魔法高校の聖騎士~楽園の鳥籠で天使は嘲笑う~

天羽睦月

第47話 失敗作


「私の邪魔をするな! この世界を浄化する邪魔をするな!」
「この世界を浄化? そんな権利ないでしょうに!」

 ミサと朝倉騎士団長が何かを話しながら戦っていると、魔法騎士団本部の前方にある崩れたビルの前の空間が割れた。
 出雲は増援なのかと轟雷を構えると、そこから以前に戦った少女が現れた。

「もう失敗は出来ないわ……ここであの男と共に成果を上げないと……」

 成果を上げないとと言いながら割れた空間から出る少女。
 出雲はその少女を見つめていると、これ以上壊させないと言いながら轟雷で斬りかかろうとする。

「これ以上壊させるか! 俺たちの世界を滅茶苦茶にするな!」
「お前は!? この前に邪魔をした男!? こんな場所にもいるのか!」

 少女は腰に差している剣を構えて出雲の攻撃を防いだ。
 攻撃を防がれた出雲は、ミサに分けてもらった知識を駆使して剣を傾けて少女の剣を上部に弾き、そのまま少女の体に轟雷を当てることが出来た。

「前よりも格段に強くなっているようね……何をしたのよ?」
「そんなこと教えるわけないだろ! お前の相手は俺だ!」
「前よりも強くなったからといっても、まだ弱者には変わりがない! 私の敵ではない!」

 その言葉と共に少女が剣に魔力を込めて出雲に斬りかかる。
 出雲は知識を活用し、自身の光属性の魔力を剣に纏わせる。

「あれだけ訓練で出来なかった付加が、こうも簡単に出来るなんて……嬉しいのか悲しいのか……」

 出雲は知識を与えられたことで簡単に付加が出来たことに驚くも、ちゃんと与えられた知識を活かさないとと、目の前の少女を見据えて考えた。

「私はもう負けられない……負けられないんだ!」
「負けられないって、何にそんなに怯えているんだ!?」

 少女が負けられないと連呼をしているのを聞いて、出雲は本当に敵なのかと少女に話しかける。

「私は敵よ! 世界を浄化する先兵として来たのよ!」
「世界を浄化!? どういう意味だ!」
「そんなことを教える必要はないわ!」

 少女は出雲に向けて叫びながら攻撃をし続けていた。
 出雲はその攻撃をミサの知識を頼りに防ぎ、少女に攻撃を当てていく。少女は朝倉騎士団長と同じような鎧を着ているので、中々攻撃が通らない。出雲はより強い攻撃を当てないとと剣を握る力を強める。

「俺には君が嫌々戦っているように思えるんだ! 俺たちの言葉に動揺したり、前に戦った時にも何故か戻ったら何かをされるような顔をしていたよ!」
「うるさいうるさいうるさい! 私は戦わないとダメなんだ! 戦わないとママが!」

 ママがと言う少女の瞳には涙が浮かんでいた。
 出雲は君に何があったんだと剣を交えながら問いかけ続ける。すると、少女が出雲の剣を弾き腹部に蹴りを入れた瞬間、お前に私が救えるのかと出雲に向けて叫んでいた。

「一体何を!?」
「お前に私を救えるのかと聞いたんだ! お前みたいな弱者が……何も出来ない弱いくせに、何かが出来ると思うな!」

 少女は出雲に何も出来ないくせにと叫びながら上段、下段と素早く出雲に攻撃を仕掛ける。時折鍔ぜり合うと、剣を斜めにして出雲の腹部や顔に拳を当てたりしていた。

「ミサさんから知識を活かせられないのか!? 体が付いていかない!」

 出雲はそれでも負けられないんだと声を上げて少女の剣に光属性の魔力を付加した剣をぶつけ、鍔ぜり合う二人はお互いの顔を見ていた。
 出雲は君は何のために戦っているんだと近い距離で少女に聞いた。すると少女がうるさいと言って、出雲の左頬を剣の握り部分で殴りつけた。

「君は何のために、誰のために戦っているんだ! 自分のためか!? この世界を壊している人のためか!? さっき言っていたママのためか!?」
「……私は……私の意思で……」

 少女は出雲の言葉を聞いて自分は何のために戦っていたのか分からなくなってしまっていた。
 出雲は少女の動きが止まったタイミングを見て、少女の持つ剣を弾き飛ばすことに成功をした。

「君には戦う理由がないんじゃないか? 君のお母さん……ママは君が戦うことを望んでいないんじゃないのか?」
「そんなことはない……ママは……私が戦わないと……幸せに……」

 少女は地面に膝をついてその場で泣いてしまった。
 今まで溜めていた気持ちやなぜ戦っていたのか答えが見えない現実に打ちひしがれているようである。

「俺はミサさんのところに行くよ。君は自身の幸せのために戦うべきだよ」

 出雲は泣いている少女の姿を横目で見ると、魔法騎士団本部から離れた場所で戦っているミサのもとに駆けだした。
 少女は離れていく出雲の背中を見て、ママと小さく呟いていた。泣いている少女が涙を拭うと、背後の空間が割れて金髪の男性が姿を現した。

「あ、あなたは――」

 少女が言葉を発した瞬間、金髪の男性は少女の顔を殴った。

「お前は使えない人間だ! クズだ! 失敗作だ!」

 金髪の男性は少女の顔を何度も強く殴りつけ、罵声を浴びせていた。少女はされるがままになっており、小さいな声でごめんなさいと言いながら怯えているようである。

「俺がお前を作った理由を知っているよな!? お前は人間と俺たちのハイブリッド体として産ませたんだぞ! それなのにお前は毎回毎回失敗ばかりして! 最悪なのは、さっき戦っていた雑魚の言葉に惑わされて負けたことだ!」
「ごめんなさい……パパ……」

 少女がパパと言った瞬間、そう呼ぶなと言っただろうと金髪の男性が少女の胸部を蹴りつける。

「ぐぅ……ご、ごめんなさい……」
「俺は望んでお前に遺伝子を分けたわけではない! 劣等な人間と俺たちの種族をかけ合わせて強さを見る研究でもあるのだ! お前などあの愚かな人間と共に野垂れ死ぬがいい」

 その言葉と共に金髪の男性が空間を割って、そこから黒ずんでいる布を一枚羽織っている女性を放り投げた。
 その女性は痩せ型で長髪の髪をしているものの、髪はボサボサで整えていないことが見て取れた。

「ママ! どうして!? 私が戦えばママに酷いことはしないはずじゃなかったの!?」
「戦った所で、お前は失敗してばかりではないか。お前に行われるはずの罰は代わりにこの人間が受けていたんだ。感謝しておくんだな」

 少女はママと呼んでいる女性に抱き着くと、その女性は少女を優しく抱きしめた。

「いいのよ……あなたは自身の呪われた運命を変えるために頑張ったんでしょう? あなたの運命はあなたが決めるのよ。縛られない自由に決めて」
「ママ……」

 少女は目に涙を浮かべてママの体を強く抱きしめる。その二人の様子を見ていた金髪の男性は、少女の右腕を掴んで強引に立たせようとする。

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