絶叫除霊師ミソギ
06.氷雨からの忠告
適当に一つの机に腰掛けた氷雨はいまいち何を考えているのか分からない表情で口を開く。
「――樋川結芽についてだ」
「ああ、さっきの。氷雨さんの妹さんですよね?」
あまりにも他人行儀だったので、思わずそう問い返してしまった。氷雨は相変わらず感情の読めない無気力な無表情で一つ頷く。
「……そうだな、妹だ」
「なら、そんな言い方――」
「お前はアイツに目を付けられている。今までは別の見舞いをしていたのだろうが、これからはセンターにあまり近付くな」
「えっ、それは人為的害悪の話って事で良いですか? 彼女、人に危害を加えるような人物には見えませんけど……」
ストーカー注意喚起のような言い草に疑問符を浮かべる。そもそも、本当に妹なんだよね? あまりにも他人行儀且つ失礼な物言いなので、その事実を失念してしまいそうになる。
つ、と目を逸らした氷雨は念を押すように「妹だ」と短く呟いた。疑いの心が伝わっていたのだろう。
「とにかく、センターには今は近付かないでくれ。面倒事が起こったら……困る」
「困るのは良いですけど、そんなに危険なんですか? 気になるので、そこのところだけ教えて下さいよ」
「必要があれば、その内話すかもしれない」
「ええ……?」
必要かどうか判断するのは、この場合ミソギ自身であって氷雨では無いのではないだろうか。当の彼も別の誰かの指示を仰いでいるかのような口調だし。
その他、色々聞きたい事はあったのだが氷雨はこれで用事は済んだと言わんばかりに席から立ち上がる。まさか、この意味不明な忠告をする為だけに別室にまで呼ばれたと言うのか。
釈然としないながらも、トキを待たせている。このままでは痺れを切らして置いて行かれかねないだろう。
それを思うと、これ以上何を聞いても答えてくれなさそうな氷雨に構うのは大きな時間の無駄である気がする。仕方が無いので、ミソギもまた帰ろうとする彼の意思に従った。
***
「――結局、ミソギ先輩への用って何だったんすかね。深刻そうな顔してましたけど」
センターのロビーにて。他に人の姿が少ないのを良い事に、堂々と背伸びをしたり、とにかく落ち着きの無い状態で南雲は訊ねた。問いかけをした相手、トキはと言うと明後日の方向を見ている。特にミソギの身を案じている訳では無さそうだ。
聞いていないだろうな、そう思いつつも南雲は口を走らせる。自分まで黙ってしまっては気まずい空間が出来上がるのは必至。それに、彼はあまりベラベラと喋る人間性ではないのだ。
「なんつーか、氷雨さんと先輩って接点全く無さそうっすよね。アメノミヤ忌憚の件があるから、トキ先輩とあの人の繋がりはまあ、分かるけどさ」
「……氷雨自身がミソギに用があるのではなく、氷雨を介した『誰か』の用事だろう」
「えっ、そうなんすか!?」
「顔を突き合わせた事も無いたかだか同僚が、いちいち他人を捜し出す手間まで掛けて会おうとするか」
「何か、先輩がそれ言うと説得力が凄いっすね!」
妙に納得して手を打つ。トキに心底嫌そうな顔をされた。
「大体――」
なおも何か言い募ろうとした先輩の言葉はしかし、不自然な所で途切れた。急に止まった会話に首を傾げ、続きを促そうとしたところで気付く。
自分の背後に、誰かが立っている事に。
ミソギが帰って来たのか、と振り返って全然違う人物であると把握した。しかし、人の顔と名前を覚える事が得意な南雲にはそれが誰であったのかすぐに思い出す。
「あ、いつぞやの作家さん」
「こんにちは。よく覚えていましたね」
具体的にいつだったのかは忘れたが、トキが彼女に絡まれる姿を支部で見かけた事がある。その後、誰であったのかを聞くと『名前は知らないがホラー作家』という事だけは分かった彼女。
否、名前も名乗っていたかもしれない。あまりにも久しぶり且つ知らない人過ぎてすぐには出て来ないが。
過去を思い出そうと四苦八苦していると、彼女の方から口を開いた。
「お忘れだとは思いますが、私は識条美代です!」
――トキが静かに眉間に皺を寄せた。
「――樋川結芽についてだ」
「ああ、さっきの。氷雨さんの妹さんですよね?」
あまりにも他人行儀だったので、思わずそう問い返してしまった。氷雨は相変わらず感情の読めない無気力な無表情で一つ頷く。
「……そうだな、妹だ」
「なら、そんな言い方――」
「お前はアイツに目を付けられている。今までは別の見舞いをしていたのだろうが、これからはセンターにあまり近付くな」
「えっ、それは人為的害悪の話って事で良いですか? 彼女、人に危害を加えるような人物には見えませんけど……」
ストーカー注意喚起のような言い草に疑問符を浮かべる。そもそも、本当に妹なんだよね? あまりにも他人行儀且つ失礼な物言いなので、その事実を失念してしまいそうになる。
つ、と目を逸らした氷雨は念を押すように「妹だ」と短く呟いた。疑いの心が伝わっていたのだろう。
「とにかく、センターには今は近付かないでくれ。面倒事が起こったら……困る」
「困るのは良いですけど、そんなに危険なんですか? 気になるので、そこのところだけ教えて下さいよ」
「必要があれば、その内話すかもしれない」
「ええ……?」
必要かどうか判断するのは、この場合ミソギ自身であって氷雨では無いのではないだろうか。当の彼も別の誰かの指示を仰いでいるかのような口調だし。
その他、色々聞きたい事はあったのだが氷雨はこれで用事は済んだと言わんばかりに席から立ち上がる。まさか、この意味不明な忠告をする為だけに別室にまで呼ばれたと言うのか。
釈然としないながらも、トキを待たせている。このままでは痺れを切らして置いて行かれかねないだろう。
それを思うと、これ以上何を聞いても答えてくれなさそうな氷雨に構うのは大きな時間の無駄である気がする。仕方が無いので、ミソギもまた帰ろうとする彼の意思に従った。
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「――結局、ミソギ先輩への用って何だったんすかね。深刻そうな顔してましたけど」
センターのロビーにて。他に人の姿が少ないのを良い事に、堂々と背伸びをしたり、とにかく落ち着きの無い状態で南雲は訊ねた。問いかけをした相手、トキはと言うと明後日の方向を見ている。特にミソギの身を案じている訳では無さそうだ。
聞いていないだろうな、そう思いつつも南雲は口を走らせる。自分まで黙ってしまっては気まずい空間が出来上がるのは必至。それに、彼はあまりベラベラと喋る人間性ではないのだ。
「なんつーか、氷雨さんと先輩って接点全く無さそうっすよね。アメノミヤ忌憚の件があるから、トキ先輩とあの人の繋がりはまあ、分かるけどさ」
「……氷雨自身がミソギに用があるのではなく、氷雨を介した『誰か』の用事だろう」
「えっ、そうなんすか!?」
「顔を突き合わせた事も無いたかだか同僚が、いちいち他人を捜し出す手間まで掛けて会おうとするか」
「何か、先輩がそれ言うと説得力が凄いっすね!」
妙に納得して手を打つ。トキに心底嫌そうな顔をされた。
「大体――」
なおも何か言い募ろうとした先輩の言葉はしかし、不自然な所で途切れた。急に止まった会話に首を傾げ、続きを促そうとしたところで気付く。
自分の背後に、誰かが立っている事に。
ミソギが帰って来たのか、と振り返って全然違う人物であると把握した。しかし、人の顔と名前を覚える事が得意な南雲にはそれが誰であったのかすぐに思い出す。
「あ、いつぞやの作家さん」
「こんにちは。よく覚えていましたね」
具体的にいつだったのかは忘れたが、トキが彼女に絡まれる姿を支部で見かけた事がある。その後、誰であったのかを聞くと『名前は知らないがホラー作家』という事だけは分かった彼女。
否、名前も名乗っていたかもしれない。あまりにも久しぶり且つ知らない人過ぎてすぐには出て来ないが。
過去を思い出そうと四苦八苦していると、彼女の方から口を開いた。
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――トキが静かに眉間に皺を寄せた。
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