ヒエラルキーを飛び越えろ!!

あゆむ

8倉木すずか


 倉木は、公開処刑までの時間を諦めることなく、中学の復習と高校の試験範囲徹底に勤しんだ。その間に、翼からの連絡はあれど、「彼女とデートにいくんだけど、どこがいいと思う?」や「彼女が親に紹介したいって言ってきてるんだけど、付き合ってすぐ会っても軽い男って思われないかな」というどれも大したことない内容だ。

 「森田君に相談すればいいじゃない」と、森田にとっては巻き込み事故を平然と起こしながら、問題を移転させる。そこで、翼から返ってくるのは「アイツはダメだ。テキトーなことしか言わない」らしい。
 
 彼も少しは反骨心があるようで、倉木の口角が上がる。

 仕方なく、翼にラインの返事を送った。「彼女とのデートは、バッティングセンターが定番よ。彼女があまりバットを触れなくて、もたついている可愛さを堪能するのが、青春の一つでしょ」とほらを吹いておく。
 翼は俊敏で短距離走はそこそこだが、それ以外は運動音痴だ。

 「あーね! それは言えてるかも!」と鵜呑みにした返事を寄越したので、倉木は自宅で堂々とほくそ笑んだ。

 中間考査が終わり、テスト返却が行われた。結果からして、数教科は旧校舎一年のトップを飾り、総合でもクラス席次は首席を飾った。ここで補足するなら、旧校舎と新校舎では、やっているカリキュラムが違うため、比較対象から外れることが多い。
 つまり、レベルの低い戦いだったということだ。

 「やっぱり、60点とか謙遜かぁ」と小金がぼやいた。全ての科目のテスト返却が終わると、放課後になる。

「よっし!! 赤点回避ー!!」

 小金は30点という赤点の壁を無事全て突破できたらしい。自宅で祝勝会でもやれるレベルで喜ばしいことのようだ。
 すぐさま携帯を取り出して、両親に連絡を入れている。彼女だけは、第久に入るべくして入ったと見て良さそうだ。

「それにしても、学年トップの教科があるってヤバくない?」

 二組の女子は素直に褒めてくれる。倉木はまた、眉根を寄せて「そんなことないよ」という。

「それだけ勉強に集中してるなら部活やってる暇ないよね」

 倉木は部活に反応して「ううん。書道部に今日から入るよ。体育祭の垂幕見て、書道部があるって知ったからさ」と荷物をかたしながらいった。

 「へぇ、倉木書道経験者?」小金はさほど興味なさそうに明後日の方向を向いている。

「一応、現役」
「今もやってるんだ!」

 須田心は食いついてくれる。「私も小学校六年間やってた!!」。

「あ、そう言えば、倉木さんの字、すごく達筆だったよね」

 須田が近くの田中仁美にも声を掛ける。

「確かに! 黒板の字、名前書かれなくても倉木のだけは分かるわ」

 大らかな性格の仁美は、クラスメイトの中でお母さん的存在で、今ではすっかり「仁美ねえさん」が馴染んでいる。倉木はその馴染みに馴染めていないので、相変わらず「仁美ちゃん」呼びだ。

 仁美が倉木に話しかける。「じゃあ倉木は今から部室に行くんだ?」。

「そうするつもり」

 すると、小金と仁美は声を揃えて「じゃあ頑張ないとね!」という。

 言葉で背中を押されて、知人の一人もいない部室へ足を運ぶ。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品