絶叫除霊師ミソギ

ねんねこ

01.次の当番

 センター1階。起床したらしい雨宮と、南雲&トキのコンビは鉢合わせしていた。まさかこんなにも早く彼女が復帰してくるとは思いも寄らなかったので、同期であるはずのトキもまた唖然としているのが見受けられる。


「やあ、2人ともお揃いで」


 先に口を開いたのはミソギと同室で眠るという大役を担っていた雨宮だった。
 その言葉に小さく瞬きしたトキがややあって応じる。


「貴様、ミソギの面倒を見るんじゃなかったのか?」
「ああそれなんだけれど、実験は成功さ。ただ、夢の主が私の事が気にくわないみたいでね。途中で追い出されてしまったようだけれど」
「で、ミソギ先輩はどうだったんすか!?」


 口振りからして出会う事は出来たようなので、慌てて状況を問い質す。彼女はあくまで冷静に南雲の問いに答えた。


「そうだね、ミソギには会えたよ。どうやら同室で眠れば同じ夢を視られる、という仮説は正しかったみたいだ。樋川結芽と行動を共にしていたけれど、積極的に私へ危害を加えるような事はなかったよ。ミソギに関してはかなり彼女は好意的だったさ」
「じゃあ、取り敢えずミソギ先輩が樋川結芽にどうこうされるって事はないんすね?」
「どうこうされた結果が昏睡状態なんじゃないのかな?」


 それで、とトキが割って入る。


「今は誰が301号室にいる」
「十束と入れ替わってきたから、次は彼の番かな。良い結果が報告出来ると良いのだけれど」
「そうか」
「他人事みたいだけれど、十束の手番が終わっても解決しなければ次は君の番だよ。トキ」
「任せておけ」


 頼もしい事この上無い返事。十束でこの怪異事件が終わらずとも、トキがどうにかしてくれるという謎の確信すら覚える程だ。
 加えて、ミソギに接触できる機会があるからか彼が幾分か前向きになったのも良い兆候と言える。


 同期2人が話しているのを尻目に、南雲はアプリを開いて現状を確認した。
 どうやら、雨宮の言う通り、既に十束は夢の世界へ入っているようだ。ルームに報告が上がっている。動きが大きくなってきたからか、それまで憶測での論争を行っていた白札達が新しい考察を上げているのが分かる。


 ***


 ――また、ここか……。やっぱり樋川結芽に関係のある場所だ。
 ミソギは目を細め、心中で呟いた。


 今居るここは霊障センター3階。恐らくは樋川結芽の病室だ。つまり、振り出しに戻った事になる。あの鏡が何故ここに通じていたのかは不明だが、だんだんとカラクリが解けてきたような気がする。


「ミソギさん、大丈夫?」
「私は大丈夫ですけど……。雨宮、帰っちゃったみたいですね」
「あなたを置いて行くなんて、可哀相に」


 ちっとも可哀相と思っていない口調。それどころか、雨宮が消えてから結芽は少しだけ機嫌を持ち直した。彼女の心境の変化が何を意味し、どうしたいのかが分からない。未知の生物と相対しているかのようだ。


 が、結芽の事ばかりを考えていても仕方が無い。雨宮は確か、次の仲間が来ると言っていたはずだ。次は誰が来るのだろうか。頼りになる人物を所望する。
 アプリを開いて中身を見てみると、次に来る彼の事を雨宮が告知していた。


『ミソギ、次の当番は十束だよ』


 ――十束かあ……。
 アメノミヤ奇譚が解決した後も、彼とは一方的に気まずいままだ。2人きりでない事には感謝しなければならないだろう。


「ミソギさん? 何を見ているの?」
「え? ああ、次に私の助っ人として来る人が誰なのかを確認していました。結芽さん、次は男性で十束って名前なんですけど……。男の人が苦手だったり、しませんよね?」
「ええ、大丈夫よ。また誰かが来るのね。この場に出入り出来るなんて、変わった人達……」


 人が増えると言っているのに、やはり彼女は雨宮の時同様に浮かない顔だ。しかし、その理由が一切分からない。
 氷雨からは何故か自分に執着していると聞いているが、一体何故そんな事になったのかも分からないし、何なら彼女の存在を知ったのはついこの間。それまで何の面識も無い、謂わば赤の他人である。


 いや、十束が新しい情報を持っている可能性もある。まずは連絡を待ち、彼と合流するのが先決だろう。一人でいる時に樋川結芽を刺激するのは良くない。
 色々と考え事をしながら、再度スマホに視線を落とすと件の十束がアプリに浮上していた。早速合流しなければ。



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