トリップ女子高生はとにかく帰宅したい。

ねんねこ

02.

「人外とか何とかで思い出したけど、結局、混血って何?テューネさん達が雑種とか言ってたから、大まかな予想は付くけどさ」


 話題を変える為に持ち出した話題はしかし、その場の空気を重い物へと一変させた。完全に選択ミス。
 しかしここは博識なフェイロンの冷静な言葉により、重い空気が授業中のような空気に塗り替えられた。


「混血と言うのは異種族同士の交配で生まれた子供を指す。あの混血人狼達は見たところ、人と人狼の混ざりだな。ただ、やはり性質上差別されやすくはある。人間の血が混ざる事で種族的な価値を失う上、者によっては人と同じ程度の力しか有していない者もおるからな」
「あー、ありがちな、人間の方が弱いから本来の種族より劣化しちゃった、みたいなやつ?」
「ううむ、そう簡単に言えれば良いのだが。その逆もあり得るのが血の力よな。有り余る力に悩まされる者も一定数いる」


 混ざったから弱体化しました、なんて事は無いらしい。
 ファンタジーでありがちな差別問題が、ここでも勃発しているようだ。ヨアヒム達の懸念というか、口調からして人狼の中に混血は混ざれなかったようだし。


「混血問題は閉ざされた村とかに多いぞ!俺のとこもそうだったし、それで村長さんがご臨終しちゃったからな!」
「不謹慎だからもっと慎みを持とうよ、ロイくん。え、村を管理してた村長さんとやらが混血だったの?」
「いいや?混血を弾圧しようとした村長さんが、その混血に暗殺された」


 ――闇が深すぎる。
 あっけらかんと言うロイにもドン引きだが、それ以前にあんな見た目のヨアヒム達の方が何倍も良心的だったという事実にも驚きを隠せない。そうか、混血というのは人間以上の力を持っている場合の方が多いんだ。
 しかし、よく分からない。
 体感的には近所に外国から来た人が住んでいるようなものだろうに、何故それが弾圧に繋がるのだろうか。相応の理由があるのか、それともただ単に気に入らないのか。
 疑問に対して応じたのはイーヴァだった。彼女は至極真面目な、しかしどこか馬鹿馬鹿しいと言った態度を取っている。


「下手に人より力を持っているから嫌煙されるんだと思う。そもそも、人間は群れて生きる動物。その共同体の中に自分達を簡単に害せる存在がいる、って事に敏感なんじゃないかな。それに、混血は数が圧倒的に少ないから」


 そうだな、と後半の言葉にフェイロンが深く頷いた。有角族――高貴な血族代表の彼は混血に対して少しばかり斜めの見解を語る。


「我々人外の目線から見ても、混血は正直処理に困る。隣の部族は混血子を神の子として上手い事処理をしたが、俺達の部族ではそうはならぬだろうな。不自然なものは、不自然でしかない。冷たいようだが、恋愛脳で動かれては困るのだよ」
「それは、あれだろ……フェイロンが恋愛した事無いからじゃないか?俺みたいなおじさんに言われるのもアレだけど、生物の本能的な部分だからさ、一度嵌ると抜け出すのってかなり難しいぞ、恋愛」
「――成る程、ダリル殿の弁にも一理ある。ははは!良い良い、有角族に一般論を語るその姿勢、評価に値するぞ」
「ちょいちょい褒め称えてくるの止めてくれよ。心臓に悪いんだよ、300歳のおじいちゃんに絶賛されるのって」


 混血については見方は色々あるらしい。ただ、複雑な問題らしいので女子高生如きが触れていい話でもないようだ。このメンバーの中に混血はいないが、今後もあまり話題にしない方が良いだろう。意見が食い違い過ぎているので、喧嘩に発展しかねない。某きのこたけのこ戦争のように。


「あ、着いたね。休んでないせいか、長旅だった気分」


 イーヴァが呟き、珠希にも分かるように一点を指さした。
 見えるのは大きな――ショッピングモールばりの建物。何個か塊に別れているが、恐らく全て廊下で繋がっているだろう。唐突に現れた円形の、どこか近未来的な建物に動揺を隠せない。
 この建物、近所に2年前に出来た県立図書館みたいだ。
 古い建物群が並ぶ場所と、最近建て替えられたものが多い建物群。比べてみるとよく分かるが、新しくなるにつれて建物の角があまり目立たなくなっていると言えるだろう。
 そんな新しく丸いフォルムの建造物、それが目の前の建物だ。


「おや珠希、感動したのかね。しかし、大書廊はいつ来ても別世界よな。この建築技術で王都も開発を進めれば、もっと住みやすくなりそうなものだが」
「これが大書廊?近所の図書館にそっくりな造りなんだけど……」


 そっくり?とダリルが首を傾げた。


「これにそっくりな建物があるって事は、珠希ちゃんは結構文明の進んだ場所に住んでたんだね」
「はぁ……まあ、鉄の塊が時速40キロくらいで走る世界ですから……」
「どのくらい速いのか想像出来ないけど、面白そうな場所だなあ」


 無職を自称しちゃう人には辛い世界だと思う。
 とはさすがに言えなかった。知らない方が良い事もあるし、ダリルがこちらへ来る予定は一切無い。口は災いの元だし、黙っておくのが得策である。


「なぁ、ダリル!俺達は外で手合わせしてようぜ!神殿なんて行ってもやる事無いしさ、書廊にも俺等は用事無いじゃん!」
「ええー、元気だなあ。宿取って一眠りしてからじゃ駄目かい?」
「今寝たら昼夜逆転生活になっちゃうだろ!意地でも起きとかないと!」
「微妙に正論言われるとむしろ腹立つな……なんだろこの気持ち」


 じゃあ、とイーヴァはまとめの言葉を口にする。何と言うか、メンバー内役割というか、何かを説明する時はフェイロンが、取り纏める時はイーヴァがよく喋るような。


「ダリルとロイは外で待ってるんだね。宿を取っておいて。今日はさすがに寝ないと、身体が保たない」
「あれっ、俺が外で待機なのは決定事項なんだ……!まあ、いいんだけどね」
「私と珠希、フェイロンはまず神殿に行ってカモミールの報告と測定を。その後はちょっと書廊に寄るから、次にみんなが集まるのは夕食の時だと思う。遠くへ行く時は声を掛けて欲しい」


 これで決まったらしく、ダリルの件を除けば反論らしい反論も上がらず終了した。



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