ヒエラルキーを飛び越えろ!!

あゆむ

5倉木すずか

 
 体育祭が終わると、すぐに待っているのは、全校生徒が大好きな「中間考査」だ。無論、倉木すずかはそれをしっかり見据え、計画的に中学校の復習と、少しばかり進んだ試験範囲の徹底に、毎夜勉強に勤しんでいた。

 机には受験に失敗して間も無くの時に刻んだ、誓い——志望校と学科、それから推薦入試という入試形態までの目標が、倉木の今を突き動かしている。

 その野望に似た目標を前に立ちはだかる、高校生の授業に出鼻を挫かれた。

 まるで授業の内容についていけないのだ。いくら学歴カースト最下層の普通科であっても、倉木自身のように受験に失敗し、止むを得ず進学した連中ばかりだということは、既に把握済みだ。なおさら、自分だけが授業についていけず、周り全員が優秀に見えて仕方がない。

 さらに、第久の特徴として、スポーツ特待生を多く抱えている。故に、特進クラスではなくても、普通科・スポーツ科・保育科の中にはたくさんの特待生が紛れ込んでいるのだ。
 それ以外の何も持たない者は、学のない爪弾き者だと言われているように感じてならない。
 
 実際、あの有村かすみに瓜二つともてはやされている須田心は、親伝いにスポーツ特待生でもなければ、特進クラスでもないことを鼻で笑われた事実を聞いている。倉木には、それが耐え難い屈辱だった。

 混沌とした劣等感、逃げ出したくなるような勉強への苦手意識、倉木には中間考査までの時間が圧倒的に足りない。
 
 体育祭が日本で一番早く開催されることに、何かのアドバンテージを感じている教師たちへ、内心で反吐を吐く。

 そして、何より高校では、自覚している自身のプライドの高さは捨てると、誓いを刻んだ時に追加した。振り返ることも許されない状況に自ら追い込んで、進学しただけに、無駄に盛り上がる体育祭の団体行動が苦痛でならなかった。
 だけど、終わってみると、なんとも呆気なかった。

 特進クラスに知り合いがいて、翼の隣にいた森田というじめっとした男が、存外に居心地が良かったのだ。肩肘張らなくてよくて、話題の広がりや転換を気にする必要もない、と。
 
 背丈こそ倉木とそう変わらない。視線が自然とぶつかる毎に、あたふたとしている様は見ていて面白い。——こういう女は森田のような男に嫌われるだろう。(冗談半分で彼に苦手でしょう、と聞いたらさらに黙りこくったので、彼も例に違わずの根暗タイプだ)
 
 それから中間考査まで待ったなしで、勝手に焦っている倉木だが、それは周りから見た「倉木すずか」とのギャップという要因もあった。

 授業に思うようについていけず、昼休みになっても教師の言葉を一言一句思い返しながら、必死で噛み砕き、咀嚼して、ゆっくりと飲み込む。
 それが終わる頃、要領の悪さを悔いながら、ノートを閉じる。

 そこまでしているのに、クラスメイトは倉木を真面目と簡単に括り付け、挙句には「勉強ができそうだと思ってた」とラベリングする。
 それが倉木には強迫観念のように感じて、さらに勉強に対する畏怖が強くなった。

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