クリスガイズ

汰綿欧茂

宝節機1 クリス石、発動!!

 ここは、地球とは異なる異空間の世界。
 醜石しゅうせきを集めてそれを商店に貢献すれば、商品に引き換えてくれる。言わば金銭と同じ代物だった。
 この醜石がなけりゃ人類は廃れてしまう。
 ジュエロアスというのがこの世界の名前。
 地中の奥の光る石を採掘匠マインマスターが掘って集めてるから、人類は今の今まで生き延びてきたのだ。
 採掘中、装石そうせきを見つけたら、正規軍ジュエロスイーパー(略称はスイーパー)に届けねば、その採掘匠は即座に拘束、刑罰に処されるスパルタ制度が敷かれている。
 スイーパーは、武装強化指定鉱物資源を徹底調査している。世界全土に渡り調査は9割程に武装強化可能な危険鉱物資源を回収してきた。だが、後もう少しの所でコンプリートポイントの1箇所に辿れば、世界全土の鉱物資源を管理できる。
 それが不可能なのは、コンプリートポイントの位置が軍の手が届かない位置に存在・・しているから――。
 コンプリートポイントは軍が手を伸ばしても不可能な高所、天域の涯境はての環境、アメノソノと呼ばれる大地だった。
 たった1割のアメノソノに軍が屈するのは仕方ないと、インターナショナル・ジュエロアス協会(略称はINJアイエヌジェイ)は諦め、協会会長は、アメノソノを〘アウトサイダー〙と決定を下した。
 この決定により外界協定法が発布したという。

 アメノソノにも採掘場があり、鉱物資源の醜石はたくさん採掘できると言われる。
 それでも軍が回収したがる危険鉱物資源は未だに採掘不可能な天域であった。

 天域と呼ばれる理由。
 地上領域との高低差が開き境界地点で空気圧のような結界と思われるバリアーが張り巡らせている領域だからだ。
 アメノソノの名は、一度結界破りの成功者がスパイして領域の名を漏洩したと最も古い〘天域資料〙に記されてあった。そのスパイは、アメノソノの呪いなのか、諜報資料提供後に自然発火死したと文献に記されてある。
 こんな事情の多い世界でも、大きな争いもなく、平和的な環境に維持したのも大量の鉱物資源の存在のお陰かも知れなかった。
 アメノソノも地上領域とおんなじ一般民族の生活様式は地球の文明文化スタイルと変わりない。
 アメノソノ市民にとって鉱物資源の採掘行為は毎日欠かせないほどにその労力の大半は日常労働消費量よりも酷いほどだ。
 アラオラと名のアメノソノの代表格〘天域鉱道主こうどうしゅ〙が存在する世界では、地上領域をも監視できるツワモノだ。
 アラオラの存在もスパイによって知らされた名。
 
 そして、このアラオラ姓名歴代も5代目鉱道主にいたる現代になり、その就任がやっと終えた所まで時代は追いついた。
 鉱道主5世就任式典で賑わっているかたわら、鉱道圏外の西南西集落エリアでは新生鉱道主においては無関心な都市区民が区内で大賑わいになっていた。

「誰がなんと言おうが鉱道主を持ち上げるものか〜!!」

 と酔っ払い区長の口から酒の勢いで漏れたのだ。問題発言でも、酔っ払い連中には特に反発する者はいない。醜石という税金を支払ってる区民の労働者には気分の悪いシステムだから、こういう愚痴を酒が入れば言い飛ばすのは当然だ。

 鉱皮膜酒ミネロエールを静かに飲みほす好青年は、賑やかすぎる酒場の酒がマズくなったのか、夜風で酔いを覚まそうと店を後にした。
 一人の時の黄昏ムードをぶち壊すように、割って入り込んだ保安官風な装いのウエスタン的な野郎が軽口を叩いた。

「夜風は肌を悪くする。冷やすと体こじらすぜ」
「一人で黄昏てるんだ。勝手にやらせてもらう」
「なんかつれないな。おたくさ、鉱物清水のバーボンイケる口か?」
「酒を誘うには愚かしい口ぶりだな」
「余計なお世話だったな。割り込んで悪かったな。邪魔をした、失礼」
「……何なんだ、あの野郎は」

 世が仮染めの青空を用意したなら、それが今日なのかも知れないと思いながら、黄昏好青年は翌朝一番に稲刈り労働に勤しんでいた。

また・・会ったな酔い覚ましの黄昏青年!!」
「先日のウエスタン気取りか? 邪魔だ、畑作業の妨げだ、どけ」
「働いてどうする? 単なる惨めだぜそんな事」
「あんたには関係ない」
「農産物の貢献は生活苦だろうに。まだ鉱物資源の発掘がまともだぞ」
「この世は鉱物だけが食い扶持の糧にはならない。稲や穀物だって人の食料だ。そんな産業廃棄物を出す再利用目的の資源なんて手伝えない」
「言ってくれるな。ま、採掘場まで引っ張り出すとするか」
「俺は行かないぞ」
「強制すると言ったからな。確かにな。足掻いても無駄だからな」

 ウエスタン気取りは、好青年の稲刈りを無理強いで制止しだした。
 鋸鎌のこぎりがま風の農具で振り回した好青年。ウエスタン気取りが彼を制止するには苦難だった。
 農具の刃先が農地にグサリと刺さったその時だった。
 刃先が土中をエグるように刺したはずだ。土中に何か埋まっていそうな感じの硬い物を小突く甲高い音声が、悶着もんちゃくしてる二人の間で響き渡った。
 採掘魂が発動したのか、ウエスタン気取りは、鎌を外して刺さったポジションを掘り始めた。
 甲高い音声の正体が顔をさらけ出すと金色の光が解き放った。

「うわぁぁ……なんの光だあ!!」

 二人共驚愕しては、同時に尻餅着いた。
 金色の鉱物資源〘装石〙が光の正体だった。
 発光が止んでそれは、宙を自力浮上した。

「宙を舞う鉱物資源? 武装強化のヤツ、装石だぞ。軍に渡さないと処刑ものだ。おい、好青年、このブツを取り扱うの手伝え」
「俺の農地で見つけたんだ。コレは俺の物だ」
「馬鹿野郎が。よく考えろ。装石とはなスイーパーが欲しがってる存在なんだ。届けないで管理するとお尋ね者になるぞ」
「嫌だ。コレは俺が管理する。文句は言わせない」
「この、強情っぱりが〜」

 言い争いのスキを狙い、装石を触れる好青年。すると装石は、10数メートル大のサイズに膨大し、ひび割れた跡のような綺麗に整えた直線の筋から分離変形しだした。
 変形を完成させたソレは、全身が鉱物で生産された巨体の人間そのものだった。

「話に聞いていた通りに、装石の脅威は、まさにコレの事だったのか?」

 ニヤケ顔で感動したウエスタン気取りが嬉しそうに語った。
 好青年は全身震えてか、強張こわばって声が出せないでいた。

 一方、正規軍ジュエロスイーパー本拠地敷地内から随分と距離を置いた離宮をおもわす重役住居の中。住居の主人、地上防衛総監が日中の景色を傍観していた。
 スイーパー率いるゼネラルグレードのジングソン・ヴァウリが住居敷居内に呼び出されている。
 地上防衛総監は106歳。長寿番付に載るくらいの長生きをしているらしい。

「共鳴? いや、共振による震えか?」
「このジングソン、総監の身を強い揺れからお守りいたし奉ります」
「良い良い。これは、装石が自在運動を働かせたシルシだろうな〜」
「装石とは……あの膨張変形時の地響きか? 強化魔人がどこかで覚醒したか?」

 総監が右手を挙げて親指と中指で指鳴らしすると、殿中居士きょしが入室した。

「曾々孫をお呼び通せよ」
「はい、総監殿、よしなに」

 ジングソンが慌てるように問いただした。

「居士を構えさせるとは、まるでこの時が訪れる事を予測したように思えます」
「ゼネラル殿にもお見受けさせよう。アレを……」
「はい? アレとは……」
「曾々孫がくれば今に判る」
「(なんて余裕綽々よゆうしゃくしゃくなのだ)……ううむ」

 総監の曾々孫にあたるニクォム・ホゼンネーが最高重役室に来訪してきた。

「大お祖父様、お呼びで仕りますか?」
「呼んできてすぐに戻らせる事になるな。ニクォムよ、お宝・・をここに頼もうかのう?」
「なっ、アレをですか? 何か緊急時なのですか?」
「ウム。お宝を持参したら武闘庭園までにな……」
「判りました、大お祖父様」

 曾々祖父と曾々孫の対面は実に久しい事だった。総監は、最後にニクォムと会った頃は一つとて忘れてはいなかった。
 走馬灯のように想い出が脳裏に焼き付き、回想録が脳内再生された。
 そう想い出に浸っている時に、曾々孫が戻ってきた。

「大お祖父様、このはこの中がお宝だとお見受けします」
「そうか……なぁ、ワシに見せてくれまいか」
「あ、はい開けてみます」

 その匣の中は、先程まで天域、アメノソノの稲田の中で巨体化された輝く石そのものだった。

「匣ごと見せてもらおうぞ。ほら、それ渡しなさい」
「あ……は、はい、大お祖父様」

 総監は側近等の周囲の者を遠方へ退けるよう促した。そして、ニクォムに厳重注意である要点を判るように説明した。

「ニクォム。これからお前はワシの言ったことを信じて行ってもらう。良いな」
「う、うん、判りました」
「ワシがこの匣から装石を取り出した時に、お前は気を沈めて精神を細くする為に研ぎ澄ました魂を解放。その瞬時に装石の上部に指先を接触せよ。出来るか?」
「なんとかやってみせます」
「では、やってみせよ」
「あ……あ、はい」

 ニクォムは己が魂を研ぎ澄まし、目を閉じ自身を流れる水に変えるようにし手を差し伸べた。
 その指先が装石表面に触れた時、金色に輝き放った。その場にいる全員が目が開けられないくらいに眩しい閃光からその20倍以上ものサイズの石に膨張した。

「これが装石の鼓動なのか?」

 総監はひるみながら感動した。
 ニクォムは、その石のひび割れに似た破壊のような光景を見、自在に稼働しては形を変えて人体へと形作った装石の動きに唖然あぜんした。

「巨大な人の形……だと 」
「ニクォムよ、これが装石の正体よ。クリスせきから生成した残虐かつ脅威の姿、宝節機ほうせつきであるぞ」
「宝節機  このデカいものが……か?」
「さぁ、アレの胸部から門戸が開放した。あそこのくらの中に入るが良い。それでアレを稼働してみせよ」
「大お祖父様、アレの手が私を誘い込んでます。あの手の指示に従ってみます」

 巨大な手に乗っかり操作できる鞍に入るニクォム。鞍内部の計器はまるで飾り付けのようだ。操作条項なんて一切不明。だが飛んで天域へ目指すと念をこめた時、機体は宙を舞ったという。

「なんて事だ。思念通りに自在に操作できるぞ」

 宝節機の名の巨人は背中のジェットブーストにより噴射して、天域のある目的地まで飛翔したのだった。
 



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