クリスガイズ

汰綿欧茂

宝節機2 クリス石所有者の戦い

 天域。アメノソノ。
 その好青年は、人間を巨像にしたような存在を呼び起こした事実にまだ寝ぼけていた。

「好青年よ、お前さん、なんてものを生ませたんだ。あんなモノ、ヤバいだろう」
「俺はあんなの知らないよ。知ってしまったんだ。たまたまな。これからどうしろってんだ」
「まずは、なんかこう……念じてみたら?」

 ウエスタン気取りが適当な言葉で好青年を説得した。

「念じるって……言う事聞く家来かなんかか、アレ?」
「俺に質問ばかりするな。自分のモノだと言ったんじゃないのかよ」
「光る石はそうだよ。だが話が違う。アレは俺の所有物になるかよ!!」

 人がぞろぞろと集まってきた。見物人として神様を祀るようにお祈りをしだす者も出てきた。

「こりゃ、早いところアレを何とかしないとな。一応は念じてみるか」

 好青年は巨像ぽいモノに正面を向けるや自分自身を運ぶよう強く念じた。
 すると実際に巨像の右腕が好青年を掴み取り、胸部の中心へと近寄せた。
 その中心から何やら扉らしきモノが展開しだし、その中はくり抜かれたような個室状態のモノを好青年は確認した。

「なんだ? この部屋ぽいヤツ? 手前に座席がある。くり抜かれたような造りだ。まるで鞍に入ったようだ」
「好青年!! 中はどんなものだ〜!」
「まるで鞍になってる」
「巨像の心臓部に鞍? さしずめ操作する部屋なのか?」
「操作は分からないが、鞍に入ったんならさ、やってみるしかないな」

 好青年は、試しに鞍の扉を閉じようと念じた。先程と同じくふたをして鞍は密室になった。
「チッ、なんか真っ暗だな。照明みたいなのないのか?」

 言ってるそばから、外部の様子を投影する機材からモニターされた光景が見えて、それが照明の代わりになった。

「こいつ、とりあえずは念じる事で動けるみたいだ。装置みたいのはあるけど、念じてると装置の取り扱いも脳内で教えてくれるらしいな」

 好青年のしゃべる言葉一つ一つが、巨像を通してスピーカーのような箇所があるのか、人の集まりの中でも響き渡ったらしい。
 ウエスタン気取りが突然に遅い名乗りを明かした。

「おお〜い好青年〜、俺はサウドル・デントナだ〜。お前さんは何て言うんだ〜」

 変な奴と思ってか、好青年も一応は渋々と名乗りだした。

「俺はハーセアント・セグワム。あだ名はハルス。よろしくな」
「家名からして偽名だな。セグワムは企業の登録名だしなんか人名にはおかしいからな」
「本名の家名なんてもう忘れてるよ。適当にくっつけただけの戸籍だし」

 サウドルとハルスの対話の状況を見た村人たちは、批判等の険悪なムードで噂しだした。

村人みんなになんか悪いな。ちょっと、人気ひとけのない広場に移動してみる」
「ハルス、判った。ここの人たちは俺に任せておけ」
「サウドルさんありがとう。じゃ移動するか……」

 機体の移動も念じる事でやってみせようと何とか実行に移した。
 機体を信じ、その機体も乗り手を信じてるようなハーモニクスで何とか息や呼吸を合わせる事を成し遂げたハルス。

「こっちの方が広くてこの巨体を慣らすのに最高のポジションだな。よし、ここで基本操作を復習しよう」

 ハルスは鞍内部でブツクサ言いながらもその宝節機ほうせつきを稼働訓練してみせた。
 そんな時だった。
 突然空から何やら宝節機の同型機体が飛んで来ては広場に着地しだした。

「な、なっ……何だ  俺のこの機体と似ているシルエット? 何者なんだよ一体?」

 広場に到着したもう一体目・・・・・は無線通信越しにハルスに語りかけた。

「そこの宝節機の乗り手に告ぐ。機体を降りて離脱せよ。二度は言わない。さもなくば、それごと手土産に持ち帰る。無駄な争いは避けたいからだ」

 負けず嫌いのハルスは不機嫌になり、相手の乗り手にも返答しだした。

「いきなり領地に飛んで来ては、あんた礼儀も知らないのか? まあ良い、俺はハーセアント・セグワム。あんたは何者だ」

 ハルスにも何とか無線通信の使用が判断できたらしい。だからこうして対応もスムーズにいった。

「私はニクォム・ホゼンネーである。声からして若いな。では、ハルスとやら聞くがいい。大人しく地上領域に連行せよ」
「俺はアメノソノの民。アメノソノ以外に行く気はない」
「ならばソレ・・を棄てて己は残ればそれで済む事だ」
「何  コイツは俺の所有物モノ。誰が他にやるものか」
「そうか……そうやって楯突くとはな。そっちがその気ならその機体、私の宝節機に縛り付けて強制連行するしかあるまい」
「何を判らん事を〜」

 ニクォムは天域に行く途中で確保してきた50メートルくらい長いロープで自機と共にハルスの宝節機と固定しだした。

「これで固定完了だ。悪いが強制連行に付き合ってもらう。では、帰投するぞ」

 ニクォム機がフライングパーツを展開させてジェット・ブーストを吹かせて飛翔しだした。

 地上領域に着地寸前にはハルス機は力いっぱいに抵抗しだし固定されたロープを引きちぎったのだ。

「そなたは、まさかこの機を狙って大人しくしていたのか?」
「お生憎様、百も承知で他所の領域で戦える。俺の庭で争って被害出すにはいかないんでね」
「何と、策士紛いに……ふざけおってからに〜」

 ハルスとニクォムの取っ組み合いは互いの感情のぶつかり合いとしておこなわれた。

 その頃のサウドルは、村人たちを鎮めるのに一苦労した。

『ハルス……あいつは今、苦戦中か? どちらにせよ、地上領域では逆らえば極刑は間違いあるまい。無事でいてくれよ』

 そんなかたわら、正規ジュエロスイーパー、カッマフト諸島・イファとう支部連隊は、連隊長メグツィ・チサーが指揮の緊出班きんしゅっぱんをイファ近郊の諸島じゅうに見張りとして緊急出動させていた。

「チサー隊長も人悪いな。こんなジャングル偵察なんてさ」
「毎日毎日、定期の見張りはうんざりだって」
「回収した装石が、我らの班の出動時に強化魔人の乗り手として処女飛行させられた頃はヒヤヒヤさせられたがな」
「そこ、無駄口多いぞ。真面目に偵察だろ。真剣に仕事しろよ。いつも、この私が代表者で叩かれるのだから」
「了解であります。副班長」

 どうやら彼らは住民から回収した装石を人型もとい〘強化魔人〙に換えては鞍の中に乗り込んで機体を操作している軍人であった。
 軍隊訓練で操作等の扱いはもはやプロ並みの能力値は上げているが、敵対者のない世界では、強化魔人を起動させても単なる退屈しのぎの仕事に過ぎないでいた。

 そのカッマフト諸島南下の涯果はての孤島ヤンターリの奥地、原野で2体の強化魔人が激闘を繰り広げていたのだ。
 2体のそれは紛れもなくハルスとニクォムの二人の対決だった。

「副班長、ヤンターリ奥地の涯果で戦闘らしき展開中の熱源を捕捉できました。自分が対決の状況を撮影してきましょうか?」
「どうせ、素人との揉め事の一端に違いない。放置しておけば良い。だが、しかし……毎日成果も出せない班だ。これも功績の為だから、介入措置として様子は見ておこう。皆、ヤンターリ奥地へ合流するぞ」
「了解!!」

 緊出班の編隊飛行がヤンターリ奥地へと集中していった。

 一方、ハルスは何の武器もなく張り手相撲を取るような取っ組み合いでもたついていた。相手のニクォムも負けず劣らず抵抗してるが、お互いが手持ち無沙汰なので、武装強化もない単なるマシン同士の喧嘩が展開しているだけだ。
 駆けつけた緊出班編隊が取っ組み合い中の2体を強制して引き離した。

「どんな事情であれ、軍部管理の装石を私利私欲で使用した容疑として軍がお前たちを拘束する。直ちにお前たちは極刑対象として丁重に身柄を預からせてもらう」

 副班長らしき扱い慣れた裁き方で、無駄な争いに終止符が打たれた訳だ。
 軍部管理が懇切丁寧なのか、しばらくはジュエロスイーパーの圧力に逆らわずに拘束を受ける事になったハルスとニクォムだった。

 

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