絶叫除霊師ミソギ

ねんねこ

08.緊急時こそ落ち着いて行動しよう

「退け! 貴様何をのうのうとしている! それはトラブルではなく、大事故と言うんだッ!!」


 トキの怒号で我に返る。何事かと南雲とカミツレは揃って声の方を向いた。見れば、怒号の主が紫門の胸ぐらを掴みヒステリックに叫んでは揺さ振っている。酷くバイオレンスな光景だったが、この組み合わせだとむしろ必然なのかもしれないという妙な納得感が湧き上がって来た。
 しかし、それを眺めている訳にもいかないので南雲は慌てて止めに入る。この危険な校舎で仲間割れなど冗談ではない。


「お、落ち着いて下さいって! 何をそんなに怒って……」
「アカリ! この馬鹿に今の話をもう一度しろッ!!」


 所在なさげな自称・浮遊霊は肩を竦めるとトキに言われた通り、どうやら自分の為に事の概要をリピートしてくれた。


「えぇっと、ミソギさんが入った――じゃなくて、引き摺りこまれた部屋は七不思議の一つ、『開かずの間』なんだよね。でも、開かないだけの部屋だからあたしも何があるのか分かんないや」
「ちょ、マジ大事故じゃねぇか! 何でアンタ等落ち着いてんだよ! うわーん、センパーイ!!」


 叫びはしたが、不気味に半開きのドアの中へ身を投じる勇気が出ない。しかし、トキにはこの半開きドアがあまり不気味には感じられないのか、止める紫門を振り払う勢いでドアに手を伸ばした――


「待て、って言ってるだろう」


 が、その行為は珍しく真剣な紫門の真面目な一言により中断させられる。苛立っている訳では無いが圧のあるその短い言葉は急速に熱くなった思考を冷ますかのようだ。


「ボク達だって今までただ手をこまねいてここで立ち往生していた訳ではないよ。ミソギちゃんだって馬鹿でも非力な一般人でもない。教室に引き摺りこまれたんだ、悲鳴の一つや二つ上げてさっさと逃げ出して来たって不思議じゃない。なのに、部屋の中から何の音も聞こえて来ないんだよね」
「それがどうした……ッ!」
「よーしよし、どうどう。で、ここからはボクの推察なんだけど、中へ入ったが最後、身動きの取れない状況になるのかもしれない。となると、全員が入ってしまうと分が悪い。ボクとカミツレちゃんでは、ボクが中に入るしかないが彼女を一人放置するのはマズイ。偏型とはいえ、彼女は白札だからね。だから、ボク達は君達がここまで戻って来るのを待っていた訳さ。まあ、言い訳だと捉えたいならそれでも――いや、いっそ罵ってくれた方がボクは興奮するけれどね!」
「ええい、ならもう良いだろう私が行くッ! 黙って見ていろ臆病者共め!!」
「いや、ボクが中へは入ろうか。こう、君がいると常にボクを罵ってくれて興奮するからね! 特定条件は満たしているし、生還確率なら現状ボクが一番高そうだ! いやあ、ゾクゾクするよね!」


 まるで興奮する事で特定条件を満たしているような言い草――いや、実際その通りなのかもしれない。条件は千差万別、そうではない、なんてそれこそあり得ないだろう。
 しかし、紫門の申し出に苦い顔をしたトキはその首を横に振った。


「貴様はアプリで待機組の赤札と連絡を取るよう、相楽さんから指示を出されている。連絡係を失う訳にはいかない」
「あ、そうなの? ふーん、そういえばルーム立ってるって言ってたね。ボク達には思い付かない、良いアイデアがあるかもしれないし一度その赤札と連絡を取ってみようかな。くれぐれも早まった真似はしないようにね、トキくん」
「いいからさっさとしろ……」


 紫門がスマホを取り出すのを見て、南雲もまたスマホを取り出した。彼の持っている画面を覗き込むより、自分もアプリを開いて同じ画面を見た方がやりやすい。
 さっとまとめ記事を流し読みしたらしい紫門が素早く文字を打ち込む。


『紫門:合流したよ。見ているかな?』
『白札:おい、連絡係来たぞ』
『白札:マジだ』


 雑談が流れた後、本命の待機組達が書き込みを始める。


『赤札:お疲れ様です! すまないが、まずは情報の共有を。今はどうなっているのだろうか?』
『紫門:今いるメンバーを並べるね。ボク、トキ、南雲、カミツレ』
『赤札:ミソギは?』
『紫門:いると言えばいるんだけど――』


 現状についてのやり取りをした後、会話には参加していなかったもう一人の赤札がまとめるような吹き出しを流してきた。


『赤札:つまり、ミソギは七不思議によって拘束されていて、カミツレの連れである浅日の行方は不明という事ですね。了解しました。『開かずの間』については不用意に中へ入らない方が良いかと』
『白札:入れない訳? 誰かパッと入って引き摺ってくればよくない? そのミソギさんとやらを』
『紫門:や、正直後回しにしたいんだけどトキくんがもう「待て」出来なさそう。彼を向かわせて、戻って来なかったら考えるよ』
『白札:えー、俺は上の赤札が言う通り入らない方が良いと思うけど。そもそも、何でそこは『開かずの間』とか呼ばれてんの? 普通の教室なんだろ、見た感じ』
『白札:おう、中入ってミソギを救出、んで全力ダッシュで戻ってくれば解決だろ。まあ、最終的には筋肉がものを言うよな!』
『白札:脳筋さんチィーッス』
『赤札:どうしますか? 正直な話、トキは特定条件を最近満たせていないとの事ですので、ここで切っても今後の行動に影響は無いと思われます』
『白札:何だコイツこわっ……』
『白札:唐突な仲間斬り捨て発言に戦慄を隠せない』
『赤札:ああああもう! じゃあどうしろと言うんだ! アイツ、トキは言い出したら聞かないぞ! ずっと文句を言われ続けるより、今行かせた方が手が掛からずに済むだろ!!』
『白札:いや、実際問題、放置しててミソギさん大丈夫なの? というか生きてるの?』
『白札:それな。何でこの人等、すぐ救出に行かないのかマジで謎だわ』
『白札:現地の赤札って案外シビアな所あるからな……』


 ――トキ先輩、ボロクソ言われてんな……。
 どうやら待機組とも顔見知りらしい。どことなく彼を理解しているような発言が、それを如実に物語っている。


 しかし、南雲の意見としても目の前にいるミソギの救出は優先事項だ。何でこの人達が一刻を争う事態でスマホを弄っているのかもよく分からないし。
 目の前にいる紫門を素通りし、文字を打ち込む。口に出して会話しろよと自分でもそう思ったが。


『南雲:ちょっと良いすか。俺も、先に先輩助けた方が良いと思うんすけど。トキ先輩がここにミソギ先輩を放置して、別の事出来るかって言われたら多分出来なさそうだし』
『白札:ああ、リアル仲良しな感じなん? その2人って』
『白札:友達なら見捨てては行けないかもなあ……。まあ、俺等白札は現地民じゃないからそういう無責任な助言しちゃうけど』
『赤札:んー、俺も南雲と同意見だな! いや、俺は連絡系統だから感情論は本来ダメなんだが……』
『赤札:お前はこの問題に口を挟まない方が良いぞ。主観が入るからな。私が指揮を執るから、引っ込んでいてくれ』
『赤札:はは、手厳しいな』
『紫門:取り敢えず、ミソギちゃんは今から救出してみるよ。トキくん、このままだと言う事聞かないだろうし』


 手早くそう打ち込んだ紫門が、スマホを仕舞った。



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