Cross Navi Re:〜運命の交差〜

noah太郎

3-56 繋がれる想い


暗い…闇が支配する空間を、春樹はただ一人歩いている。

光や方向感覚さえ失われ、どこへ向かって歩いているのかさえわからない。


ーーーここはどこだろう
ーーー俺は何を…


何もわからない。
何度も同じ思考を繰り返し、ひたすら歩き続けている。

どれくらいの時間、歩いているのだろうか。まるで、悠久の時が流れたかのような感が春樹を支配している。

しかし、いつからここにいるかも覚えていない春樹の心の中に、ただ一つだけ…留まっているものがあった。


ーーーーーーー守らなければ…


誰をだろう…
何をだろう…

だが、たしかにその意思は存在していて、何度も何度も、心の中にこみ上げてきては、静かに消えていくのだ。



ーーーーー守らなければ…

まただ…

















ーーーーー守らなければ…

何を守るんだ…












ーーーー守らなければ…


何度も何度も繰り返すうちに、その意思は春樹の心の中でゆっくりと膨らみ始める。



ーーーー守らなくちゃ…

だから誰を…?














ーーーー守らなくちゃ…

いったい何を守るというのだ…















ーーーー守らなくちゃ…

理由すらわからないのに、なぜ…?


いくら考えても、やはり答えは出なかった。

暗闇を歩き続けていく春樹は、そろそろ考えるのも無駄だと感じ始めた。
そうして再び、無意識の渦に飛び込もうとする。


(……もう……いいや……)


そう思った瞬間に、誰かが春樹に呼びかけてくる。


ーーーー…か…を


微かに響き渡るその声…聞いたことがあるようだが、思い出せない。


(…誰…だ…?)


春樹の心に疑問が浮かぶと、再び先ほどの意志が膨らみ始めたのだ。



ーーーー守らなくちゃ…

誰を…?

大切な人々を…














ーーーー守らなくちゃ…

何を…?

この世界のことを…












ーーーー守らなくちゃ…

なぜ…?

……


その理由には、返事はない。
しかし、春樹の意識は覚醒し始める。


ーーー守る…

ーー守る…んだ。


徐々に意識がはっきりしていく。
守るべきものは、確かにあるのだ。


守る……………


守る………守る……

守る……守る…守る守る守る


強く想いながら、春樹は暗闇の中を走り始めた。


守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る…


絶対に守るんだ!


走りながらそう思った瞬間、それまで暗闇しか存在しなかった世界に、一筋の光が差し込んだ。

まるで、春樹の進むべき道を示すかのように強く明るく輝く一筋の光。

その光の先には、ある少女の姿が見えている。

春樹はその光の方へと手を伸ばすと、力強く前を見つめる。


絶対に守ってやる!

なぜ…?


再び、理由を問いかける声が聞こえてきたが、春樹はもう迷わなかった。


大切だから、絶対に守るんだ!!仲間を!!そして…

ルシファリスを!愛しているから!!


その瞬間、春樹は光の中へと飛び込んだのであった。





暴走したミカエリスに対して、アルコは苦戦を強いられていた。

もともと長い間、戦いの場から離れていたことに加え、先ほどの戦いで力をほとんど使ってしまっていたアルコにとって、魔人化したミカエリスの力は脅威的なものであった。

少しずつ力の差が現れ始めている。

そして、それはクロスと交戦しているルシファリスとクラージュも同様だった。

クロスは強い。
バース一族の中でも、おそらくクロスほど強い者はこれまでいなかったと、ルシファリスは思い返す。

そんなクロスに対して、二人は防戦一方であった。


「おいおい!二人がかりでそれかよぉ〜」


クロスの蹴りがルシファリスを襲う。
ルシファリスは両手でそれを防ぐが、防御に回した腕は吹き飛ばされ、無防備になったところにクロスは流れるように回し蹴りを放つ。


「ぐあぁぁっ!」

「ルシファリスさまっ!…っ?!」

「よそ見してんじゃねぇよ、おっさん!」


ルシファリスに気を取られたクラージュの懐に、クロスは一瞬で移動すると、単純な右ストレートをお見舞いする。

しかし、クラージュは防御する暇もなく、みぞおちにそれを喰らって、ルシファリスと同様に吹き飛ばされた。

それを横目で見ていたアルコは、ミカエリスの攻撃をなんとかいなしながら、現状をどう打破するかを考える。


(私も堕ちたものだ…たかが魔人一人に遅れをとるとは…現状は非常にまずい…な…)

「アルコさまぁぁぁ!とりあえず、死んでいただけるかしらぁぁぁぁ!!」


そう叫びながら、漆黒の双眸を光らせて、ミカエリスがアルコに襲いかかったその時、誰もが予想していなかったことが起きたのだった。





秋人はうつむき、涙を流していた。


「結局…俺は何もできない…」


ミカエリスに負け、記憶を失い、いいように扱われた。
記憶を取り戻しても、クロスには勝てずこうして無様な姿を晒している。

倒れた春樹に視線を移す。
ピクリとも動かない彼の姿を見て、秋人の目には再び涙が浮かんだ。


「春樹…」


無惨にも横たわる彼の覚悟を、秋人は横で見ていた。アルコに胸を貫かれる前の強い眼差しを。


「どうしてそうまでして…うぐっ…」


春樹に近寄りたいが、手足に刺さる黒い棒が邪魔でそこから動けない。
無理に動かそうとして、激痛が走り、刺さった部分から血が溢れ出す。


「ごめんよ…春樹…君を…守れなかった…」


秋人がそうこぼして、再び下を向いたその時であった。

春樹の遺体が白い輝きを放つと、それらが集まって光の柱が立った。

そして、その光は秋人へと吸い込まれていったのだ。


「なっ…なんだ!?」


驚く秋人に向かって、春樹の声が語りかける。


(君に…託すよ。俺の想い…みんなの想いを…傷みを知る君になら…できるよ。)


その瞬間、春樹の記憶が秋人の中に滑り込むように入ってきた。


この世界にきた時のこと…
何度も命を狙われたこと…
暗殺者によって片腕を失ったこと…

ウェルと一緒にした旅、研究所での頑張り、そして知らされた自分の父のこと…

そして、秋人のこと…

自分への謝罪の念と、信じてくれているという春樹の確かな想いが、秋人の心に空いていた穴を埋めていく。


(君になら預けられる…俺ではなく、君しかできないことだ…俺も協力する…だから… 大切なものを守ってくれ!!)


その瞬間、秋人の目に力強さが宿る。
そして…


「わかったよ…春樹…君の想いを俺が…俺が繋ぐから!!!」

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