ヒエラルキーを飛び越えろ!!
1森田龍太
私立第一久留米高校——通称「第久」の特進クラスに進学して、一ヶ月と経たない頃。早速、森田龍太に憂鬱イベント「体育祭」が待ち構えていた。
偶然にも、森田におそらく同族であろう長江翼と親しくなり、一緒に第二グラウンドへ向かう。
スポーツ高校である第久は、公式試合でも使用できる野球場が第一グラウンドだ。それに加え、室内練習場や筋トレルームも完備されている。さらに、柔道部にも同じ設備があり、女子バレー部に至っては恋愛を禁止する徹底ぶりだ。
それらの部活と等しく名を連ねる文化部の吹奏楽も、毎年のように全国の舞台へ羽ばたく強化クラブの一つである。
森田はそのどれにも所属していない。
ゆえに、体育祭で目立つ人間ではない分類の森田にとって、体育祭は苦行以上の何でもない。中学生の時でも辟易としていたが、此処ではさらに拍車がかかる。
スポーツクラスと敵対する意味がまるでわからない上に、スポーツができる人間の集まりも同然の学校はまさに生き地獄だ。
そんな最中の森田の卑屈な自尊心を維持しているのは、学校のカースト最下層に位置する普通科の存在が大きい。
特進クラスの上には特別選抜クラスという選りすぐりのエリートが、体育祭の練習時間返上で今も授業を受けているらしい。入試時の成績によっては、そこへの案内も合否通知と一緒にされるのだが、森田には来なかった。——そういうことなのだ。
森田は普通科の中の、強化クラブにも運動部にも所属していない学のない人間と、自分を比較しては安心を得るような人間と隣を歩く翼も、同類のはずだと信じてやまなかった。
「あれ、すずかじゃん」と翼が特進クラスではない何者かに声をかける。
「翼もここの学校だったっけ」
翼の声に振り返るのは、表情のレパートリーが少なさそうな、森田と同じくらいの背丈の女子だった。セミロングの黒髪美人と言えば特徴的だが、森田には「頭が良さそう」というラベリングで、容姿に興味が湧かなかった。
「俺はもともとここの特進が第一志望だっつの」
「コイツ、同じ中学で、さらに俺の幼馴染み」親指で彼女を指差す翼。
「私は普通に落ちて、此処だけど。それより、ブロックは?」
受験に失敗して此処の学校へ通うことになったらしい。彼女に多少の同情心が湧いた。
「特進クラスと普通科が一緒だったはず、一年生の俺らは」
翼が答える。すると、「じゃあ、一緒か。私、普通科だし」と彼女は平然と言った。
「普通科か。どうよ、そっちは」
「旧校舎と新校舎って、すごく学歴カーストを感じさせる学校だなとは思った。パンフじゃ新校舎の方しか映してないし。ま、見学にすら来なかった私の完全なるリサーチ不足だけど」
密かに森田は面食らう。
「こっちのトイレは温水付きみたいだ」
「わー、こっちの旧校舎は年中あちこちキーキーと鳴る老朽音楽つき冷水だよ」
彼女は皮肉混じりにいう。「スポーツができても、勉強できなきゃってことみたいね。スポーツで上がってきた子の方が多いように感じるのに。私はそのどれでもないけど」。
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