絶叫除霊師ミソギ

ねんねこ

13.怪異らしくない怪異

 ちなみに、3章のお話を簡単にまとめると以下の通りになる。
 カイと主人公が揉めている間に謎の幼女、ターナがやって来て仲間入りする、それだけだ。ちなみにターナは揉めている主人公達に道を聞こうと寄って来ただけの少女である。


 そして、ターナが仲間になった事でゲーム内プログラムであるはずのアリスのお怒りがマッハ。ここからが本格的な闇への幕開けとなった。


「うわぁ……」


 頻繁に走るノイズ。
 画面内にアリスその人の出番は無いはずなのに、時折立ち絵が彼女に変わっていたりターナやリシティアの画像が黒く塗り潰されていたり。最早、台詞に無い音声が入っていようと何も感じない境地にまで達していた。


「おい、早くゲームを進めろ」


 トキの淡々とした声音が鼓膜を叩く。こいつ、モニターを見ているはずなのにゲームの進行状況が見えないのか。
 最早、正常にゲームをプレイするのは不可能。ノイズは頻繁に走り、他キャラクターの音声は途切れる。一度、スマホを置いた方が良いかもしれない――


「うぎゃっ!?」


 その狙いを見透かしたかのように、画面の動きが唐突に止まった。カチカチとボタンを弄くるが、全く反応が無い。真っ暗になった画面に、不意にアリスの立ち絵が現れた。ど真ん中、穏やかな表情で笑う少女の絵。
 しかし、その和やかな絵が突如として歪む。絵描きによって描かれたはずの彼女の表情が凶悪な笑みを浮かべた。


 ――まずいまずいまずい、これは絶対にマズい……!!
 再びカチャカチャとボタンを押し込む。次の瞬間、何かが致命的に破壊されるようなブチッという不快な音がどこか遠くから聞こえた。唐突に持っていたコントローラーの感触が消え失せ、視界が真っ暗になった。


 ***


 ――何だろ……。
 次に意識らしい意識を取り戻した時、全く見覚えの無い部屋という光景が広がっていた。何故だか身体を揺すられるような感触だけがある。
 これは――恐らくトキ。視界の端では「ログアウトに失敗しました」、という冗談では済まされないような文言がチラついているのが見えた。そんなはずは無いので、落ち着いて深呼吸する。


 さて、ここはどこだろうか。
 周囲の風景と今までやって来たゲームの知識を活かして一つだけ当たりを付けるとしたら、ギルドの風景だ。二度か三度しか出て来て居ない、ギルドの背景がこの場所に当て嵌まる。
 ただし、最初にこの背景が適用された時にはたくさんのキャラクターが彷徨いていたにも関わらず、人っ子一人居ない。


「ようこそ、私とあなただけの場所へ」
「……アリス!」
「はい、アリスですよ」


 ぎょっとして飛び退くように振り返れば、恍惚とした笑みを浮かべたアリスその人が立っていた。表情から仕草まで、とてもプログラムだとは思えない程に精密。皮肉にも彼女は怪異と化した事で、生物的な『何か』に近づいたのかもしれない。
 明らかにデータの範囲を超えたそれを前に、数歩後退る。
 きっと恐らく、今自分の状態は例えば幽体離脱だとかそういった類いの状態だ。肉体を離れているので、常日頃から使っている絶叫除霊は難しいだろう。


 怯える兎を追い詰める気分なのかもしれない。
 うっそりとした笑みを浮かべたアリスは嬲るようにゆったりと一歩ずつ近づいて来る。このままではどうしようも無いので、せめて時間を稼ごうとミソギは言葉を掛けてみる事にした。


「何が目的なの? 人を閉じ込めるのが目的?」
「閉じ込める? いいえ、それは過程にしかすぎません」


 恍惚とした笑みを無邪気なものへと変貌させたアリスが言い聞かせるかのように、蕩々と、それでいて多分に狂気を孕んだ声音が鼓膜を打つ。


「私はただ、ずっとあなた達が私と一緒に居てくれさえすればそれでいい。私とあなたさえいれば、他には何も要りません」
「……あなたはゲームのヒロインなんだよ。そもそも、一緒に居て欲しいという以前に遊ばれなくなれば――ゲームとして不成立になってしまう」
「私には既に『ゲーム』の部分は不要です。そもそも、あのストーリーは私とあなたの物語であったはず。なのに……要らない女や仲間がわらわらと。私とあなたの物語に、他の連中は要りません」


 動機が全く怪異っぽくない。怪異はそもそも元となった噂にかなり性格を引き摺られる傾向にある。データである彼女は、そもそもの記憶が存在しないのである種純粋に育ったのかもしれない。



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