Cross Navi Re:〜運命の交差〜

noah太郎

3-9 後半戦

「さぁさぁ、諸君!後半戦も楽しんで行こうではないか!」


ミズガル王の宣言とともに、発表会の後半戦がスタートした。春樹たちアルバート研究所は3番目、ヤゴチェ副所長率いるヘムイダル研究所の次である。


「ヒッヒッヒッ!奴らには自分たちの発表前に、戦意喪失してもらおうか。」


ヤゴチェは準備をしながらそう言って、ベンソンたちを見る。


(あの小僧。何やら王と話しておったが、益々気に食わん奴だ…絶対に目に物を見せてくれるわ!)


横にいる春樹が目に止まり、ヤゴチェは不満気に心の中で呟いた。そして、発表の準備のために舞台袖へと移動していった。


前の研究所の発表が終わり、ヤゴチェらの番になる。


「さぁ、お次はヘムイダル研究所です。優勝候補と呼び声高い彼らですが、今年はどんな驚きを見せてくれるのか!」


司会が紹介すると、会場は暗転する。そして、ステージ上にスポットライトが当たり、ヤゴチェ副所長の姿が現れた。


「皆さま、長らくお待たせいたしました。これから、我がヘムイダル研究所の研究内容を発表させていただきます!その前にまずはこちらをご覧ください!」


ヤゴチェがそう言うと、巨大なスクリーンに映像が映し出された。


「これは、ミズガルにおける冒険者の活動実績と、魔物による被害を分析した資料です。これによると、近年の魔物の発生は少しずつ増加の傾向にあり、また、冒険者の成り手減少による人員不足も重なって、各都市における被害の数も、少しずつ増加の一途を辿っています。」


ヤゴチェの説明に、会場内はどよめき、重たい雰囲気に包まれる。


「なるほどな。奴ら、いい点に着目しやがるぜ。」

「そうですね。魔物問題はどの国でもある話ですからね。」


ヤゴチェの説明は続く。


「我が国では、ここ数年、出生率の低下も問題視され、益々の人的不足に陥ることは、目に見えております。また、冒険者たちの質の低下も見過ごせるものではありません!」


ヤゴチェがそう言い放った瞬間、1人の男が声を荒げて立ち上がった。


「ヤゴチェ殿!それは聞き捨てならん発言だ!!撤回を求める!!!」


筋骨隆々で、片目に傷を負ったライオンのような漢が、ヤゴチェに向かって咆哮を上げる。


「そりゃ、ギルドも黙っちゃいねぇわな。今のは、お前らは使えないって言われたも同然だ。」

「あの人がギルドマスターのオンライさんですね。強そうだなぁ。」

「ミズガルのギルドは、オンライの一族が苦労して発展させてきた組織だからな。あいつにしたら、黙ってはおれんさ。」


春樹とベンソンが、お気楽に眺めていると、ヤゴチェが挑発する様に口を開く。


「おやおや、食ってかかるということは、ギルドにも自覚はお有りですかな?しかし、これは紛れもない事実であり、問題を先延ばしにしてきたギルドには、口を挟む権利はない!!!」


ヤゴチェの言葉に、オンライは言い返すことはできず、気に食わんといったようにドスンッと席へと座り込む。
ヤゴチェはそれを見て、ニヤリとすると、再び話を再開した。


「それでは、この問題をどう解決するのか!我々、ヘムイダル研究所の答えはこれです!!」


その言葉と同時に、スクリーンの画面が切り替わり、小型の銃のようなものが映し出された。


「これは、魔力を持つものなら、誰でも扱える中距離型の武器です!ごく僅かな魔力で使用可能であり、その威力もこれひとつで、大型のワイルドボアを簡単に倒せるほどです!」


会場内は、ヤゴチェの言葉にざわつき始める。感嘆や驚きの声が多く上がる中、オンライだけは、仏頂面で腕を組んで眺めている。

ヤゴチェは会場内の手応えを感じて、笑みをこぼすと、再び口を開く。


「それでは、まずはこちらをご覧ください。」


スクリーンが切り替わり、森の中で研究員が1人、大きな猪のような魔物と対峙している画面が映し出された。

魔物は興奮していて、目は血走り、前足の片方で地面を掻きむしりながら、突進する準備を行っているようだ。
対する研究員は、手に小型の銃を持って、魔物に向けて構えている。

次の瞬間、魔物が咆哮を上げ、突進を始める。それと同時に、研究員も銃を放った。

研究員がトリガーを引くと、ガガガガガッと連射音と共に、小さな炎の弾が魔物に向けて飛んでいく。それらが顔に当たると、その部分に火が燃え広がり、魔物は苦しそうに悲鳴を上げ、足を止めた。

その間に、研究員は何かを交換する仕草をして、再び銃を構えると、トリガーを引く。

今度はバチバチッと音を立てながら、光る弾が飛んでいき、それが魔物に当たると、痺れたように痙攣し、魔物はその場に倒れ込んだ。

そして、研究員が魔物の眉間に向かって1発を放ち、魔物が息を引き取った様子を最後に、画面には再び、小型の銃が映し出された。


「いかがでしょう!使用していた研究員は法陣の使用はほぼできないほど、微量な魔力しか持ち得ません。しかしながら、これを使うことで、巨大な魔物をいとも簡単に葬り去ったのです!!!」


会場内が徐々に盛り上がりを見せていく。


「これがあれば、女性や年寄りはもちろん、小さな子供までが、魔物を倒すことが可能です!!先ほどはギルドマスターと一悶着を起こしてしまいましたが、我々は喧嘩するためにこれを作ったのではないのです!むしろ、量産できればギルドにも配布し、協力して魔物問題へ取り組んでいく所存です!!!」


ヤゴチェがそう言い放った瞬間、会場内は大きな拍手に包まれた。中には「よくやった!」などと、大声を上げ、讃える者までいる。

そんな状況を渋い顔で見ている春樹に、ベンソンは話しかける。


「どうしたんだ?確かに武器を作った事には驚いたが、奴らよく考えてると思うぜ。しかも、これは国の問題をひとつ、解決するほどの内容だ。正直、勝てるかわからなくなった…」

「あっ、いえ…。すごい発表だなって思っただけです。」

「そうか?まぁ、次は俺らだ。そろそろ準備しねぇとな。」


そう言って立ち上がるベンソンを横目に、春樹はなんとなく、やるせ無い気分になっていた。
自分の世界で存在した"銃"がこの世界に誕生したこと。その目的は人々を想ってのことだ。そこに疑問はない。
しかし、自分の世界で起こっている"それら"による悲しい出来事を考えれば、この世界で同様のことが起きないことを、願わずにはいられなかった。

春樹もゆっくり立ち上がり、発表の準備に向かう。後ろでは、ヤゴチェが銃の構造について、詳しく説明を行なっていた。





舞台袖へとヤゴチェらが戻ってくる。
その顔は、どうだと言わんばかりにニヤついており、思っていた通り、横に来ると話しかけてきた。


「どうだったかな?我々の発表内容は。」


クマのある目が細まって、勝ち誇ったような笑みへと変わる。ベンソンはそれに対して無視を決め込んでいたため、春樹が答える。


「ヤゴチェさん、素晴らしい内容でした。あの構造の…発想は中々できないですよ!しかも、うまくいけば国の問題を解決するできるかもしれない!」


春樹の予想していなかった反応に、ヤゴチェは少し戸惑った。ベンソンも驚いて春樹を見ている。ヤゴチェは、言葉に詰まりつつ、口を開いた。


「まっ、まぁ、これくらい我々には当たり前なのだ。君たちもせいぜい頑張りたまえ!」


そう言って去っていくヤゴチェに、春樹が一言呟く。


「願わくば、その研究の…あなたの信念が変わらないことを願います…」

「なんだと…?」


悲しげに見える春樹の表情に、ヤゴチェはなんとも言えない感情になった。その表情はまるで、その道具が起こす悲劇を知っているかのような、そんな表情であったのだ。


「ふっ、ふん!何を言うかと思えば!生意気な!」


そう言って、足早に去っていくヤゴチェを見送り、春樹は気合を入れ直す。


「さて!俺らの番ですね!」

「おうよ!お前らもよろしく頼むぜ!」

「へい!」


アルバート研究所の一同は、掛け声と共にベンソンを先頭に、ステージへと踏み出すのであった。

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