絶叫除霊師ミソギ
05.七不思議の7つ目
「何か変わったかな? 踊り場まで戻ってみようか」
壁に備え付けられた時計が1時を指している。それを確認した紫門が素早く踵を返した。慌ててその背を追う。
2階半ばの踊り場まで戻ってみればその変化は一目瞭然だった。
「わお、粉々じゃん。てゆかこれ、血……?」
大鏡は中心から蜘蛛の巣状にヒビが広がり、最早何を写しているのか分からない状態になっていた。その割れた隙間から、粘性のある赤色が漏れ出している。非常に不気味だったので、触って何であるか確かめる度胸は当然ながら湧かなかった。
とんとん、と肩を叩かれる。眼鏡のブリッヂを押し上げた紫門が無言で鏡の脇を指さした。ヒビから漏れ出している赤と同じ赤で、文字が書かれている。
曰く――『ユルサナイ』。
「ヒィァ!? ややややや、やべぇっす! 誰だか知んねーけどマジギレ! 激おこっすよ、激おこ!!」
「……」
「え、何すか? 何すか、何か言えよ!」
何か考え込むように黙り込む紫門。続く言葉を待ち構えていると、彼は酷く神妙そうな顔で口を開いた。
「――ボクはね、南雲くん」
「え、あ? 何、何か重要な話!?」
「ボクは……するより、される方が好きなのだけれどね。君は何て言うか……苛めている方が愉しいね! これはいけないな! 新しい扉を開いてしまいそうだよッ!!」
「どうでもいい! そんなに溜めて言う事じゃねぇだろ、それ!! いい加減にしろよホント!!」
ところで、とサラッと話を変えた紫門がスマホを取り出しアプリを開く。報告会でもするのか、と南雲もまたアプリを起動して画面に視線を落とした。
そのタイミングで、同時に現状を書き込みながら紫門がぽつりと呟く。
「この大鏡、中と外の出入り口になっていたようだが――これが破壊されてしまうと、中にいるはずのカミツレちゃん達はどうなってしまうのだろうね?」
「……あっ!? ちょ、え? まさか、出られないって事かよ!」
「分からない。カミツレちゃんの方はルームの存在を知っているから、顔を出しているかもしれないと思ったけれど、いないね」
現状報告を終え、今し方口にした『カミツレ達が外に出られない説』を書き込む紫門。ルーム監視係の赤札2人がそれに対して返信を寄越した。
『赤札:何とも言えないが、カミツレが浮上して来たら貴方が心配していた事は伝えておきます』
『赤札:すまんな! それに関しては俺達ではどうしようもない。やってしまった事は仕方無いから、後は祈るくらいしか出来ないな』
『白札:赤札組ってさっきから冷たくない?』
『白札:お前、現場で赤札に助けられた事無いの? こいつ等、ビックリするくらい切り替え早いからな。俺もはぐれた仲間は放置されたし。怪異倒したら後で自分で捜せってさ』
話は変わるが、と赤札が相楽の伝言を吹き出しに書き込む。
『赤札:相楽さんからの伝言で、七不思議の7つ目はルール発動型かもしれない、との事だ! とはいえ、校舎の外に出られない以上、7つ目まで引き摺り出す必要があるかもしれないが……』
『紫門:そうだろうね。次はミソギちゃん達を回収して来るよ』
『赤札:アカリはどうしました?』
『紫門:今はいないね。彼女が消えてしまうと、ボク等では追う事が出来ない。次に出て来る時まで、こちらから接触は出来ないだろう』
『赤札:了解。ところで、ミソギは取り憑かれている? らしいですね』
『紫門:ああ、そうだね。明らかに正気ではなかったし』
『赤札:アカリと接触する前に、何らかの方法で意識を奪った方が良いかと。生身の人間に襲い掛かって来られると厄介です』
『紫門:了解』
紫門がスマホをしまった。見かねた南雲は言葉の意味について問い質す。
「ちょ、ミソギ先輩をどーするつもりっすか!?」
「どうもこうも……。当て身でも食らわせるしかないだろうね。そういうのはトキくんの方が得意かな。ボク達が着くまでに、騒ぎを終わらせてくれると助かるんだけど。正直、ボクは紳士だからね。女の子に手を挙げるのはちょっと」
「紳士!? アンタ、紳士の意味を辞書で調べた方が良いと思うけど!」
「それはそうと南雲くん、移動中にアプリを見て7つ目の七不思議の考察を流し読みしていてくれ。アグレッシブな白札ちゃん達が色々囁き合ってるだろう?」
促され、再びスマホに視線を落とす。自分達赤札が去った後では、白札が7つ目の七不思議について考察論争を繰り広げている。
『白札:ぶっちゃけ、存在しないんじゃね? 7つ目って』
『白札:じゃあ七不思議じゃないよね。それって』
『白札:いやだってさ、俺の通ってた中学は7つ目って謎扱いされてて実質存在してなかったし。六不思議だったわ』
『白札:そーいや俺んとこも7つ目って知ったら死ぬ、とかいうイミフな不思議だったぜ! ま、腹立つから6つ目まで七不思議攻略して無理矢理7つ目作ったが! ちなみに死ななかった!』
『白札:さっきからちょいちょい出て来る脳筋さん?』
『白札:おう! いつもはこの時間、相棒と仕事行ってんだけどな! 今日は出払ってて休みにされちまったぜ。俺、霊が全く視えねぇんだよな! 仕事にならねぇわ、一人だと』
『白札:あ。もしかして世にも珍しい偏型一種では……』
――7つ目が存在しない。
そういえば、通っていた高校もそうだった。何故か7つ目は知られちゃいけない、とかいう理由で変な噂だけが一人歩きしていた気がする。
壁に備え付けられた時計が1時を指している。それを確認した紫門が素早く踵を返した。慌ててその背を追う。
2階半ばの踊り場まで戻ってみればその変化は一目瞭然だった。
「わお、粉々じゃん。てゆかこれ、血……?」
大鏡は中心から蜘蛛の巣状にヒビが広がり、最早何を写しているのか分からない状態になっていた。その割れた隙間から、粘性のある赤色が漏れ出している。非常に不気味だったので、触って何であるか確かめる度胸は当然ながら湧かなかった。
とんとん、と肩を叩かれる。眼鏡のブリッヂを押し上げた紫門が無言で鏡の脇を指さした。ヒビから漏れ出している赤と同じ赤で、文字が書かれている。
曰く――『ユルサナイ』。
「ヒィァ!? ややややや、やべぇっす! 誰だか知んねーけどマジギレ! 激おこっすよ、激おこ!!」
「……」
「え、何すか? 何すか、何か言えよ!」
何か考え込むように黙り込む紫門。続く言葉を待ち構えていると、彼は酷く神妙そうな顔で口を開いた。
「――ボクはね、南雲くん」
「え、あ? 何、何か重要な話!?」
「ボクは……するより、される方が好きなのだけれどね。君は何て言うか……苛めている方が愉しいね! これはいけないな! 新しい扉を開いてしまいそうだよッ!!」
「どうでもいい! そんなに溜めて言う事じゃねぇだろ、それ!! いい加減にしろよホント!!」
ところで、とサラッと話を変えた紫門がスマホを取り出しアプリを開く。報告会でもするのか、と南雲もまたアプリを起動して画面に視線を落とした。
そのタイミングで、同時に現状を書き込みながら紫門がぽつりと呟く。
「この大鏡、中と外の出入り口になっていたようだが――これが破壊されてしまうと、中にいるはずのカミツレちゃん達はどうなってしまうのだろうね?」
「……あっ!? ちょ、え? まさか、出られないって事かよ!」
「分からない。カミツレちゃんの方はルームの存在を知っているから、顔を出しているかもしれないと思ったけれど、いないね」
現状報告を終え、今し方口にした『カミツレ達が外に出られない説』を書き込む紫門。ルーム監視係の赤札2人がそれに対して返信を寄越した。
『赤札:何とも言えないが、カミツレが浮上して来たら貴方が心配していた事は伝えておきます』
『赤札:すまんな! それに関しては俺達ではどうしようもない。やってしまった事は仕方無いから、後は祈るくらいしか出来ないな』
『白札:赤札組ってさっきから冷たくない?』
『白札:お前、現場で赤札に助けられた事無いの? こいつ等、ビックリするくらい切り替え早いからな。俺もはぐれた仲間は放置されたし。怪異倒したら後で自分で捜せってさ』
話は変わるが、と赤札が相楽の伝言を吹き出しに書き込む。
『赤札:相楽さんからの伝言で、七不思議の7つ目はルール発動型かもしれない、との事だ! とはいえ、校舎の外に出られない以上、7つ目まで引き摺り出す必要があるかもしれないが……』
『紫門:そうだろうね。次はミソギちゃん達を回収して来るよ』
『赤札:アカリはどうしました?』
『紫門:今はいないね。彼女が消えてしまうと、ボク等では追う事が出来ない。次に出て来る時まで、こちらから接触は出来ないだろう』
『赤札:了解。ところで、ミソギは取り憑かれている? らしいですね』
『紫門:ああ、そうだね。明らかに正気ではなかったし』
『赤札:アカリと接触する前に、何らかの方法で意識を奪った方が良いかと。生身の人間に襲い掛かって来られると厄介です』
『紫門:了解』
紫門がスマホをしまった。見かねた南雲は言葉の意味について問い質す。
「ちょ、ミソギ先輩をどーするつもりっすか!?」
「どうもこうも……。当て身でも食らわせるしかないだろうね。そういうのはトキくんの方が得意かな。ボク達が着くまでに、騒ぎを終わらせてくれると助かるんだけど。正直、ボクは紳士だからね。女の子に手を挙げるのはちょっと」
「紳士!? アンタ、紳士の意味を辞書で調べた方が良いと思うけど!」
「それはそうと南雲くん、移動中にアプリを見て7つ目の七不思議の考察を流し読みしていてくれ。アグレッシブな白札ちゃん達が色々囁き合ってるだろう?」
促され、再びスマホに視線を落とす。自分達赤札が去った後では、白札が7つ目の七不思議について考察論争を繰り広げている。
『白札:ぶっちゃけ、存在しないんじゃね? 7つ目って』
『白札:じゃあ七不思議じゃないよね。それって』
『白札:いやだってさ、俺の通ってた中学は7つ目って謎扱いされてて実質存在してなかったし。六不思議だったわ』
『白札:そーいや俺んとこも7つ目って知ったら死ぬ、とかいうイミフな不思議だったぜ! ま、腹立つから6つ目まで七不思議攻略して無理矢理7つ目作ったが! ちなみに死ななかった!』
『白札:さっきからちょいちょい出て来る脳筋さん?』
『白札:おう! いつもはこの時間、相棒と仕事行ってんだけどな! 今日は出払ってて休みにされちまったぜ。俺、霊が全く視えねぇんだよな! 仕事にならねぇわ、一人だと』
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