トリップ女子高生はとにかく帰宅したい。

ねんねこ

18.

 しかし、珠希の心配は杞憂に終わった。
 見れば退避しなかった人外3人組とダリルは一塊になっている。戦闘にコルネリアが立ち、その後ろでフェイロンとディートフリート、ダリルが待機している形だ。


「――成る程、結界系の魔法ですね!やはり彼等のような方達がいると助かります」
「よくあんな急に吐いたブレスに対応出来ますよね。オレだったらテンパって死んでたッス」
「カールハインツ!貴様、一番に退避して!!」


 言いながらも鞘を差し直したヴィルヘルミーネが結構な速度で再びドラゴンとの間合いを詰める。
 しかし、前戦にいたフェイロンがその行動を押し留めた。


「ヴィルヘルミーネ殿、俺とダリル殿で羽を落とす故、援護を頼む」
「ええ、了解致しました!」


 ねえ、と声を掛けて来たのは何故かこの場に残ったカールハインツだ。


「あんた、ここで待機?」
「え、そうですけど……」
「ふぅん、ここさ、割と危険っぽいから気をつけた方が良いよ。団長は大丈夫だと思う、つってたけど、あの人等と一般人の耐久力って掛け離れてるし」
「えっ」


 不吉な事を宣った若い騎士はしかし次の瞬間には踵を返してヴィルヘルミーネを追って行ってしまった。
 ――更に、人数が多くて今まで気付かなかったが、ハーゲンの姿が見当たらない。どこへ行ったのだろうか。


「ただ今戻りましたよ――おや、貴方、何でここにいるのですか?」
「何で、って……いや、コルネリアの付き添いですけど」
「成る程」


 どこへ、と思っていたらハーゲンが帰還した。珠希の後ろから現れたという事は、いつの間にか戦線を離脱していたという事になる。疑問が顔に出過ぎていたのだろうか。ハーゲンは爽やかな笑みを浮かべた。


「私は先程まで、待機組に伝言を届けに行っていました。入り口から離れるように、ってね」
「え、何でですか?」
「思いの外、ドラゴンが凶暴なので奴を外に誘き出す事になった時、皆でわーっと殴り掛かるより物陰から狙い撃ちした方が被害が少ないでしょう?」
「騎士とは」


 当然のように不意討ちする気満々である。確か、騎士って言うのは命より矜持を大切にする、とか何とか――騎士道?というものに命を懸けていると思っていたのだが。
 ふふ、とハーゲンが自嘲めいた笑みを浮かべる。


「真正面から戦うのは知的生命体相手だけですよ。ケダモノ相手に真面目に正々堂々、なんてやっていたら命が幾つあっても足りません」
「説得力はあるけど納得は出来ない感じ凄いなあ」
「それより、珠希殿は少し離れた方が良いかと。こんな所に突っ立っていたのでは、ドラゴンのブレス攻撃はおろか、咆吼にすら巻き込まれますよ」
「えっ」


 カールハインツの不吉な言葉が甦る。やはりここは危険なのだ。しかし、今自分が離れればコルネリアが力を失って大怪我をするかもしれない。離れるにせよ、彼女に一声掛けてからでなければ。


「ハーゲンさん、私、コルネリアに一言言わないとここから離れられないんです!」
「うーん、俺が伝えて来る、と言いたいところなのですが――ここ、離れても大丈夫ですか?」
「一瞬離れるだけでも危ないのなら行かないでください!」
「困りましたね」


 ちら、とハーゲンが戦闘の様子に視線を移す。いつの間にかドラゴンは片方の羽を失っていたが、それにしたって攻勢が衰えない。むしろ、手負いで余計に手が着けられなくなっている――
 ふと思いついた。フリオ戦の時は失敗したが、ここからドラゴンを念動力で攻撃出来ないだろうか。動きを止めるだとか、羽を折るだとか。


「ハーゲンさん……!」
「はい?」


 ドラゴンとの戦闘が明らかに気になり、少しばかりうずうずと周囲を見回しているホスト顔の騎士に話し掛ける。


「あのですね、もし私が倒れたら……外へ運んでくれたりなんかしてくれたり、してくれないようなやっぱりしてくれるような事ってあります?」
「え?何ですって?具合でも悪いのですか、珠希殿」
「いや、っていうか、これから悪くなる可能性があるっていうか……でも!上手く行ったらドラゴンの動きを止められるかも!しれません」
「えっ、危ないので近寄らない方が良いと思いますけど」
「私はここから動きません!」


 諸々の断片的な情報。その少ない情報量でハーゲンが割り出した答えは簡潔なものだった。


「魔法は駄目ですよ、狭いのだから」
「魔法じゃなくて超能力です」


 ドラゴンの長い首を見つめる。これが人型だったりなんかしたらかなり躊躇うのだが、所詮は羽の生えた爬虫類。可哀相な気がしないでもないが、サイズが規格外過ぎてその可哀相だと思う気持ちも薄れた。
 普段、トカゲやネズミを苛めたら可哀相だ、と思う気持ちは自分がそれらより強い生物であるから生まれるのであって、命の危機に際して可哀相などという気持ちは吹き飛んだ。



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