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ストレインフルアーズ

霧花斬華

違和感の始まり。

カジノ・イデアにベディが来て3ヶ月ほど経った。
体の傷は相変わらずだが、物覚えが良く、仕事を教えたら大体のことはすぐにできる。笑うことは出来ないが、注文を取るぐらいならある程度取れるようになってきた。
(いやー、まさかベディがこんなに仕事できるとは。感心感心。ただ、、、なぁー。そろそろ頃合だなー、、、なんにせよ、平和が続くのはいい事だなぁ〜)
しみじみしながら書類をまとめていると支配人室の扉がいきおいよく開く。
そこにはライフルぽっい袋を持った女性が大変素敵な笑顔でこちらを見つめる。俺も笑顔で見つめ返す。
(平和しゅーりょ〜。殺伐シリアスターイム)
「随分余裕そうだなぁ?えぇ?フール。」
顔の割には牽制するような声で話しかけられる。
「そう見えます?勘違いですよ。一応オーナーなんで、威厳あるように振る舞いたいだけです。」
口はそのままに睨みつける。
和装ノースリーブから伸びる細い腕にはしっかりと射手座の紋章。膝上の袴のスカートに巻かれた帯は前に垂らされ、繊細な牡丹と鞠の柄帯を見せつけられる。
「ケッ随分生意気ゆうじゃかーよォ」
「そうですか?私は出来る限り争いたくないだけですよ?」
「ふん。どうだか。」
「いやいやほんとですって。ですが、、、貴方の能力では私に勝てないのでは?幻惑と狙撃ではどちらが有利か、なんて、考えなくても分かるでしょう?」
「ハッ!夢魔不勢が、私に勝てるとでも?笑わせんなよ。」
互いに意味の無い見栄の張合いをして、フールは少し考え込む仕草をすると、作っていた笑顔を消して
「思っていませんよ。十二星士じゅうにせいし相手に太刀打ちできるほど僕らは戦い慣れている訳ではありませんし、貴方の怖さは昔から姉さんに聞いていますし。」
「ほぅ?私が誰だかも分かってるって事でいいのかい?」
「当たり前でしょう?お噂はかねがね聞いていますから、というか、貴女こそ僕の事よく知っていましたね。」
そう。知ってる。だから全く気が抜けないのだ。
「なんでしたらお名前も言って差しあげますよ、十二星士、射手座のサジタリアス。こっちの方がいいですか?シャルロッテ。」
「ふん。生意気な。まぁいい。来い。アタシのことを教えた姐さんがお呼びだよ?」
私は、僕は、俺は、心底ついてない。




和楼魅外町(わろうみがいまち)、朱天通り。天正美盧屋(てんしょうみろや)
「いや、おかしいだろ。」
フールは眉間をピクつかせ、呟く。
「え?何が??」
ライが聞く。フールは何かが噴火したように、
「お前たちがいることだよ!!なんで全員居んの?!店は?!なんかあった時どうすんの!?」
フールから横一列にコール、ヘルドレイド、ライ、ベディの順で並んで座っている。
ライは楽しそうに、
「まぁまぁ、臨時休業って事で」
「ダメだろ!そんな都合よく出来るもんじゃないの!!」
フールの嘆きにヘルドレイドが冷静に言う。
「さすがに、あね、、、じゃなくて、十二星士に直接呼び出されたら来るしか無い。それが理解出来ないほどあそこの人間は、危機感が鈍ってないよ。」
「だといいが、、、ギャンブラーや中毒のやつはにぶってると思うぞ。」
フールの眉のシワはどんどん深くなり、見てるこちらまで頭を抱えたくなってしまう。
ジャラン。細かい鈴の音が全員の鼓膜を揺らす。それが合図といわんばかりに女の笑い声が部屋全体に響く。
「ライ!ベディを離すな!」
「分かってる!」
フールの焦った声に、全員に緊張感が走る。ライはベディを自分の胸に抱き耳と目を隠した。コールが周りを見渡して四方の襖の隙間から覗かれていることに気づく。
「フール。どうする?ここままだと。」
「わかってる。でもあんまし暴れたくはないんだ。後で何があるかわかったもんじゃない。」
コールに冷静に言うフール。ヘルドレイドは真正面を睨みつける。
(馬鹿女共が。)
シャラン。シャラン。シャラン。シャラン。シャラン。
いちさな鈴の音が一拍づつ近づくに連れて声が止んでゆく。フールも音の正体が分かり、ライにベディを離すように言う。ヘルドレイドとコールも警戒をやめ、姿勢を正す。
「「星乙花魁のおなりでありんす。」」
二人の子供の声が襖の奥で聞こえ、ゆっくりと開かれる。
奥から、豪華に飾られた花魁が一礼して、入ってくる。シャラン。髪に付けられた細かい鈴が鳴る。この部屋の何よりも赤い着物に黄色い帯、下げられた着物から白い右肩が出て、胸元には乙女座の紋章が刻まれている。用意された座布団にに座り、細く白い指を前に綺麗におき頭を下げる。
「ようこそ、はるばるおいでなさりんした。急なお申し出に関わらず、快くお引き受けしていただきありがとうございます。」
鈴を転がしたろうな綺麗な声が静かな部屋に響く。フールは彼女と同じように、膝前に三角で手を置き、姿勢を伸ばしたまま頭を下げる。
三人も小さく頭を下げる。ベディもライ達の見よう見まねで下げる。
「こちらそ。呼んでいただき光栄です。」
二人が頭を上げる。四人も頭を上げ、彼女に視線を集中させる。
「雪華、雪菜、戸を閉めておくんなんし。」
「「はい。」」
色違いの髪飾りをした五、六歳程の子供二人が頭を下げて戸を閉める。
戸が締まりきったのを確認すると、彼女は柔らかく笑った。
「お久しぶりでありんす。今は、、、フールといいんしたか?」
「今も昔もフールだよ。バルゴ姉さん。」
足を崩して、敬語は使わないものの敬意のこもった言葉で話すフール。張り詰めた空気が切れ、肩を落としてそれぞれの楽な体制に入る。
「おや、それは失敬。わっちはてっきり名前が無いもんだと思って腐月なんで名づけちまって、迷惑でありんしたなあ」
口を歪めて、笑うバルゴ。フールは懐かしそうに
「昔より悪い顔になってんぜ?バルゴ姉さん。」
「フッ。お前たちが足抜けして、その後処理の苦労分の嫌味は言わせてもらいんす。わっぱ共。」
「ひー怖い怖い。何が怖いって普段そういうこと絶対に言わない人が堂々と言ってる事が怖い。」
「自業自得とみなんし。」
「へーい。」
「敬語。」
「はい。」
「だいたい、わっちはいつも言っていたでありんしょう、、、」
叱られた猫のようにしょげるフールを見てまた始まったと他の三人は覚悟した。顔を合わせたら必ずと言っていいほどくどくど叱られるフール。遊郭時代、いつもの光景で、そして長丁場になる事が嫌でもわかる。ベディ以外の三人は頭を抱えた。
くどくど話しているバルゴの視線がライの横から顔を出すベディに気づく。ベディはびっくりし、ライや、フールを見てワタワタとしてしまう。
バルゴは新しいおもちゃでも見つけたようにパーッと笑い出す。
「まぁ!なんて可愛い!菓子はいりんす?もっとよくお顔をみてせおくんなし。」
そう言って手招きるバルゴ。ベディはフールを見てフールが頷くといそいそフールの隣へ行く。ベディの背中を押すと、オドオドと前に出る。
「主さんの名はなんというんでありんす?」
ベディは目をキョロキョロと動かして、
「べ、ベディ、、、です。」
「そう。ベディ。素敵な名前でありんすな。」
ベディは、目を大きく開いて、嬉しそうに
笑った。
「ありがとうございます!ご主人様達がつけてくれたんです!」
その笑顔はあまりに純粋で真水よりもすんでいた。だが、その笑顔を見ることができたのはバルゴだけ。フール達は後ろで見ることが出来なかった。
「・・・」
「?」
バルゴはあまりの純粋な笑顔がフール達が産んだのだと思うと嫉妬で当たってしまいそうになった。そっと頬に触れ首を傾げるベディを見つめた。
「本当に、素敵な笑顔をするのでありんすね。」
その言葉に後ろの全員が驚いて立ち上がろうとすると、バルゴのしなやかな指が、下から上へ弧を描くと、隙間などない地面から雪山のような冷たい強風が吹き、体を震え上がらせる。
「おなごに寄ってたかって何をしようとするのでありんす?」
「「「「・・・すいません」」」」
「ベディ。」
「は、はい!」
バルゴはベディの両手を持って
「少しおめかししんしょう。」
「えっ!」
「雪菜、雪華!」
「「はい」」
先程の子供二人が出てきて、ベディを連れてあれよあれよと外に連れて行ってしまった。
静まり帰った部屋にもう一度膝を崩してあぐらをかいてほほづえをつくフール
(まぁ姐さんの側近だし、面倒な事にはならないだろう。)
「んで、姐さん。本題はなんだよ。」
バルゴはフールをじっと見て、小さく笑う。
「フール。ミルラを覚えて、、、」
すすっていたお茶を落とす。緑色のはにごった汁が畳に染みて、シミを作る。
「やめろ。もう、引きずり出すな。」
いつもより数段低い声と殺気がバルゴに向けられる。バルゴも、あとの三人も、一切聞いたことの無い低く、苦し紛れの声。
「フール。わっちは、お前の苦しい過去を引きずり出すことはしないつもりでありんす。ほんざんす。けれど、フール、それにベディや、他の三人にも関わる話でありんす。」
「・・・」
フールは黙って、力を抜いた。小さく頷いて、そのまま俯く。バルゴは悲しそうに目をうつ向ける。ヘルドレイドが冷えたお茶すする。おかげで、焦っていた心臓が少しづつ落ち着いてゆくのがわかる。
(やっと、気持ちが落ち着いた。フール、どうして俺達を、、、いや、それは野暮か。)
優しくバルゴは言葉をかける。
「ココ最近、ミルラが、絶望の魔女が、復活した。と、噂が流れてる。」
俯いていたフールが顔を上げた。三人も身構える。バルゴはそのまま続ける。
「そのせいか、要らぬ宗教が関与し事件を起こしたんでありんす。」
「事件?」
ライが訝しげに呟く。
「儀式でありんす。生贄を出してしまいんして、残虐な、そして無慈悲なことになってしまいんしたのでありんす。死者を呼び出し、信仰を新しく作ろうとした。しかもあらぬ事に成功してしまった。まぁ、その事件自体は帝国兵共がジャンヌ・ダルクの召喚を止められなかったにせよ、それ以上の最悪の事態は未然に防いだのでいいとして。」
(良いのかよ。ジャンヌ・ダルクって、、、嗚呼。まぁ、都合は良いか。クソが。)
フールは内心が少し落ち着き、小言を心で言う。
「ただ、そのせいでその残党共が裏で好き勝手にやっているのでありんす。ほんざに、塩次郎(自惚れた人の事)共が多くて困るでありんす。」
今まで黙っていたコールが
「それで。結局。絶望の魔女と。なんの関係が。あるの。本題に。入れてない。」
「その直後から、絶望の魔女の目撃証言、が格段に上がったのでありんす。」
「でも。セライラが。動く。」
「もちろん。彼女が動くのも真っ当な話。ただ、もう一人のミルラが居るのがわかりんしたんでありんす。」
「もう一人?」
「ミルラの魔力を持っている子とでも言ったら伝わるでありんしょうか?其方なら、まだ、、、」
フールが口を出した。
「絶望絶望言ってるが、ミルラは希望の魔女だ。アイツが何かの、誰かの希望出なかったことなんてないぞ。」
「今いる、ミルラは絶望の魔女。フールの知っている希望の魔女のミルラはおりんせん。それを伝えるために呼び出したのでありんす。」
「ハッ!笑えるなぁそれこそミルラが言ってたぜ?絶望も希望もさして変わらない。両方がなくては両方は成り立たない。ってなぁ。」
ヤケになったように笑うフールに対し、心配そうに呟くライ。
「フール。」
「だから、絶望だけが復活するなんて有り得ねぇんだよ!ミルラの絶望だけがそうなったとしても、必ず希望がいちさな目を出してるはずなんだ!!」
そうだ。そうだよ。言ってんだよ!他の誰でもないミルラが!!絶望の数が多くても、そこに刺される光は太陽よりも眩しく尊いものだと!言ったんだ!だから、俺は、信じなくちゃならない。絶望だけが復活してないことを、希望がいる事を!
(馬鹿らしいよなぁわかってる。死んだやつが蘇るなんて、ダメに決まってのに、ないと決まってんのに、ヤケになってる俺がいる。俺が、居るんだ。だから、、、)
「信じないぜ。姐さん。ミルラが絶望の魔女として復活した事を。信じない。」
フールの澄んだペリドットの瞳がバルゴに向けられる。過去の自分の中には何処を探しても焦点はあっても何かを見ることのかった目が綺麗に澄んで、自分に向けられることが嬉しく思った。
「そう。フール。そう思うならそうしなさい。貴方が好きなように。けれど、必ず向き合って。逃げてはダメよ。」
爪の長い細い指がフールの頬をつつみ、暖かい体温を伝え、バルゴの顔とフールの顔を近づけ互いの額に触れされる。初めて聞くバルゴの標準語に戸惑いを隠せない全員に構わずフールに笑顔を向ける。
「「ご準備が終わりんした。」」
フールから手と額を離し、襖の方を見て
「入りなんし。」
襖が開かれ、着物を着たベディがオドオドしている。ベディの姿に全員が見蕩れた。いつも編み込みのハーフアップにして腰ほどまで垂らしている髪をまとめあげ、朝顔の白と薄紫の着物をまとい、それを青い帯で閉め、金魚の帯留めを着いている。手には白いレースの手袋をつけてベディの傷が全体的に見ても全て隠れて傍から見ればただのめかしこんでいる少女にしか見えない。最近まともな食事を取っているおかげで拾った時の肉の無い肌では無く、モッチりとした年相応の肌になってその上にされた化粧がより愛らしさと大人びを見せた。
(いやー、ベディダイヤの原石すぎる。もうこれダイヤレベルじゃなくね?それこそベディの目みたいなアレキサンドライトぐらいの価値はあるのでは??)
フールはベディを見て思った。だが、当の本人はこんな物は似合っていないと、首を振る。
不意にフールが
「バルゴ姉さん、この着物いくら?」
細い人差し指を顎において、いたずらっ子のように言う。
「わっちと同じくらいと言ってやろうと思ったのでありんすが、、、ベディの可愛さに免じてタダでくれてやりんす。」
「うわ〜、とんでもなく恐ろしいことが聞こえた。」
「ふふ。ベディに感謝でありんすな。」
「ほんとにそうだよ」
因みに、現ナンバー1花魁と同じ値段となると、イデアを売ってもまだ借金が出来るぐらいと思っていただきたい。
ベディは会話を聞いて首を振って、貰えないと、必死に拒否をする。ライが
「なんで?とっても似合って可愛いのに。姐さんもくれるって言ってるし、貰ったらまた可愛いベディを見れて嬉しいなぁって思ったんだけど、、、ダメかな?」
ライの少し回りくどい言い方にヘルドレイドが
(素直に似合うから貰って欲しいっていえばいいのに。)
と思った。
はた聞いていれば全く回りくどくないが、夢魔であり、元花魁であったフール達からすれば大分に回りくどく、例えで言えばお得意さんに自分の欲しいものをねだる時のようなもの。と言えばわかりやすい。
「また、着ることを、許してくれるの、、、ですか??ご主人様、、、」
思いもよらぬ言葉に一同が口を開ける。バルゴは
フールに目線をやると少し頭を抱え、コールに目をやると黙って、ベディを見つめていた。ヘルドレイドはなんとも言えなさそうに口を噤んで、いライは困ったように笑って
「良いんだよ。むしろ沢山来て欲しい。そうしたら着る度にデートでもする?」
ベディの頬を撫でながら言う。それでもベディには何を言ってるかわっていないらしくただ焦点の合わない目で見つめて、首を折るだけ。
「ま、前のご主人様は、べ、ベディ達にこういう風に綺麗なものをくれて、気に入ったものから目の前で燃やして、、、」
ライはまだ言おうとするベディの小さなくちびるを人差し指で塞いだ。ライは、俯いたあと笑いかけるとベディの耳に唇が触れるくらいの近さで囁いた。
「ベディ、前の主人の事は忘れていいよ。いや、違うな、前の主人なんて忘れて僕達に夢中になって?」
流石のベディも体をビクつかせ、顔を赤くする。
「あはは、可愛い。そっちの顔の方が好き」
耳たぶをかもうとした時、ヘルドレイドが後ろからライの首根っこを掴んで、自分の方に引く。
「そろそろやめろ。熱が入りすぎた。ベディに当たるな。」
「っ!ご、ごめん。ベディ、大丈夫?」
ベディは熟れたリンゴの様に真っ赤になって、目をぐるぐるとしていた。
「だ、大丈夫ですぅ、、、」
フールが
「そろそろ行くか。でないと夜がふける。姐さんもそろそろ忙しくなる頃だろ?」
チクチク鳴る時計を見て頷くバルゴ。
「そうでありんすな。では、雪華雪菜、着替えさせて荷物にくるんでやりなんし。」
そういうと雪菜が細かい足取りでバルゴに近づくとバルゴに耳打ちをした。バルゴは一瞬眉を潜ませ、深く考えるように人差し指を唇につけた。
「そうでありんすか。分かりんした。ベディの着替えを。」
バルゴの言葉に驚き、でもっ!と声をあげるが大丈夫となだめる。雪菜はチラリとフール達を見て訝しげに眉をひそめた後、お辞儀をしてベディを連れていった。襖を閉める際、雪菜と雪華は顔を出してべーっ、と舌を出して出ていった。
その様子を見てヘルドレイドが
(あれ、俺らがやったと思ってるんかな?)
と、思った。そして見事に的中した。
「さて、フールでも誰でもいいからベディは一体どこで買ったんでありんす?」
「買ってない。貰った。テーゼから。でも。オークションで。売れ残って。たって。言ってた。前の。主人が。屑。らしいって。聞いた。」
コールがフールが言おうとした先に言った。フールに向けていたからだをコールに向けバルゴは言った。
「ほう。万が一にもないと思うでありんしょうが、ベディの体の傷は、間違ってもつけてないんでありんすね?」
「「「「絶対にない。」」」」
全員が息を合わせもしてないのに揃えて言った。
「そうでありんすか。安心しんした。しかし、随分と虫酸の走る人物でありんすな。ベディの元の主人と言うのは。」
ライが握りこぶしに力を入れながら言った。
「はい。心から消えればいいと思います。」
フールも怒りを孕んだ声で返した。
「そうだな。俺もそう思うよ。傷だらけにしただけでも殺したくなるってのに、あんな身体にして。一生なんて生ぬるい傷つけやがった。」
「探しておりんすか?」
バルゴは不意に質問を投げかけた。フールは首を振って、
「いいや。探してはいない。変に探し出してこっちの動向がバレるのもやだし、何より、オークションでは逃げ出して、行方不明ってことになってるらしいから、、、のたれ死んでるぐらいに思ってもらっておいた方が無害だと思うし。もう捨てた奴隷に興味はないだろうし。大丈夫だと思って」
バルゴは頷く。
「そうでありんな。ではベディの件とは全く別にわっちらが潰してもいいでありんすか?」
フールもヘルドレイド達も頷く。
「ご自由に。俺はどうでも。」
フールの返答にバルゴは頭を肩ごと上下した。
低い声が愉快そうに割り込んだ。

「随分と楽しそうな話をしてんじゃねーかよ。」


全員が声のした方を見ると、薄紫髪のこんの着物の男が寄りかかっていた。

「俺も混ぜてくれよ。」

黒い眼帯を髪の間から覗かせ、逆の目から黒い吸い込まれそうな目に睨みつけられ背筋がゾッとした。ライのは呟いた。

「十二星士、現在実質上トップ。王の暗殺者、スコーピオン。」

冷や汗をたらし仲間らがなにか行動をしないか、気を張る。その姿が面白いらしく、サソリは笑った。
「ハッ!そんなに身構えなくても、取って食いはしないよ。安心しろ。」
「は、はぁ?あの、何をしに来たんですか?」
あまり喋らなかったヘルドレイドが聞く。
「何って、さっき面白そうな話をしてから。殴り込みにでも行く算段でも立ててたなら、お供するぜ?最近忘れられがちだが、俺は戦闘狂でなぁ?たまには暴れねぇと体が鈍っちまう。」
(戦闘狂ってわすれられるもんなん??)
フールの内心のツッコミは聞こえる訳もなく、少しため息を吐いて、
「そ、そうですか。お、じゃなくて、私達はそんな物騒なお話してませんよ。ご期待に添えず申し訳ありません。」
(この口調、さっきとはうって変わりすぎだろう。本性何考えてるかわかんねータイプって奴だな。)
サソリはフールの隣に人一人分空けて座ると、フールの胸ぐらを掴んで自分に近づけた。
(あ、俺死んだ。怖え。ちょ〜怖えーまじちょっと見ないで?その辺のヤンキーみたいな脅し方されてるけど、眼力が尋常じゃね〜。)
フールはもうされるがままだった。
「俺はアル。間違ってもサソリって呼ぶなよ。」
静かに言われた。だがフールの内心は全くもって静かでは無かった。
(自己紹介かーーい!いや!この眼力で?!これで!?巫山戯んなや!ややこしい!その場で名乗れよ!その場で!!わざわざ近づく執拗あるかね!?名前名乗るのにこんな肩ぶつかった不良みたいな方法とるなや!心臓止まるわ!!ドアホ!!ばーか!脳筋!!)
「心得ます。」
「おう。」
笑って離すアル。そしてフールが次の言葉を言う前にアルが
「お前その口調やめろ。気色悪い。」
(はァァァァァ!暴言!!この人暴言言いましたよ!しかもサラッと!本人に!酷い!!まじこいつなんなん!)
と、JK化みたいな口調になるくらいにフールの内心は荒ぶりに荒ぶっていた。
「じゃあおのぞみ道理やめて差し上げますよ。おめぇ表出ろやゴラァ」
「おーおーいいねぇそれぐらいやってくれると嬉しいよ。いいよォ出てやるよ」
アルは腰に着けた刀の鯉口に手をかける。
フールもベストの内ポケットに手をかける。
両者とも本気で戦う気でいる。部屋の隅でバルゴとヘルドレイドとライとコールが円になって相談する。
「お主ら、どうにかできんのでござんすか?!このままではわっちの部屋が壊れるでありんす!」
三人で首を振る。
「「「無理無理あのフールを止められるわけない!」」」
「情けないでりんす!」
ヘルドレイドが
「いやいや無理やて!姉さんも知ってるしょー!あいつ怒らしちゃあんやつナンバーワン!」
ライも続いて
「ヘルドレイドの言うとうりですって!あれ止めるとしたら俺らやて無傷じゃすみまへんって!」
コールも
「あれは。諦めた方がいい。死にたくない。なら。」
「それはわっちらも同じ思いでありんす!!アルなんて転婆であっても容赦無しでありんす!」
アルの刃がフールのことを真っ二つにした。フールの姿が陽炎のようになって消えた。
驚いていると、フールが背後から出てきて、細く光る針をアルめがけて殴る。それを間一髪でかわす。
「へぇ。それがお得意の幻惑?いいねぇ。切りがいがあって興奮するよ。」
「ハハ!俺もそう思うよ!」
次の攻撃に繰り出そうとした時、冬風が吹いて二人を部屋の端に飛ばした。アルの前にバルゴが立ち、フールをヘルドレイドが受け止め、コールとライが横から腰に抱きついて結構な力で抑える。
「二人ともやめなんし。誰がわっちの部屋を壊していいと言ったんでありんしょう。」
フールとアルがギクッと体がを硬直させる。
「あ〜悪かった。そんなつ、つもりはなかった。」
「ほんざんす。これ以上損害がでんしたら、ヤヨに言うでありんすよ?」
バルゴはイタズラっぽく笑うと、アルは両手を上げ、首を振った。
「降参だ、降参。ヤヨにバレたら面倒だ。」
一方フールは暴れ回っている
「あ゛ぁ゛ん!何言ってんだゴラァ!おめぇからふっかけてきた喧嘩だろうが!!」
ヘルドレイドが、
「やーめーろ!!もうすぐベディが戻ってくんのに!!」
ベディ、と聞いてフールも静まる。大丈夫そうだと判断して三人はフールを離した。それを見てアルは楽しそうに言った。
「そっちもお転婆娘でもいんのかぁ?お互い苦労するこって。」
フールは静かに言った。
「いや、、、うん。そうだな。いるよ。雑に触れたは壊れるぐらいにはか弱い子だけど。」
アルはフールの言葉になにか心当たりがあるような反応を見せると、納得いったように立ち上がった。
「あーあー。そっちも同じか〜。はぁ。さっきの事は謝ってやる。今度こそ、間違えねぇといいな。」
「は?今度こそってなんだよ。」
アルの言葉に訝しげに反応するフール。アルは大きくため息を吐いて、そうだった、と前髪を掻きむしる。
「お前は、知らねーんだったなぁ。何でもねーよ。頑張れ。」
「いや、だから何だ、、、」
立ち去ろうとするアルにフールが呼びかけると金髪ボブヘヤーの和服の少女がベディと一緒に入ってきた。
「アルー!おはよ!」
「こんばんわだよ。何時間寝てんだよ。」
「私の推測では1時間ぐらいのお昼寝とみた!」
「5時間だ。」
「えぇ!!そんなに!夜、寝れるかなぁ!?」
「うるせぇ。」
「あ、この子さっき見つけたお友達!」
金髪の少女がベディと繋いだ手を前に突き出して紹介する。オドオドしながら言葉を詰まらせるベディを無視して話を続ける。
「この子ね、すごく可愛いでしょ!五分前くらいに友達にした!」
アルは心無しか疲れているように見えた。ベディに申し訳なさそうに頭を下げる。ベディは首を振って楽しいです。と答えた。バルゴが話を割って入る
「ヤヨ、申し訳のうござんすが、、、その子はこれから帰る子でありんす。」
「えー!そうなの?」
あからさまにしょんぼりとする。ベディはえっと、と助けを求めるようにフール達に視線を向ける。コールがフールに耳打ちをして、フールがそのつもりだ、と答える。
「なぁに、また来ればいいさ。なぁ?」
と、黒い笑をアルに向け、呼び掛ける。アルもはぁとため息を吐いて、
「わかったわかった。好きにしていいぜ。俺達は迎えてやるよ。今ここに宣言する。」
「契約書。あと見せて秒で入れるようにして。」
またため息を吐いて、青筋を立てながら
「送っとく。」
「ため息ばっか吐いてっと不幸になるぜ?」
さっきの仕返しとばかりに意地悪を言うフール。「いつか覚えとけお前。」
何も知らない者見れば小さい子同士の喧嘩のように見えるが、二人実力を知っているものが見れば背に冷や汗が伝う。
ヤヨがベディと繋いだ手を離してヘルドレイドに小声で話しかけた。
「ねぇねぇ。」
ヘルドレイドは膝をつけて口の前につけた小さな手に耳を置く。
「ベディは、昔どこにいたの?」
「え、、、?」
予想外の質問に戸惑いを隠せないヘルドレイド。そのうえ詳し事をどう説明すればいいのか分からず、言い淀む。それが伝わったのか、ヤヨは付け加える。
「あのね、ベディ、怖いって感じ無いらしいの。」
「な、なんでそう思うんですか?」
「えっと、ベディにお腹の事を聞いてもなんでもないみたいに話すから、、、。私、あんなふうな身体になった子知ってるから、、、その、その子とは全然違う。すごく泣いてたのに、、、」
ヤヨの´ あんなふうな体になった子を知ってるから。`という台詞にも驚いたが、ベディがなんでもないように話した、という方に驚いた。ベディの傷はここ2、3年程度のものが多いが、あの傷は最も大きく、古い方だった。少なくとも6年前のものだと推測できていた。ベディがそんなに早くから感情を失っていたのかと思うと、、、苛立ちと嫌悪と同情が入り交じって上手く笑えなかった。
「そうですか、、、昔何処に居たかは、、、僕らにも分かりません。」
貰った着物が包んである風呂敷を抱きしめながら、嬉しそうに顔を赤らめるベディにヘルドレイドは視線を移した。笑顔のない可愛らしい顔に嬉しそうに眉をひそめる姿が余りにも哀れで、守りたくでしょうがなくなった。
「ベディ、を、、、傷つけないでね。私の初めのお友達!」
ヤヨはベディの話を聞いてる限りそんなことは無いと確信しているが、念の為のように釘を刺す。ヘルドレイドは片膝をつき、頭を下げ、答えた。
「必ず、約束します。なので、ご安心を。」
ヤヨは安心し、舞台の上で踊るように回る。赤い着物の振袖が美しく舞う。先程と同じようにヘルドレイドに向き直ると、胸下のベルトから伸びる茶色の膝下丈のスカートの端を摘んで少し持ち上げる。それと同時に頭を下げて、片膝を軽く曲げる。
「ありがとうございます。」
そう丁寧に言うと、体制を戻して首を少し傾けると、両耳前にある草花結びの髪飾りが揺れる。




店から、華街門までの道中。
ベディとヤヨはずっと手を繋いでいる。前を歩くフールとアル。あとの三人はベディとヤヨを挟んで、後ろにおり、バルゴと話していた。
ずっと無言でいたアルが、フールに話しかけた。
「お前、、、俺にあった事ねーか?」
「あー。陰間でいた時にすれ違ったことぐらいはあんるんじゃん?」
アルの問にうんざりしながら答えたフール。それでもアルの訝しげな表情は治らない。
「違う。そうじゃない。」
「それじゃあ思い違いだな。それ以外だったらアルが一方的俺を見た事がある、、、とかぐらいしか思いつかないな。」
「それも違う。」
「じゃあなんだよ!」
「なんて言うか、あっているという、確信はあるのに、、、記憶が無いんだ。」
「はぁ?意味わからん。頭大丈夫か?」
「うるせぇよ。俺も気持ち悪いんだよ。むしゃくしゃする。」
「うーんまぁ、気持ちはわからなくもないけど、、、」
「じゃあ、、、」
アルの言葉を遮るフール。
「俺は、ベディを拾った理由が分からない。」
思いもよらぬ言葉に目を大きく開き、口をあんぐりと開ける。
「は?」
「いや、だから、、、」
もう一度言おうとするフールを止め、片手で頭を抑える。
「おい、いや、うん。何も納得できないことが分かった。」
「はぁ?!それを言うならお前もよく分かんねーよ!」
「お前ほどじゃねーよ!」
「は?!同じぐらいだろうがっ!」
「違うわ。なんだよ、そっちの方がおかしいだろ。拾った理由が分からないなんて、、、そんなん、同情か、好みだったかぐらいしか無いだろ。あとは勿体ないとか。」
「・・・、違う。そうだけど、違うんだ。」
「何が。」
「ベディを初めて見た時、なんだなか、見つけたって思ったんだ。ようやく見つけた、、、みたいな。傍に置かなきゃ行けない様な気がして仕方がなかった。だから拾ったんだ。」
アルは少し、口をくづんだ。
アルはフールが何を言っているのか分からなかった、が、この相談を見た事がある様な気がした。脳髄では認識していない記憶がずっと胸の内で騒いでいる。という確信が確実にあった。
(気持ち悪ぃ。何がわかんねぇって言うんだよ)
ベディとヤヨのこともそうだった。二人とも元々孤独な存在で、仲良くなるなんてことはあるはずが無いのだ。同じ境遇であったことだけであそこまで仲良くなるのは可笑しいのだ。ヤヨもベディも初対面にはだいぶ警戒心を持つ。たが、最初からベディを知っているように振る舞うヤヨに違和感を超えて嫌悪さえ抱いていたが、フールの話と自身の違和感に結びつけて考え、
(まさか、、、)
一つ仮説ができた。アルはその仮説を話すそうと口を開けるが、ベディとヤヨの笑い声が聞こえ、
諦めたように口を戻す。もう一度口を開いて、
「はっ一目惚れってやつじゃねーの?くくっ」
おちょくる様に言うアルにまたカチンときたフール。
「あぁん?なんだよさっきまでしょぼくれてたくせに何いきなり元気になってんだよ!」
「さぁな?なんの事やら。」
「うっざ!」
先程の事がなかったように両手を振って、フールをからかい始める。だが華街門に着いてしまった。大きな鳥居の前に二人は立ち止まる。アルが
「んじゃあ、俺はここまでで。」
「んあ?嗚呼。」
バルゴが鳥居ギリギリの所にたち、膝をまげ、少し顔をうつむける。コール、ヘルドレイド、ライ、ベディはそれぞれお礼という。バルゴはにっこりと笑い、細くしなやかな手を振る。
ヤヨとベディが、また会おうね、と言い合って、楽しそうに手を離す。
4人が歩き始める。フールが先程のように子供っぽい様な雰囲気が消え、
「じゃあ、また。」
優しく笑う。いつものような、作っている雰囲気ではなく、素直な笑顔だった。
アルはその事がわかったのか、フールと同じように優しく笑って、
「嗚呼。」
と、答えた。
フールは踵を返し、四人に駆け寄った。それを見届けると、アルも踵を返し、ヤヨに聞こえない声でバルゴに命じる。
「バルゴ、命令だ。カジノ・イデアについて早急に調べろ。特に、ベディについて。徹底的調べろ。」
バルゴは頭を下げて、
「あい。それについては何一つ異論はありんせんが、理由を伺ってもよろしんすか?」
バルゴの問にぶっきらぼうにアルは答える。
「念の為だ。やな予感がする。」
バルゴの髪飾りの細かい鈴がシャランと鳴る。
「あい。」




カジノ・イデア
フールの自室のドアにベディの小さな手が二回ほど打ちつけられる。
内側から、誰?、と返答があり、ベディが、自分の名前を言う。すると、
(空いてるからおいで。)
と優しく声がした。言われた通り、ドアノブを回して入ると、大きな出窓に白い陶器のマグカップを持ったフールが座っていた。月明かりが照らし出すフールは幻想的で、絵本の中で、お姫様を悪い魔法使いから助けに来た王子と様だと言っても過言ではなかった。けれどもベディはそんな絵本は知らない。だから、微かな記憶で見たと言った。オークション会場で売られていた二枚羽を持つ小さな妖精。それを思い出した。
「妖精さん?」
ドアを開けて突然言われた言葉に驚くフール。
「ふふ。妖精か、、、。そうだけど、ちょっと違うかな?」
出窓から降りて、マグカップを置き、ベッドに腰をかける。隣に座るようにベディを誘導した。
「違うんですか?」
隣にちょこんと小さく座るベディ。
「うん。俺らは夢魔っていう奴だからね。夢の妖精だけど、女の子の悪魔なんだよ。」
ベディは首を傾げる。
「ご、フール様は女の子なんですか?」
フールは、ふふっと笑って、ベディを抱き寄せ、頭に口付けをする。
「違うよ。女の子にとっての悪魔なんだよ。みんな怖いっていう悪魔なんだよ。」
どこか切なそうに言うフール。ベディはフールの胸に頭を擦り寄せ、静かに否定する。
「ベ、ベディは、女の子、、、なのか、わからないですけど、でも、ベディにとってはフール様達は大好きな妖精さんです。」
自信が無いように言うベディ。フールは優しく笑って、腰を抱き、口付けした頭に頬を擦り寄せた。
「馬鹿だなぁ。ベディは。君は女の子だし、俺らに大好きななんて、他の奴らが聞いたら目を覚ませって言うだろうね。」
「もしそう言われたら、ベディは、怒ると、、、思います。」
「ほんと?ありがとう。ベディ、お風呂上がり?」
「はい。」
「そっかそっか。じゃあみんなの抱き枕から結構早く解放されたんだね。」
直前まで三人に交互に抱かれたり、撫でられていたりして、目がぐるぐるしていた。
それが終わり、風呂上がりにライからフールの部屋に行ってみるといいと言われて来たのがここに来た経緯であった。ベディ自身は疲れることは無いが、甘やかされるというような状況が未だに慣れず、精神的に参っていた。
「はい。びっくりしました。皆さんどうしてあんなにぎゅっとしていたんですか??」
「ははっそうか。ベディは存在は知っていても知識は一切ないっていう、結構レアな子だったね。だからさっき俺の事を妖精って言ったのか、、、なるほどね。」
「えっと、、、ごめんなさい」
何も知らない事を責められていると勘違いしたベディは謝罪し、フールは違うと笑う。
「ふふ。何も責めてないよ。状況を確認しただけ。俺達夢魔っていうのは女の子をたぶらかして、元気をもらう悪魔なんだよ。」
「たぶらかして?」
「うーん、騙すとか、惑わすっていう意味だよ。まぁ、そんな事はどうでもいいよ。俺らはベディの手を握ったり、髪に触れたり、抱き締めたり、膝の上に乗せたり、頬にキスしたりして元気になるんだよ。だから皆ベディの事を抱きしめるんだよ。」
言いながらベディに同じことをする。膝に乗せる時はベディが猫のように見えて少しクスリと笑う。ベディの腹に手を回し、優しく撫でる。
自身の手の感触の中にあるはずの´ ´ 臓器の一つ``が無い違和感に苛まれながらベディのへそのした。当たりを撫でる。その手の上にベディの小さな手が乗り、虚しさが増幅した。小さな肩に頭を擦り寄せ、ポツリと呟いた。
「眠りたく、無いな。」
フールの思いもよらぬ言葉に驚きが隠せなかった。フールの上に乗せた自分の手に力を入れる。
「ご主人様。」
人形のように何も映さなかった焦点の合わない目では無く、確実な意思の籠った無邪気な瞳がフールに向けられた。
「ベディに、何か出来ることがあれば、なんでも言ってください。なんでも、、、何でもします。」
ベディの無知なりの言葉だった。そしてここで言う何でもは本当に何でもである。命令であれば自ら命をたつことも、他者を殺すことでもいとわないつもりであった。もちろん、生きることも。
その命令が来るまで、来たとしてもそばにいるという事を自身の立場では言うことが許されないことを理解しているからこそ、要らぬ回りくどい言葉を使ったのだ。フールはベディの心内を知ってか知らずか、優しい笑みはそのままに
「ありがとう。」
と返した。フールはベディを自身の膝から下ろし、背中を優しく押した。
「ベディ、もうそろそろ寝た方がいいだろ。」
「はい。、、、あの」
「ん?」
マグカップの中身をすすりながら視線を寄せる。
「また、明日も、、、来ても、、、よろしいですか?」


フールは笑って、

「うん。おいで。」

ベディはドアを開けながら、

「おやすみなさい。フール様。」

「うん。おやすみ。」

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