ヒエラルキーを飛び越えろ!!

あゆむ

7倉木すずか

 
 小金は「なんだあのクールイケメンは」と目を丸くして、口に運ぶつもりだった唐揚げが、口元で停止している。

「さ、さぁ。私もよく分かんない」

 この発言に嘘はない。間柄はさておいて、富松先輩の思惑は分からなかったので、虚偽ではない。

「倉木のこと知ってる風だったな。え、もしかして元カノとか!」
「違う違う!」

 むしろ、そのようなわかりやすい関係なら、富松先輩の魂胆が分かったというのに。

「倉木さん、あの先輩には注意した方がいいよ」

 須田心が小金の隣で、おしとやかに弁当をつつく。「あの人、ああやって言ってたけど、本当は誰でもいい気がする。私のところにはラインで似たようなこと言ってきたし」。

「あー、うん。大丈夫だよ。ああいうタイプなのは前からみたいだし。間に受けてないから」

 倉木も弁当をつつきながら、「ただ、褒められた時になんて顔すればいいか分かんなくて、困ってた……」と眉根を寄せる。おそらく、この表情も間違えているのだろう。

 先刻の言動を見る限り、富松先輩の恋愛スタンスは、中学の時からあまり変わってなさそうだ。

 「褒められときの顔って、いい点数とったらよく褒められるじゃない? そう難しいこと?」須田はいう。

「いい点数……って例えば何点くらい?」
「何点? えっと、私は70点取れたら、外食とかプレゼントとか貰ったな」
「えー、うちは30点でも褒められるな!」

 小金が爆弾発言を投下して、倉木は衝撃に背筋から固まった。「小金はそうかもしれないね」と須田は小金と中学が同じらしく、彼女の学力を思えば、と平然と弁当を食べ続ける。

「倉木さんはどうなの?」

 須田の質問に他意はない。

「私は……たまに70点とっても、褒められたことはない、かも。あ、でも、基本は60点平均だったから、そこはよく怒られてた。」

 「倉木さん家って厳しいんだね!」、「あーだから、授業後も勉強してるのか!」と周りの女子たちへ伝染していく。さらには、「うちは、勉強しろなんて言われたことないや」という猛者までいた。

 ここで小金が、二投目の爆弾を投下する。「でも、倉木って、もっと頭いいのかって思ってた。60点なんて謙遜して言ってるだけでしょ?」。

「そりゃそうでしょ。倉木さん頭良さそうだもん!」

 そして、須田がとどめをさした。

 ——嗚呼、レッテル貼りが完全完了されたようだ。現状は、理解の追いつかない要領の悪さが、勤勉さと捉えられてしまった。
 ——中間考査はまさに公開処刑だ。その恥さらしまで、後一週間。

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