Cross Navi Re:〜運命の交差〜

noah太郎

3-23 それぞれの思い

開いている窓から静かに吹き込む冷たい夜風が、レースのカーテンを揺らしている。


「ここまでが、始めの異世界人であるイツキとの出会いね。」


ミカエリスは、春樹と秋人にそう告げる。
秋人は不思議そうにミカエリスを見ている。


「その後、世界には4人の異世界人が召喚されたわ。イツキを含めると、全部で5人の異世界人が世界に降り立ち、様々な知識をもたらしていったの。平和だった世界に、今度は繁栄がもたらされ、私たちにも幸せな時間が訪れたわ…」


ミカエリスは窓の外に視線を向け、ひとつ間を置いた後、ゆっくりと口を開いた。


「だけど、それは長く続かなかった。ルシファリスは陰で、異世界人たちを丸め込み、世界を乗っ取ろうとしたの…」

「なっ!?」


ニコニコして話を聞いていた秋人が、急に驚いた声を上げた。


「ルシファリスとその魔族たちは、4人の異世界人をリーダーに部隊を編成して、各国を攻撃した。当時、神の子孫であったバース一族は力を失いつつあったから、異世界人たちの襲撃になす術なく、やられていったわ…平和な世界に長く浸かりすぎたのね。」

「…でも何でルシファリスはそんな事を…」


秋人が問いかけると、ミカエリスは答える。


「あいつは退屈だったのよ…平和な世界に…自分の仕事に…だから、ミウルさまに進言して異世界人を召喚させ、自分の思うように事を進めようとしたの。」

「だけど、ミウルさまは…?君だって黙っていなかったのでは?」


秋人の問いに、ミカエリスは大きくため息をついた。


「主人さまは、度重なる召喚で力を使い果たしていたの。それもルシファリスの計画通りだったのね。私も当時はルシファリスと力の差は無かった…だから、異世界人を味方につけたあいつには勝てなかったの。そして、各国を押さえたルシファリスは最後に大樹の頂へとやって来たわ…」


秋人は悲しげな表情を浮かべて、ミカエリスの話に耳を傾けている。


「主人さまは最後の抵抗として、残った力を使い、世界を分断した。そして、簡単には行き来できないように、大樹の中に国同士の道を作ったの。」

「…そうだったのか。」


秋人は賛同するようにため息をつく。
春樹はゆっくりと口を開いた。


「だから、神を敬愛しているあんたは、彼を復活させ、世界を元の一つに戻して、再び平和な世界を築きたい…そういうことかな?」

「理解が早くて、とても助かるわ。あなたのそういうところ…私の見込んだ通りね。」


春樹はそれには反応せず、話を続ける。


「具体的にはどうするんだ?俺とこの秋人だけで、世界を一つに戻すことなんてできるのか?そんな力…俺たちには…いや、少なくとも俺にはないよ。」


秋人をチラリとみて、春樹はそう告げた。まだ秋人のことがわからない。彼は自分と同じ異世界人ということだが、ミカエリスの話から推測すると、異世界人には秘めたる力がある。彼にはすごい力があるのかも知れなかったからだ。


「今のあなた達じゃ、無理でしょうね。これから色々と準備しなくちゃいけないわ。だけど…」


ミカエリスは春樹をじっと見据える。
それに対して、春樹はピンと来て答える。

「ルシファリスたちが俺を奪い返しにくる…か?」


ミカエリスはゆっくりと静かに頷いた。


「あいつはあなたを取り戻しにくるわ。必ずね。でも、それでは私の悲願が達成できない。だから、真実を伝え、あなたに何が正しいのか判断してもらいたかったの。手荒な真似をしたことは、お詫びします。」


ミカエリスは深々と頭を下げた。


「今の話が本当だとして、ルシファリスが俺を必要とする理由はなんだ?」


頭を下げるミカエリスへ、春樹は疑問を投げかける。すると、ゆっくりと頭を上げて、ミカエリスが答えた。


「今の私たちは、ミウルさまの恩恵が受けられていない。力が当時の半分以下になっている。だから、大樹の頂にも登れない。あそこに登れば、世界をコントロールするための法陣があるの。だからあいつは、あなたを使って自分の力を取り戻し、大樹に登って法陣を使いたいのだと、私は考えてるわ。」

「世界をコントロールする…か。あんたの話…少し整理させてもらってもいいか?その上で、あんたに協力するか、決める。」


ミカエリスはニコッと笑い、頷いた。


「話は終わったか?ならよ、飯にしようぜ!!!朝から何も食ってねえよ、俺は!」

「そうね、あなたもどう?ハルキ…」


静かに頷く春樹を見て、ミカエリスは再びにこりと笑った。そして、一同は秋人のいた部屋を後にするのであった。





「…という訳ですね。」


ウェルは話を終えて、にこりと笑みを浮かべた。


「…そんな…"船没地"にそんなものがあったなんて…」

「私も驚きましたし、それはハルキもです。もしかすると、研究発表会でご覧にいれた2つの研究…あれはその時に彼の頭に浮かんだのかもしれないですね。」

「…だな。"異世界人の記憶"なんて…それが物理的に存在しているなんて、普通じゃ考えられない…なぁ、ルシファリス?」


リジャンはルシファリスへと話を振った。


「……え?えぇ、そっ…そうね…」


急に話しかけられて焦るルシファリスに、リジャンは訝しげに声をかける。


「大丈夫かよ?お前がウェルに話せって言ったんだぜ?」

「わかってるわよ…!ウェル、その"異世界人の記憶"って、その後どうなったの?」

「眩しくてはっきりとは見えませんでしたが、ハルキへ吸い込まれていったように見えました。」

「…そう。わかったわ、ありがと…」


そう言ってルシファリスは立ち上がった。


「…?どこへ行くんだ?」


リジャンの問いかけに、ルシファリスは答える。


「少し整理したいから、風に当たってくるわ…」


そう言って部屋を後にしたルシファリスは、屋根の上へと向かう。
夕焼けが綺麗に咲いていて、空をゆっくりと橙に染めている。


「…きれいね。」


ルシファリスはぼそりと呟いた。
しばらく夕日を眺めていると、気づかないうちに、頬を伝う温かいものを感じた。
ルシファリスは親指でそれを優しく拭う。


「…涙?どうして…」


自分でも理由はわかっている。
この涙は、樹に向けたものだ。自分が探せきれなかった樹の記憶。

それを、何の因果か春樹が見つけ、彼の思いをこの世界に伝えたのだ。
ルシファリスは声にならない嗚咽を上げる。

静かに…彼との記憶を思い出しながら。
静かに、涙するのであった。





「ルシファリスは、"船没地"に何があったのか、そもそも知ってたのか?」


リジャンはクラージュへと問いかけた。


「私も詳しくは分かりません。ルシファリスさまからは、あの地のことはほとんど聞かされておりませんので…」


その言葉に、リジャンはちぇっと舌打ちをする。


「大事なことは言わねぇんだから!あいつはまったく…」

「ハハハッ…誰にでも言いたくないことはありますよ。」


それに対して、ウェルが答える。リジャンはジロリとウェルを一瞥する。


「しかし、"異世界人の記憶"か…。興味深いな。」


今度はキクヒトが口を開いた。


「…たしかにな。なぜそこにそんなものがあったのかも気になるし、ルシファリスが戻ったら問いただしてみようぜ!」


ニヤリと笑みを浮かべながら、リジャンが発した言葉に、ドアの方から返事があった。


「その必要はないわ!」

「ルシファリス!?はっ、早い戻りだな…」


すぐに戻ってきたルシファリスに対して、リジャンは驚きを浮かべる。


「今から話してあげる。私の…この世界の過去について。」


ルシファリスは、その場にいる全員を見渡しながら、そう告げるのであった。

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