Cross Navi Re:〜運命の交差〜

noah太郎

3-28 ミカイルの気持ち


「竜人さんはどこから来たんですか?」


料理が並べられたテーブルを、ルシファと樹と竜人の3人が囲んでいた。樹は料理を食べながら竜人へと問いかける。


「ん?我か…?我はどこから…」


竜人は少し悩んで考える。そして、ルシファへ問いかける。


「どこから来たのだ?」

「あたしが知るわけないでしょ!!なんで私を見るのよ!!」

「…いや、お主なら知ってるだろうからな、ハッハッハッ!!」

「ったく…」

「で、どこから来たんですか?」


ルシファと竜人のやりとりも、全く気にすることなく、樹は再度、質問を投げかけた。ニコリと笑いながら問いかけてくる樹に、竜人は少したじろいで答える。


「…ぬぅ。お主なかなか特殊な胆力を持っとるな…我のいた世界か…。ちと説明が難しいのだが…世界というのはいくつもあってだな、それぞれに主神がおるのだ。例えば我の世界は、アルコ様という闘神が管理しておる。アルコ様は戦いが好きなお方でな、我らの世界は"バトリア"と名付けられた。"戦いの地"という意味じゃ。そして、この世界は"ピースリア"という。」

「そう…あんたをこの世界に召喚したミウル様が管理する世界よ。」

「へぇ…世界は神様が管理しているんだね。なら俺がいた元の世界も神様がいるのかな?」


樹は2人に問いかけた。ルシファと竜人は顔を見合わせると、再び樹へと顔を向け、ルシファが口を開く。


「あんたの世界にもいるわよ…でも、あの方は…怠惰…なのよね。」

「…うむ、怠惰だな。」

「たっ…怠惰って…なんだよそれ。」

「言葉の通りよ。ヤマト様はご自分で作った世界に対して…特に管理するようなこともせず、ただ眺めているだけなのよ。そして、その態度が…」

「…その態度が…?」


樹はルシファの言葉に耳を傾ける。


「めちゃめちゃだらしないのよ。だから、"怠惰の神"って呼ばれちゃってる。」

「だな。我も一度ご挨拶した事があるが、振り向きもせず、尻をかきながら菓子を頬張っていたぞ、ハッハッハッハッ!!」


樹はため息をついて、呆れたように口を開く。


「なんかショックだな。自分の世界の神様が怠惰だなんて…ちゃんと管理してくれてれば、いろんな問題も解決できてたんじゃないかと思い始めてきた。」

「問題?あんたの世界にはそんなに問題があったわけ?」

「あるよ…環境問題、紛争、人権差別…数えあげたらキリがないくらいね。」

「なるほどね…ヤマト様は見てるだけだからね。おそらく、あの方にとって世界がいかなる方向へと進もうが、それ自体を楽しんでいるんじゃないかしら。」

「…無責任な神様だな。」


呆れた樹に対して、竜人が口を開く。


「まぁ、神にはいろんな方がおるからな。しかし、お主の世界…チキュウと言ったか?ヤマト様が管理しとる世界は、神界で一番長く続いとるのだ。作り方も治め方も奇抜奇才だからな!あの方は!ハッハッハッハッ!」

「…一番長くか…そんなに変わった人なのか?そのヤマトって神様は。」

「…そうね、まず世界を作るのにビックバンを起こすところから始めたり…」

「最初の人類は猿から始めとったな。」

「世界中で戦争が起こった時は、興奮してたわね…」

「ウイルスによる感染症が蔓延して人類の半数以上が死滅仕掛けても…なにもせんかったな。」

「全て成り行きに任せているところが変わってるわよね。普通は何か起きたら対処するんだけどね…」


二人の発言に、樹は余計呆れてしまう。そんな樹を見て、ルシファは声をかけた。


「召喚対象の世界をあんたのとこに決めたのも、ヤマト様なら簡単に許してくれるって言う理由が一番ね。他の神だと、あれやこれや注文つけてきてうざったいのよ。それに比べてヤマト様は、ミウル様がお願いしたら、『ご自由に…』だって…」

「ハッハッハッ!!やはり変わっておられるのぉ!!自分の世界から人を取られても関心無しとは!!ハッハッハッハッハッ!!」


竜人の笑い声が食卓にこだます中、樹は会ったこともない自分の世界の神様のことを考えて、また呆れるのであった。





ミウルに休みを言い渡されたミカイルは、ビフレストへとやってきていた。樹たちがいる拠点へ向けて、その歩みを進めていた。


「休めと言われて、どうしようかと悩んだ挙句に、ここに来てしまうとは…私も丸くなったわ…フッ」


ミカイルは自分の心情に、驚きと感心を抱いていた。なぜなら、最初に浮かんだ顔が樹だったからだ。今までのミカイルならば、休むフリをして仕事をしていただろうが、気づけば部下に仕事の指示を出し、いつの間にかビフレストに降りていたのだ。


(まさか竜人との戦闘で、自分の本心に気付かされるとは…皮肉なものね。)


改めてクスッと笑みをこぼし、歩みを進めると、樹たちがいる家が見えてきた。


(まだルシファがいるはずだけど、理由を考えていなかったわね…私としたことが…)


敷地の入口の前で立ち止まり、顎に手を置いてここに来た理由を探していると、家の扉が開いた音がして、ミカイルはそちらに目を向ける。

すると、樹とルシファ、そして見知らぬ初老の男性が出てきた。


「あっ!ミカイルさん!!」


初めに樹がミカイルに気づいて声を上げた。


「げっ…元気そうね…」
(しまった!考えに集中し過ぎて、到着したことに気づいてなかった!)

「ミカイルさん、怪我はもう大丈夫ですか?」

「あっ…あれくらいのかすり傷、なんともないわよ。」

「よかった!みんなの避難のために殿を務めてくれたんですよね!本当にありがとうございました!!」

「いっ…いいのよ別に!私は自分の仕事を全うしただけだから…」

「街の人たちもミカイルさんの事、心配してましたよ!後で大丈夫だったと伝えておきますね!」


樹の言葉と笑顔に、ミカイルは今まで周りに見せたことがないほど、タジタジしている。


「そっ…そうなの…まっ…まぁ、よろしくつっ…伝えておいて。」


樹はその言葉に、グッと微笑んだ。そこに今度はルシファが口を挟む。


「そういや、あんたも休めって言われたのか。しかし、予想外ね…ワーカホリックのあんたが、仕事を部下に任せてここにくるなんて…」

「…あんた、私のことそんな風に思ってたわけ?」


ジッと睨み合う二人の間に、樹は仲裁するように入り込む。


「まぁまぁ、せっかく休みもらったんだから喧嘩しないで!今から街に買い物に行くんですけど、ミカイルさんも一緒に行きませんか?」


樹の言葉に、ミカイルはため息をついて、答える。


「まぁ、連いていってもいいわよ。」

「こっちは別にお願いしてないわ。」


それに対して、間髪入れずにルシファが口を挟む。


「なんですって?」

「なによ?言葉の通りよ。」


再び睨み合う二人に、樹は呆れながら声をかける。


「ルシファ!わざわざ喧嘩を誘うような言い方はやめろって!ミカイルさんも、いつものクールさはどこへ行ったんですか!!まったくもう!」

「お二人は、たいへん仲がよろしいようですな!!」


三人の様子に、後ろで見ていた初老の男性が声をかけると、ミカイルがそれに反応する。


「あなたは?どちら様かしら…?」

「…我か?我はこの館で…グハァッ」

「…我?」


訝しげに男を見るミカイルの前に、ルシファが割って入り込み、男の足を思い切り踏みつけた。


「こいつは、この館で雇うことにした執事、兼使用人、兼下僕よ!!」

「げっ…下僕…?!こっ…これ!我の話の途中で…ゴハァッ」


今度は話の途中で遮られ、反論しようとしたが、ルシファの肘打ちを腹にくらって悶絶する。その様子を怪しそうにミカイルが見ていたが、樹がそばに寄って、つぶやくように話しかける。


「この家、狭いようでいて、意外といろんなことに手が回らなくてさ。ルシファと話して使用人を雇おうと思ったんだけど、自分たちのことを考えると、普通の使用人はちょっと不安があるじゃん。だから、ルシファがバレても処分に問題ない人材を拾ってきたんだ。だから、言葉遣いとかちょっとね…」

「なるほど…まぁルシファの考えそうなことね。ちゃんと教育しておきなさいよ。後で痛い目を見ないように。」

「あんたに言われなくてもわかってるわよ。」

「またぁ…二人ともいい加減に仲良くしろよなぁ。」

「ふん!」
「ふん!」


仲裁に入る樹に構わず、二人は互いにそっぽを向くと、街の方へと歩き出す。樹はそれを見ながらため息をつくと、悶絶している男に肩を貸して、二人の跡を追うのであった。

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