ヒエラルキーを飛び越えろ!!
12森田龍太
由香もこの日から、球技大会のことを口にしなくなる。
森田は改めて、女子の怖さを痛感しながら、自身の日陰のような陽の目を見ないイベントに辟易とする。
そういえば、倉木もまた、バレーの経験者だったような気がする——翼の話だけはどうも頭に留めておくことが難しく、記憶が曖昧だ。
そして、迎えた球技大会。生徒は残暑の残る秋の気温に、体操服で登校する。夏やこの時期ばかりは体操服の軽装がとてもありがたい。
特進科は例年以上に気合が入っているので、昼休みの練習が半ば、強制的だった。もしかすると、当日以上に練習の日々が苦痛だったかもしれない。その甲斐あってか、男子は善戦を重ねており、簡単に決勝の切符を手にした。
一方、女子はヒエラルキー至上主義の女子数名がコートを独占する。ボールが苦手な女子にも、ミスをすれば容赦無く叱責を浴びせていた。「ちょっと! そこはアンタのボールでしょ!! なんで避けるの!」と鋭い視線とともに数人でひとりを攻撃する。
この鋭利な視線と声が自分に降りかからない安全地帯にいることを、森田は心から胸を撫で下ろす。
コートの外からは、体裁ばかりの応援。男子のほとんどは、すでにクラスの女子ではないどこかを見ているだろう。現に、自分のクラスの女子がなんだかんだと得点を稼ぎ圧勝しているのに、普通の応援程度のリアクションでは薄すぎる。
女子のチームも仲間割れをしながら、準決勝まで駒を進めてしまい、男子らも気の無い応援が続く思うと辟易としている。
しかし、どんよりした男子の空気を一変させる。
準決勝——相手はなんと倉木がいる二組だ。どうやら、彼女たちも駒を進めていたらしい。
準決勝からは、試合開始前に数分の練習時間が与えられる。
公式試合さながらの手順で、着々と進んでいく。
森田や翼が相手チームに目がいくように、他の男子も自陣の女子を見守るつもりはないようだ。
しかし、森田こそ倉木のいる二組の存在を探さなかったわけではない。この準決勝に至る昼過ぎまで彼女の姿が見当たらなかったのは、人数のせいだけだろうかと思わざるを得ない。
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