絶叫除霊師ミソギ

ねんねこ

03.敷嶋さん

 ***


 所変わって作木駅、ホーム。
 解析課の2人に拾われた後、やって来た今回の調査地だ。ちなみに、敷嶋は顔色一つ変えずミソギと言葉を交わし、そして何事も無かったかのように三舟の話はしなかった。予想外過ぎるその状況に戦慄を禁じ得ない。
 まさかとは思うが――凛子が一緒だったからだろうか。


 ともあれ、流石に前回の仕事は色々と投げてしまった訳だし、ここいらでそれなりに役に立つ事をアピールしたい。今回こそは真面目に仕事を完遂しなければ。
 謎の使命感に駆られながら、駅を見回す。築30年くらいの古い駅だ。そこそこ大きく、人が絶え間なく行き来している。が、都会と呼べる都会の風景ではない。途切れること無く、しかし疎らに人がいる様子だ。


 端的に言って、少しだけ不気味。
 染みの出来ているトタン板だとか、文字が掠れつつある駅の名前だとか。ふとした拍子に異界へ連れて行かれそうな危うさのある場所だ。頼むからペンキくらい塗り替えてくれと声高にそう言いたい。


「ミソギちゃん、今日の仕事なのだけれど」
「あ、凛子さん」


 優しげに微笑んだ彼女は、今回ばかりは少しだけ余裕があるように見える。呪殺事件、テディの事件と来て険しい顔をしている事が多いように思われていたのだが。


「赤ちゃんの泣き声が聞こえるというタレコミがあるの。重大な怪異事件に繋がる前に、正体を暴くのが今回の仕事よ」
「あ、まだ事件とかは起きていないんですね?」
「ええ。けれど、急に赤ちゃんの泣き声だなんて不自然極まりないから、調査してみようって敷嶋さんが」


 既に駅を注意深く見回している敷嶋にチラと視線を送る。やはり、通常時と変わらない様子だ。
 そんな彼が不意にこちらを向いた。自然と身体が警戒を示す。しかし、そんな事には目もくれず、敷嶋は淡々と仕事についての補足を始めた。


「先に言っておくが、俺は人為的説を推している。何か怪しい物があればすぐに報告しろ。あと、怪異が相手じゃないのならミソギ、お前は弱い。殴られる前に誰か呼んだ方が良いぞ」
「えっ、暴力沙汰になるかもしれないって事ですか!?」


 勘弁してくれ、心中でそう呟く。ふん、と鼻を鳴らした敷嶋は首を横に振った。


「ならねぇだろうよ。お前が、人間と怪異を間違えて向かって行ったりしなけりゃな。よく見て動けって事だ」


 流石に人間と怪異を間違えるはずもないが、含んだような言い方に不安を煽られる。ミソギは大人しく敷嶋の言葉に頷いた。


「では敷嶋さん、私も事情聴取を行って来ます。20分後くらいに、この辺りに戻って来るって事でどうでしょうか」
「ああ」
「えっと、私はどの辺を調べれば良いんですか?」


 解散する流れになりそうだったので、慌てて訊ねる。好きにしろと言われたらどうしようかと思ったが、ぐるりと周囲を見回した敷嶋は凛子が調べると言ったホームの対岸を指さした。


「まあ、順当に分かれるとして、反対側が良いな」
「了解です」


 では、と軽く会釈した凛子が足早に人の群れへと突っ込んで行く。流石は警察なだけあって、事情聴取の様子があまりにも様になっていた。しかも、あれはサボりの女子高生か。こんな時間に駅のホームにいれば、学校には間に合わないだろうに。


「……あの、敷嶋さん。何故、着いて来るのでしょうか」
「あ? お前に話があるからに決まってるだろうが」


 歩道橋のようなものを渡り、反対のホームへ移動していると敷嶋が着いて来た。上記に対する答えには、明らかな苛立ちが滲んでおり変な汗が背を伝う。ヤバイ、テディの一件について突っ込んで来る気満々だ。


「三舟さんの事ですか……?」
「それ以外に何があるってんだ。お前、あのタヌキジジイに目ぇ着けられてるぞ」
「し、知ってますよ。というか、2人はどういう知り合いなんですか?」
「聞かない方が良い。報告……話は大まかに聞いた。お前、あのクソジジイと約束しているらしいが安心はしない方が良いぞ」


 ――誓約書の事まで話したのか。
 約束、と言うと語弊があるが、似たようなものだろう。敷嶋は警官であって、除霊師ではないのでマイルドに話をしたようだが。
 念を押すように、敷嶋が言葉を紡ぐ。


「アイツは嘘吐きじゃねぇが、意外にも仕事熱心だ。お前より仕事の方が大事だって事は忘れるな」
「え? あ、はあ」
「分かってねぇんだろうな……。まあいい、なるようにしかならねぇだろ」


 あらゆる情報が脳を満たす。考えるべき事がたくさんあるのだけは薄ら理解したが、これらの台詞の意を分解し、読み解くには時間が必要だ。今日の仕事を無事に終え、家に帰る事が出来たらちゃんと考えてみるとしよう。


「おい」
「あ、はい」
「俺は別の仕事をするが、何かあったらすぐに報告しろ。お前等は何故か報告義務を怠るからな」
「いやその、すいません……」


 確かトキと十束の事は敷嶋も知っていたはずだ。あの2人は絶妙にマイペース且つ個人の力量主義な所があるので、言われない限りは報告をしなさそうではある。
 などとイメージしつつ、振り返ってみると既に敷嶋の姿は無かった。案外とせっかちな人である。



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品