トリップ女子高生はとにかく帰宅したい。

ねんねこ

01.

 イーヴァ、ロイ達と落ち合ったのはフリオ一行が奇襲を仕掛けて来てからおよそ2時間後だった。バラバラに行動し、各々自由に過ごしていたのが災いしたというか、集合場所を明確に決めていなかったので数十分はすれ違い続ける結果となってしまったらしい。
 恐らくはコルネリアとフェイロンがどの道を進むのかで揉めなければ、もう後数分は早くイーヴァ達と再会出来ていただろう事だけが悔やまれる。


 ともあれ、ロイの輝かしい笑顔から聞かされた親友とのしがらみが解けた件について、珠希は素っ頓狂な疑問の声を上げた。


「え!? 勝った? 前、あんな一方的にボッコボコにされてたロイくんが!?」
「流石に傷付くだろ、言い過ぎ! まあ、真正面から殴って勝った訳じゃないけどな。イーヴァには感謝してるよ」
「そうだね……。猪みたいなタイプのロイくんに、不意討ちは厳しいもんね」
「さっきから俺に当たり強く無い?」


 ああそれと、とイーヴァがやや険しい顔で珠希にとってはかなり重要な情報を吐露する。


「フリオが言っていたのだけれど、珠希の事、誘拐しようとしていたでしょう?」
「ああ! 今回も私の事を執拗に誘拐しようとしてきて、驚いたけど……何か分かったの?」
「フリオ達が珠希を攫おうとしていたのは、外からの依頼を受けていたからみたい。だから、フリオ達自身は別に珠希の事は必要無いけれど、依頼者には珠希の身柄が必要なのだと思う」
「い、依頼で誘拐!? 凄い字面だね」


 腑に落ちぬな、とフェイロンが眉根を寄せた。


「何の為にそのような依頼を受けた?」
「資金稼ぎだって言ってたかな」
「それこそ違和感が拭えぬ。それではまるで、あのフリオとやらは行き当たりばったりで人類滅亡? などという失笑ものの計画を企てた事になるぞ。あれの性質上、考えも無しにそのような大仰な計画を立てるとは思えぬ」
「それは私も考えてた。珠希を攫う事で、何か大量に人殺が行えるような事情があるのだと思っていたから」


 ――私を攫う事で大量の人が殺せる?
 そのどこから出て来たのか分からない謎理論には悪寒すら覚える。何故、そんな飛躍した考えを抱いたのか。困惑していると代わりにコルネリアがそれらしい事を答えてくれた。


「お前がどこから来たのか分からない、どこにも属さない世界の異界人だからだよ。お前は自分の事を人間だと思っているが、実際は人間なんて脆弱な存在じゃないかもしれないだろ」
「ええ!? 人間かどうかを疑われたのなんて、生まれて初めてなんだけど!」
「珠希、仲間内でもそんな風に疑われてんだぜ? こいつ等とは手を切って、あたしとアーティア巡りでもしようじゃないか」


 誤解するような事言うなよ、とここでコルネリアの適当この上無い言葉に異を唱えたのはダリルだ。


「別に俺は珠希ちゃんが人間じゃ無い、とか思ってないって。いや、他の連中は知らないけど」
「ダリルさん、フォローするならしっかりお願いします……」
「お、おう。ごめんな。そうだ、ランドルさんはどう思う?」


 唐突に話を振られた召喚師は薄く笑みを浮かべ、ダリルの問いに専門の知識を以て答えた。


「僕は珠希さんがアーティアへ迷い込んだ有力な仮説として、『召喚事故』を推しているんですよね。で、この案が正しいのであればただの人間とはいえ、召喚された際に何か別の力や生物の器として利用されている可能性があります」
「はい? ごめんな、俺にはよく分からない理屈だわ」
「ダリルさんは水を運べと言われた時、どうしますか? 何か器やグラスに水を入れて運ぶのではありませんか? 珠希さんは、そのグラスの役割を担っている可能性があるという事ですよ」
「という事は、あたしの予想もあながち間違いじゃないって事だな!」


 勝ち誇ったように嗤うコルネリアを、今度こそダリルも諫める事が出来なかった。何故なら、魔族の彼女が言う事は至極正しい、正論だったからだ。
 何かの入れ物、容器。
 しかし、保存されるべきは例の『何か』ではなく珠希自身であるような気もする。少なくとも異世界へやって来る前、直前の自分は間違い無く交通事故に遭っており骨が折れただけなら僥倖、最悪死亡している可能性もあった。


「悩んでいる所悪いけれど、私はコルネリアに訊きたい事がある」
「お? 珍しいじゃんイーヴァ」


 申し訳無さそうに目を伏せたイーヴァはしかし、コルネリアへと単刀直入、出会い頭にナイフで相手を刺すような迅速さで問い掛けた。


「フリオ曰く、依頼人は魔族の2人組だったらしいけれど――コルネリア、何か知らない? 私はその依頼人とあなたが、全くの無関係であるとはとても思えない」
「今度はあたしを疑う気?」
「気を悪くしないで欲しい。あなたはそういったリスクを承知の上で、必要の無い相棒召喚に応じているのだから」



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