トリップ女子高生はとにかく帰宅したい。

ねんねこ

02.

 フェイロンに出口まで送り届けて貰い、外に出ると既に昨日のメンバーが足踏み揃えて待っていた。その上、昨日はいなかったイーヴァも参戦している。というか、最後だったのか自分が。


「わー、待たせちゃってすいません」
「いえ。というか、皆同じ場所で寝泊まりしているのだから呼んで行けば良かったと思っていました」


 ランドルの大人対応にそっと胸をなで下ろす。コルネリアはどう見ても待つのに飽きており、クルクルと指で自らの髪を弄っていた。暇だった事が伺える。


「イーヴァ、今日はどうしたの?」
「やる事が無くて。珠希も心配だったから、魔法レッスンの様子を見に来た」
「そういえばイーヴァは魔法が使えるんだよね」


 いいえ、と彼女は首を横に振った。


「私のこれは、使えるとは言わない。初歩の初歩、魔力量が足りないからこれ以上は何も出来ないの」
「イーヴァはあれ? 体力とかがちょっと無い系の子?」
「私の魔力値は、人間の平均よりほんの僅かに上だよ。珠希、本当に魔法が使えるようになるの?」


 ――いやそれは私が聞きたいんだけど……。
 何とも言えないので苦笑する他無かった。が、そういうのに精通していそうなランドルが大丈夫と言うのなら、手放しに大丈夫と言ってしまえそうな気がしなくもない。
 彼女に参加のお願いをしたのは、とランドルが不意に呟く。


「あの脳筋ロイさんに術式の起動方法を教えたのが彼女だったからです。彼が出来るのだから、きっと君にも出来るはずでしょう」
「ロイくんに失礼だと思うけど、妙な説得力があるのも確かな言葉ですね。というか、ロイくんは? 何か凄い魔法を発動した、みたいな感じで本人が話してたし、イーヴァより魔力? があるって事なの?」


 やはりイーヴァはいいえ、と首を横に振った。


「ロイの魔力値は平均を下回っていたの。だから、錬金術で術式を発動させるのに相応しい素材をそのまま魔法に転用する為の処置を施した。彼は自身の魔力を使って魔法を発動させたのではなく、持っていた竜素材の武器を魔力に変換措置して、魔法を発動させた」
「え? ……えっ? つまりどういう事?」
「コルネリアが以前、珠希は他所に魔力をタンクしていると言ったけれどその原理の応用って事」
「…………へぇ、そっか」


 考えてみたけどよく分からなかった。あまりにも理解が悪過ぎるせいか、微妙な沈黙が落ちる。ややあってコルネリアがポツリと溢した。


「いやさ、良いから始めようぜ。立ち話しに来た訳じゃないんだからさ」
「それもそうですね。では、まずはこちらを――」


 懐から何かを取り出そうとしたランドルはしかし、その動作をぴたりと止めた。どうしたどうした、と顔を上げると珠希より頭1つ半分は背の高い彼は、自分を通り越して背後を凝視していた。
 ちら、と皆の様子を伺うとどうように背後を見ている。どちらかと言うと、大変険しい表情で。


 遅ればせながら、振り返って背後の状況を視認する。


「えっ、いや誰?」


 全然知らない人達が立っていた。2人組だ。片方は女性、もう片方は男性。どことなくフェイロンやコルネリアから感じる、人間の常識では生きていない空気を纏っていると言えるだろう。
 更に言うと、双方とも現実味の無い風体をしている。やはりパーティにもいる人外2人の初見時と似通って感覚だ。


 ぼうっとその様を眺めているうちに、いつの間にやら現れた2人のうち女性が口を開いた。唇は優美に笑みの形を描いているが、目はちっとも笑っていない。猛禽類のような金色の双眸が僅かに眇められた。


「ご機嫌よう。お尋ねしたい事があるのだけれど、今いいかしら?」
「賢者様へのお客様ですか? アポは――」


 首を傾げながらも客人を扱う体で一歩足を踏み出したランドル。その肩をコルネリアが掴んで元の位置に引き戻した。


「アールナ……。ここで何やってんの? 旅行?」


 そうではない事を分かっていながらも、皮肉るように訊ねるコルネリアに女は不快を剥き出しにしたような表情をする。彼女――アールナとコルネリアは明らかに知り合いのようだった。


「それはわたくしの台詞ね。お互い、旅行などでは無い事など分かりきっているのではなくて?」
「馬鹿、世間話の体を装ってるだけだろ。目障りだから消えろ、つってんの。分かるでしょ?」
「相変わらず野蛮ねえ。随分と可愛らしい格好をしているようだけれど、何? 合わせてあげたの? お優しい所もあるじゃない、小賢しくって素敵よ。けれど、その品のない赤色は駄目ね。攻撃的だし」
「煩いな、好きなんだよ。赤。というか、お前だって皮を一枚剥けば同じようなものだろうよ、盛大なブーメランだな」


 ――な、何か言い合いが始まってしまった……!
 というか、何故だろう。アールナと呼ばれた彼女、どこかで会った事があるような気がしてならない。声を聞いたらうっすらと何かを思い出すような感覚に囚われる。



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