Cross Navi Re:〜運命の交差〜

noah太郎

3-47 レディファイト!


春樹はびっしょりと汗をかきながら、自分のお腹を触って確認する。

確かに今、腹部を貫かれたはずだ。
何かが腹部を通り抜ける感触もあったし、痛みも感じた。

だが、まるで自分の腹は何もなかったかのようにそこにあるのだ。


(なんだ…今のは…)


推測だが、アルコの殺気による幻覚…いや、脳が強制的にそう思わされたのだろう。

実際にアルコは先ほどとは比べ物にならないくらい恐ろしい表情を浮かべているからだ。


「お前…わたし…を…なめているのか?」

「決して…そのようなことはありません!」


春樹はアルコに向かってそう告げるが、アルコの表情は変わらない。

ジッと春樹を見つめてくる視線には確実に殺気が乗せられていた。


「死に…たくないなら…ここから出てゆけ…」

「いえ!話を聞いてください!!」

「…くどい!!」


その瞬間、地響きとともに自分の目の前で大きな爆発が巻き起こる。

なんとか吹き飛ばされないように、体勢を低くしてそれに耐えると、春樹は再び話を続ける。


「アルコさま!私はあなたを自由の身に…」

「ここは…何人たりとも通さん…絶対にな…行かせるわけにはいかない…」


自分の言葉に被せるように否定してくるアルコに対して、春樹は負けじと懇願し続ける。


「では、理由を教えてください!ここを守る…その理由を!」

「だまれ…黙れと言っておるのだ!」

「俺らはここを通らないといけないんだ!」

「何の…ためだ?世界を…この世界を滅ぼす…か?」

「違う!!そうじゃない!!」


言い合いを続ける二人。
いつしか、アルコは春樹の言葉に耳を傾け始めた。

別に春樹の想いが通じたわけでもない…ただ単に…なんの気まぐれか…アルコは話を聞く気になっていたのだ。

本人もそれには気づいていないが、無意識に質問を投げかけている。


「では…何のために…?この先に…お前が行っても…何もできんぞ。」

「俺は…この世界を守りたいんです!父が…イツキが愛したこの世界を…」

「お前が…か…?どう…守ると言うのだ。」


その言葉を聞いて、俯きかけていた春樹は再びアルコに顔を向けて、声を強めた。


「ミウルを…あなたの弟を…復活させたるんだ!!」


その瞬間、アルコの表情が少しだけ崩れた気がして、春樹は言葉を綴る。


「ミウルを復活させ、ミカエリスを止めたいんだ!」

「……」

「だから…だからお願いします!俺に協力を…あなたの力を貸してください!!」


アルコは口を開かず、ジッと春樹を見つめている。

静けさが、その場を支配している。

アルコの殺気はおさまってはいない。

しかし、先ほどとは違って、春樹に対して別の気持ちも向けているように感じられる。

どれだけ互いの目を見続けただろうか。


先に口を開いたのはアルコだった。


「どう…すると…言うのだ…」


それに対して春樹もすぐに答える。


「もうすぐルシファリスが来ます。彼女を足止めして欲しいのです。」

「それ…で…?」

「その間に、俺はミカエリスとこの先にある法陣の間へ行き、ミウルを復活させます。」

「しかし…奴は…ミカエリスは世界を元の…カタチに戻そうともしておる…私はそれを望まん…」

「ミウルを復活させたタイミングで、ルシファリスがその場に来るように見計らって欲しいんです。そうすれば、ミカエリスは世界を元に戻す時間がなくなる。」

「……」

「ミウルが復活したら世界のことを話せばいい…言いたいことが山ほどあるんでしょ!?」

「…お前まるで…ミウルを知って………そうか…」


アルコは何かに気づいて納得したように目を閉じる。そして、少し何かを考えて再び目を開けた。


「よかろ…う…おまえの策にのって…やる…」

「あっ…ありがとうございます!!」


その言葉を聞いた春樹は、ホッと胸を撫で下ろすが、アルコはまだ話を続ける。


「…だが…お前は…お前はどうする…のだ?」

「俺…ですか…」


春樹は一瞬、考えるように下を向いた。

ミウルを復活させて、この世界を救う。
ミカエリスをとめて、ルシファリスを助ける。

それしか考えていなかった。
自分がどうしたいかなんて…

しかし、少し考えると見慣れた顔が浮かんでくる。


(…そうだ…俺はあいつを…)


少し高慢だが、笑顔が魅力的…
口は悪いが、優しさがある…
強がっているが、一人の女の子…

悲しみを背負った普通の女の子…


春樹は顔を上げる。


「アルコさま…もう一つだけお願いがあります!」


その眼は覚悟に満ち溢れていた。





「もうすぐ着くわ…」


走る竜車の中で、ルシファリスが小さくつぶやく。クラージュとウェルは静かにうなづいた。

やがて竜車はある場所まで止まると、ルシファリスたちはすぐに降り始める。

宮殿とも城塞とも言い難い、大きな建物。窓など一切なく、真ん中にポツンと存在する小さな扉。


「なんか…異様な雰囲気の扉ですね…」


ウェルが率直な感想を述べる。
扉が何か悲しみを放っているような…ウェルはそんな気がしてならないのだ。


「あれは"神扉(しんぴ)"といって、あそこから先は神の世界なの。」


ルシファリスの言葉を聞きながらも、ウェルは扉から目が離せなかった。


「あれは神の心を表しますからな…今はミウルさまとアルコさま、双方の気持ちを表しているのでしょう…」


クラージュがその後ろから話を付け足す。


「まぁその辺の話はあとね…今からアルコと対峙するのよ。気を引き締めなさい!」


ルシファリスはそう言って、扉へと歩き出した。


扉へとたどり着くと、ルシファリスは間髪入れずに扉を思いっきり蹴り破った。


「ちょっ…ルシファリスさま、そんな開け方しては…」

「いいのよ、これくらいで!」


その先には広い空間が広がっている。
ところどころに樹の根が見えており、ここは大樹の中なのだと改めて感じることができた。

三人はゆっくりと扉の先へと進んでいく。そして、部屋の反対側にあるイスに足を組んで本に目を向けるアルコの姿を確認した。

彼はいっさい目を向けずに、本をパタンと丁寧に閉じると、ゆっくりと口を開いて顔を向けた。


「相変わらず…おてんばな…ようだな。」

「…ふん、ここにずっと篭りっきりの引きこもりには言われたくないわ…」

「…フハハ…ん?そこにおるのは…レイか?」


アルコはクラージュの姿に気づいて声をかける。クラージュは丁寧に頭を下げながら、あいさつをする。


「アルコさま、お久しゅうございます。」

「息災であるか…ふむ、なかなか研鑽してきたようだな…」

「…あれから悠久に近い時が経ちましたから…」

「…そうか…」


アルコは少し感慨深い表情を浮かべている。

が、ルシファリスがそこに割り込んだ。


「感動の再会のところ、悪いんだけど…ここに来た理由を単刀直入にいうわね!」

「…言わずともわかっておる…」

「……。なら話は早いわね…通してもらえるのかしら?」

「…ククククク…」

「何よ…いきなり笑い出して…」

「ククククク…クハハハハハハハ!!」


突然、大声で笑い出したアルコに三人は少し驚いた表情を浮かべている。

アルコはしばらく笑い続けると、ゆっくりと三人には顔を向けた。

そして、一言つぶやく。


「ダメに決まっておろうが…」


その瞬間、三人は身構える。
アルコから突然、殺気が放たれたからだ。


「結局、こうなるのね!」

「ルシファリスさま、お気をつけください!力は弱まったとはいえ、アルコさま闘神です!」

「そんなのわかっているわよ!!」


ルシファリスたちの巡死の戦いが幕を開けた。

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