トリップ女子高生はとにかく帰宅したい。

ねんねこ

03.

「コルネリアの知り合いっぽいけど、どうしよう? 任せちゃ駄目なんじゃないかな」


 隣に突っ立っていたイーヴァにそう話し掛ける。険しい顔をした彼女は曖昧な返事を寄越した。どうすべきか考え倦ねているのが伺える。
 また、アールナと一緒に現れたロイヤリティなおじさまはうんざりしたように溜息を吐き出し、女二人の争いから目を逸らした。興味を失った、と言えばそれが一番近いだろう。


「我々はお前に用がある、珠希」


 朗々たる声音でそう言い放った男は間違い無く自分を見ていた。誰が『珠希』であるのかを認識している。
 妙な威圧感、拒否は許さないとでも言いたげな態度。諸々を加味した上で危険人物の判を押した珠希は数歩後退った。代わりにこの場における保護者、ランドルが一歩前へ出て男の動きを牽制するように手で制する。


「どちら様でしょうか。見ての通り、珠希さんが貴方に対して警戒しているようです。ご用件をどうぞ」
「クソッ、ここが現代なら即110番するのに……!」


 というかそもそも、前々から思っていたが本人の目の前で堂々と誘拐宣言する心理状態が謎過ぎる。あなたそれ犯罪だからね、と声高に言ってやりたい。言ったところでそれがどうしたと返されそうだし、それを予測出来ている自分も嫌だ。
 妙に現実味を帯びた思考が脳の一部を支配する。現実でありながら、現実から逃避しているという最高の皮肉っぷりには最早失笑すら出ない程だ。


 分からないね、とイーヴァが眉根を寄せた。


「珠希に何の用事があるというの? あなた達はきっと魔族なのだろうけれど、その魔族に珠希が必要であるとは思えない」
「それを貴様に教える必要があるか? 必要だと言ったら必要だ、それ以上でもそれ以下でもない。では逆に問うが、我々に目を着けられている事はあの混血が失敗したせいで知っていたはずだ。であるにも関わらず、何故リオナ神殿の跡地に寄った?」


 ――ロイの親友と噂のフリオだろう。
 しかし、リオナ神殿との関連性は分からない。神殿に寄る事は自分自身にとって不都合な移動だったのだろうか。
 疑問に思ったのはイーヴァも同じだったようだ。更に眉間の皺を深くしている。


「リオナ神殿? それと珠希に何の関係があるの。彼女はただ故郷へ帰りたいだけ。神殿へ向かったのは手段の一つに過ぎないよ」
「我々が何度探しても見つからなかった、土産を持ち帰っているようだな」
「……あっ!?」


 すぐに何の話か分かった。あの小瓶だ。しかも、リンレイと会った後から敷地内にこのオカルトアイテムを捨てるのもどうかと思ってポケットに突っ込んだまま。まさか、あそこで小瓶にうっかり触った事を、ここまで引き摺る羽目になるとは。
 しかも土産感覚で持ち帰ったのではなく、元の場所に戻したにも関わらず勝手に着いて来たという方が正しいし。


 全てを把握したイーヴァは渋い顔をしている。その目は珠希――ではなく、リオナ神殿へ行こうと言い出したランドルへ注がれていた。
 ところで、とアールナが話に割って入る。見れば、コルネリアとは未だに啀み合っている状況だった。


「混血の彼――フリオを見なかったかしら? あの子、わたくし達の依頼を蹴って姿を眩ましてしまって困っているのよ」
「見ていないよ」


 さらりと答えたイーヴァ。嘘は吐いていないが、アールナは意味深に嗤うのみだ。ものを訊ねておきながら、その解答を信じる気は無い。そのスタンス、必要?


 呆けていると、パッとコルネリアがアールナから離れ、目の前に戻って来た。クツクツ、とアールナと男が嗤う。


「ともかく、わたくし達は彼女に用が有るのよ。一緒に来てくれるわよね、珠希ちゃん」
「いや……遠慮しておきます」
「そう。残念だわ」


 全く残念そうではなさそうに溜息を溢したアールナ。その手にはいつの間にか杖が握られていた。両手に、1本ずつ。決して長くはないそれの中間あたりを握りしめている。金と銀の光が怪しく日光を反射していた。



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