Cross Navi Re:〜運命の交差〜

noah太郎

3-60 心の死


秋人とミウルは目を疑った。
今まで目の前にいたクロスが、突然消えたのだ。


「なっ…どこへ…」

「…あそこです。」


辛うじてクロスの動きを捉えていた秋人の視線の先に、真っ直ぐと立ち、うつむくクロスの姿があった。


「何が起きたんだい…?」

「…さぁ、突然消えたので…」


そう話しつつ、秋人はクロスへの警戒を解いていないようだ。ミウルはそれを感じて、クロスに目を向けた。

俯いたまま動かないクロス。
しかし、少しずつゆらゆらと左右に揺れ始めた。


「なんだい…?あいつは何を…がっ!!」


ミウルそこまで話した瞬間、突如として彼が吹き飛ばされた。秋人は何が起きたのか一瞬分からず、ミウルいた場所に顔を向ける。


「よう…第二ラウンドと行こうか。」


そこには、先ほどとは雰囲気がまるで別人のクロスがいたのである。


「……っ!」


秋人は寒気を感じた。
そして、本能的に両手に法陣をまとい、クロスに向けてそれを放ったのだ。

目の前で直線上に大きな爆発が連鎖していく。

まともに受ければ、跡形も無くなりそうなほどの爆撃により、広間全体が大きく揺れた。

さらに驚いたのはルシファリスたちだ。
秋人がクロスを圧倒し、安心し切っていた矢先にミウルが吹き飛ばされたのだ。


「何が起きたの?!」

「わかりません…突然、奴が移動したかと思えば、ミウル様が吹き飛ばされました…」

「あいつ…力を隠していたようには見えなかったけど…」

「ですな…しかしながら、アキト殿のあの威力の法陣を受けたのにも関わらず、彼は余裕のようです。」

「あんな不自然に強くなることあるわけない…何かやつにあったはずね…」

「……」


ルシファリスとクラージュが話す中で、アルコは何かを考えるようにクロスを見ていた。


「カカカカカ…やっと本気を出してくれたな。」

「……」


渾身の一撃だったが、見事にかわされた。あの至近距離で避けるとは…

秋人はすました表情のままでいるが、内心は動揺していた。


(なんだよ、こいつ…さっきとはまるで別人じゃないか…!!)

「今の攻撃は良かったぜ…次も楽しみだな!!」

「……っ!!」


言い切った瞬間に目の前に現れるクロス。秋人はクロスが放った拳をガードしたが、勢いを殺さずに後ろに吹き飛ばされた。

なんとか足で踏ん張り体を止めるが、クロスは更に追い討ちをかけてくる。

クロスの右足による蹴りが、秋人の頭めがけて一直線に飛んでくる。それを左手で防いだ秋人は、右手で法陣を放った。

しかし、クロスは体を捻って、秋人に掴まれた右足の拘束を解いてそれをかわす。

放った法陣が空振りに終わり、悔しそうな表情を浮かべながら、秋人はクロスへ攻撃をしようとするが、突然目の前にクロスの足の裏が見え、咄嗟にガードした。


「……っちぃ!」

「カカカカカ!楽しいぜぇ…そう思わないか?」

「…思うわけ…ないだろ」


秋人はそう言うと、自分から仕掛けた。
クロスもそれを見て、楽しげに応戦するのであった。





秋人とクロスが戦いを続けている時、春樹の意思は秋人の心の中にいた。

秋人の心にある辛い記憶をゆっくりと受け止めていたのだ。

秋人の心は黒い渦に飲み込まれていて、真っ黒だ。
渦の中には辛い記憶が蔓延し、少しずつ彼の心を蝕んでいる。


イジメに対する怒り…
人に対する憎悪…
引きこもりになった惨めさ…
親への罪悪感…

幼馴染みへの後ろめたさ…
自分への怒り…
社会に対する絶望感…

そして、死に対する羨望。


心がさまざまな感情に変化しては、小さく縮んでいく。


(ここは秋人の心の中なんだ…)


春樹の意思はその渦へと近づいていく。
そして、その一部にそっと触れてみると、辛く悲しい感情が春樹に流れ込んできた。

こんなに辛い思いを一人で背負っているなんて…

春樹の目から涙が流れ落ちる。

人は誰しも孤独では生きられない。
みんなが誰かと繋がっている。

そうでないと生きていけないのだ。

孤独の先に待つものは、自分自身の死。
肉体ではなく、心の死だ。

死は誰にでも訪れる。

死は生きている限り、常に人に寄り添っている。

ミウルが以前言っていた"家路に着いたものを優しく迎え入れる存在"というのは、間違ってはいない。

人は人生という長い旅路を経て、最後に死の待つ家に帰り着くのだから。

しかし、心が死ねば家に帰るための道がわからなくなる。そして、家に帰りつけずに途中でのたれ死ぬのだ。

秋人はすでに帰り方を見失っている。
このままでは、彼には悲しい最後しかないだろう。親にも友人にも会えずに、本当の気持ちを話せぬまま、死んでいくことになる。

そんなことは看過することはできない。
春樹はそう感じた。

春樹はそっと手を伸ばし、再び渦に手を触れた。

悲しさ、苦しさ、もどかしさ、悔しさ…

いろんな感情が春樹に流れ込んでいく。


(ひとりでこんなにたくさんの辛い気持ちを背負い込んで…秋人、今の俺は君と一緒だ。俺も君の気持ちを一緒に背負うよ…)


春樹は目を瞑ると、自分の意思ごと渦に飛び込んだ。

そして、春樹は秋人の核心を探して、その一つ一つの心をゆっくりと受け止めていった。

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