知らないけど、『希望』ってのはそういう場所だ。
 リスクがあるなら全員で背負う。汚名も全員でかぶる。そのかわり、名声も名誉も全員で分け合う。
 いつだったかメイシャが言ったように、四人で……今は五人で一つなんだ。

「ピランからミルトまでは人里がありません。だからリッチは配下のゾンビやスケルトンを増やすことができなかったってことですよね」
「それで仕方なく召喚魔法でアンデッドを呼び出したから、やつの魔力はからっけつだったらしい」

 結果だけ見れば間の抜けた話なのだが、戦略としてはまったく間違っていない。
 たかが宿場町に防衛戦力が揃ってるなんて思わないもん。

 普通に考えれば、ミルトの宿場はゾンビに食い荒らされ、住民はみんなリッチの配下になっただろう。
 そのときの怨嗟とか恐怖とか負の感情がリッチのエサになり、やつの魔力は回復どころか増大したことだろう。

 そしてその後は宿場や集落を襲うごとに戦力が大きくなっていく。
 妨害されずにガイリアまで侵攻したと仮定したら、どれほどの軍団になっていたか想像もつかない。

 けど、その目論見は第一歩どころか、半歩目を刻むこともなく失敗する。
 たまたまミルトの宿場に腕利きの冒険者がいたから。
 こんな辺境に、偶然にも。

「これを偶然で片付けられたら、人生すっごくラクですよね」

 そういってミリアリアはアスカを見た。

「考えたって仕方ないっしょ! 運が良かったんだよ!」

 視線を向けられ、人生楽々娘が親指を立ててみせる。
 いやまあ、こういう存在もチームには必要なんだけどね。
 みんなで顔を突きあわせて、どうなんだろうどういうことなんだろうって悩んでいても一歩も前に進めないから。

「難しい話じゃありませんわ。ジェニファさまが啓示を受けただけでしょうから」

 けど、メイシャみたいに最初から正解を知ってる人は微妙です。
 議論の意味がなくなっちゃいます。

 俺とミリアリアが頭を悩ませていた時間を返せって感じですよ。もうっ。





 聖者セージの天賦を持つ者にたまーに降りてくる啓示は、本人にコントロールできる類いのものではない。

 ある日突然、○○をせよとか、○○に備えよとか、至高神の声が聞こえるんだそうだ。
 当然のように理由は説明されないし、それをしたらどうなるのかも教えてもらえない。反対に、しなかったらどうなるのかもね。

 一方的に告げられるだけ。
 ある意味、大変に面倒くさい能力だよね。

 今回のケースでいうと、一刻も早く『希望』をピランに向かわせよ、みたいな啓示があったんじゃないかな。
 もちろん、行った先で俺たちがリッチに出くわすなんて判らない。

「私たちが向かわなかったらどうなっていたんでしょう?」
「そのときはリッチが暴れ回り、何万という人が犠牲になったのですわ」

 ミリアリアとメイシャの会話である。
 怖いわ。
 怖すぎるわ。

「で、これからどうするスか? ネルダンさん。潜入スか?」
「潜入は無理だろ。中がどうなっているかも、どのくらいの人数がいるかも、そもそも誰がこの城の支配者なのかも判らないんだから」

 メグの言葉に肩をすくめて見せる。
 最初の予定では、朽ち果てた城跡で宝探しをするって感じだったんだけどな。
 予定は全部白紙に戻して、なんか新しい作戦を考えなくてはいけない。

 ゆーて、やれることなんて限られるんだけどね。

「正面から行くしかないさ。堂々とな」
「単騎突入!」
「ぜんぜん違うからな? アスカ」

 潜入よりなお悪いわ。
 戦意剥き出しでつっこんで行ったら、間違いなく城門にたどり着く前にハリネズミにされてしまう。

「道に迷った旅人作戦だよ。フレンドリーにおどおどと、中がどうなっているのか偵察させてもらいましょうや」

 アスカの赤毛を撫でながら、俺は仲間たちに笑みを向けた。

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