トリップ女子高生はとにかく帰宅したい。

ねんねこ

18.

 話を打ち切るように、分かったよ、とフリオは首を横に振った。


「――手は引く。ただし、私達は私達が安全に暮らせる地を探すし、それを諦めるつもりは毛頭無い」
「え? マジで? お前、俺等と一緒に旅に出たりとかしない訳」
「その飛躍した考えはどこから出て来た……」


 行く所も無ければ住む所も無いのであれば。流浪の旅に出るのでは、という結論に至ったが故に出た言葉である。しかし、フリオその人は心底呆れた顔をしていた。


「悪いが、私には同じ境遇の仲間がいる。彼女等を放って自分だけ旅に現を抜かす事は出来ないさ。それに、安住を望む者も少なからずいる」
「あー、まあ、そっか。つか、アテとかあんの? 村なんて襲ったら一発で国から目付けられると思うけど」
「さあな。新しく開拓するか、村を乗っ取るか――まあ、そのへんはお前には関係の無い事だろうさ」
「ふぅん……」


 それならば、と事の成り行きをただただ見守っていたイーヴァが不意に口を開く。腕を組んだ彼女はフリオを通り越してどこか遠くを見ていた。


「カモミール村はどう? 少し前に人狼に乗っ取られていた村だけれど、国が後処理をきちんと行ったのなら、今は人っ子一人住んでいないはず。まあ、珠希のお友達が第一住人になっているかもしれないけれど――きっと、あなた達とは仲良くなれると思う」
「カモミール? ああ、そういえば私も少し前にあの辺りには足を運んだな。獣臭い村だと思っていたが、そんな事になっていたのか」
「混血である事に救われたね。ただの人間だったら、私達のように襲われていたかもしれない」


 思案するように黙り込んだフリオは頷きながらゆっくりと立ち上がった。足取りは覚束無いし、思い切り押したら倒れてしまいそうだが意識はしっかりしている。頭痛でもするのか、頭を押さえた彼は一応の結論を弾き出したらしい。


「――取り敢えず、カモミール村に行ってみようか」
「それと、一つ訊きたい事がある」
「たまきちゃん? とやらの件か? 悪いが、資金集めの為に外から受けた依頼なんだ。何故彼女が付け狙われているのかは知らない。が、そうだな……その依頼を申し込んで来たのは、魔族の2人組だった」
「魔族……」
「これ以上は私に訊くより、お前達が連れて歩いている魔族の女に話を聞いた方が有力な情報が得られると思うがね。あまりにも出来過ぎていて、偶然とは思えない」


 確かに。フェイロンの愚痴曰く、魔族という種は本来人の力を頼らずともアーティアへ行けるだけの力を持っている。具体的に言ってしまえばコルネリアは珠希の相棒召喚に応じるだけのメリットが無い。デメリットしか無い。では何故、召喚に応じたのか。


「ありがとう。コルネリアに話を聞いてみる。あなたはこれからどうするの?」
「仲間を回収して街からは出るさ。流石に周辺を破壊し過ぎた……」
「俺の予想っていうか勘だけど、お前の他の仲間達もやらかしてると思う」
「止めろ。お前の勘は本当によく当たる」


 はあ、と溜息を吐いたフリオは背を向けると片手を挙げ、そのまま消えて行った。まるでこの場の関係者ではありませんと言わんばかりの振る舞いは流石の一言である。
 それを見送った後、イーヴァに声を掛ける。


「協力ありがとな! おかげでアイツ、これ以上アホな無茶はしなさそうだ!」
「そうだね。……でも、随分とあっさり諦めたけれど……」
「え? まさか、俺を納得させてその場から逃げ出す為の嘘!?」


 いいや、と訝しげな顔のイーヴァは首を横に振った。


「恐らく、ロイと話をしていた彼は素だったと思う。むしろ人類滅亡だなんて言っていた事が、異常。彼は頭が良い。普通に考えて人類なんて滅亡させられるどころか、大陸中の人間を皆殺しにするのすら無理だと分かっていたと思う」
「んー。でも確かに、俺の馬鹿な言動をいつも諫めるのはフリオだったな」
「ずっと違和感があった。彼は変な所で常識的だったし、ロイのちょっと引くような発言に対しても流されずに注意を促すような大人の対応が取れる、そんな人のように感じる」
「でもイーヴァ、俺が頭を縫った時に宿で相手は本気だ、つってただろ」


 フリオが去って行った方角を見ていたイーヴァは険しい顔をしている。


「珠希の力を応用する、とかそんな感じで人類滅亡の『大まかな手段』があると思っていたけれど、ただの資金集め用の依頼だった。そして今回のあっさりした手の平返し……、依頼をした魔族の2人組……、噛み合わない言動……」
「おーい、イーヴァ?」
「……魔族はあらゆる魔法を扱う種族。彼、もしかするとその2人組にある種の洗脳でもされていたのかも。勿論、私の突飛な妄想に過ぎないけれど」
「うーん、何かスゲェしっくりは来る。けど、なんでフリオだったんだ?」
「何かあった時のスケープゴートとして、混血の反人間集団は最適すぎる程に最適だから。私がもし、表舞台に上がらないように誰かを使って目的を達成しようと思った時に、混血で人間に恨み辛みを持っている混血の青年は扱いやすいと考える」


 無いとは言えないような、しかし確証も何も無いイーヴァの妄想の域を出ない推測。しかし、ある種の確信を以てロイは拳を握りしめた。


「それだ! イーヴァの妄想が、俺は正しいと思う!」
「どうしたの、いきなり……さっきも言ったけれど、これは証拠も何も無い。私の妄想でしかないのに。正しいって、何を根拠に言っているの?」


 困惑したような彼女を前に、不敵な笑みを浮かべたロイはこう言い切る。


「――勘!」



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