絶叫除霊師ミソギ

ねんねこ

06.小説

 ***


 翌日、昨日と同じ時間には全く同じ面子が同じ場所に集まっていた。蛍火に貰ったお菓子を振る舞いながら、ミソギもまた定位置に腰掛ける。


「センパーイ……! 昨日はどうだったんすか……?」
「アッ、南雲!!」


 どんよりと曇った表情の南雲が恨みがましい視線を向けてきた。十束達が連れて行ってしまったので、まあいいかと放置していたが本人はご立腹らしい。助けを求めるように、トキへ視線を向ける。
 しかし、それは深刻な人選ミスだった。


「どうも何も無い。組合長の指示通り、情報集めに奔走していた。というか、情けない声を出すなッ!」
「うわーん! もう俺、昨日知らない人達に囲まれてマジ恐かったんすよ!? そっちのコミュニケーションゴリラは執拗に昼飯の話を振ってくるし! 姐さんは運転中とかあんま喋んねーし!!」
「コミュニケーションゴリラって俺の事か……?」


 ミコとお喋りしていた十束に南雲の暴言が飛び火する。目を白黒させて首を傾げた彼に対し、後輩南雲はいつもの如く噛み付いた。


「アンタ以外にいねーじゃん! 悔しかったらジムにでも通ってんのかよってくらいにある筋肉全部そぎ落とせバーカ!!」
「身体を鍛えるのは良い事だぞ! 運動は健康にも良いからな!」


 一方的に先輩に噛み付く南雲を見かねたのか、ミコが空気に合わず明るい声で「あっ!」、と呟いた。


「視えましたっ! 今日のワンコさんは足下要注意ですっ!」
「あれ!? 犬ってまさか俺の事? ミコちゃーん!」
「犬にゴリラに……ここは動物園だったかな?」


 鵜久森の呆れたような言葉はしかし、騒がしい会議室の喧騒に呑まれていく。どこか既視感を覚えはじめたところで、昨日のように全く唐突に会議室のドアが開け放たれた。


「お前等いっつも元気だなあ。これが若さってやつか。じゃ、対策会議始めるぞー」


 ぐったりと疲れくたびれたおじさん、相楽がようやく来たのだ。
 会議室にそれらしい沈黙が返ってくる。とはいえ、争いが水面下に移動しただけで、睨み合いという名の冷戦は徒然続いているのだが。


「何か分かった事とかある? おじさんはなあ、来週ある本部会議のプレゼンやってたから、ほぼ何も分からん」
「相楽さん、私達、センターで蛍火さんに話を聞いてきました」


 こちらは霊障センターで時間を使い切ってしまったので、大口の情報が出た後の発言はし辛い。そう考えたミソギは誰も意見を言わなかったのを良い事に口火を切った。


「お、蛍火か。アイツ、青札だからな。何つってた?」
「ミコちゃんの指示に従えば階段は抜けられそうだとか何とか。あと、今回の怪異事件は人間の臭いがするって言っていましたよ」
「あー、人為的ねぇ。それは俺もちょっと考えてた。けどまあ、それは来週の会議でお上に伝えとくわ」


 次は俺の話を聞いてくれ、と十束が口を開く。


「人為的な話に掛かるかもしれないが――小説版、『供花の館』を図書館で発見しました」
「は!? 何とんでもないもん発掘してんだ……!!」
「司書さんに聞いてみましたが、2年前に書籍化したそうです」
「内容は?」
「『供花の館』の主人である八代京香に視点を当てて、当時の殺人事件を地の文で補完する感じの小説でした。何というか、美化されている? 美しいミステリーなんて帯を着けられそうな感じで脚色されている類の小説です」
「当時起きた事をそのまま文字に起こした訳じゃ無い、と」


 物は書きよう。時代小説だって歴史を学ぶのを第一目的にする歴史書と、ドラマ色の強い小説がある。どうやら十束が発見したそれは後者だったようだ。


「恐らくは『豚男』、『不幸女』、『質問おばさん』のモデルになった人物も登場しました。リアルにも存在したのかは定かではありませんが」
「なるほどな。昨日、ミソギが言っていた予想と違う所はあるか?」
「いえ、概ね似たようなものです。『豚男』は八代京香の小間使いのストーカー。残り2つは恐らく被害者です」
「被害者な……いや待て、猟奇殺人の部分は? 触れてなかったのか?」


 ここで十束は僅かに目を泳がせた。分からないから、ではなく、恐らくは他人を理解出来なかった時の思案するような顔。


「その……俺にはまるで理解出来ない話ですが……。八代京香は人間で人形を造りたかったらしいです。その最高傑作は『不幸女』でも『質問おばさん』でもなかった。彼女等はあくまで通過段階。俺は、その『最高傑作』が階段に関係があると予想しています」


 ――人間で人形?
 飛び出して来た出鱈目な言葉に目を剥くが、相楽は至極冷静だった。


「確かに。もともと八代京香は人形師、つう情報は最初からあった。地味に話が繋がって来てるな。取り敢えず、ミコちゃんに頼まれてた供え物の菓子は持ってきたぞ。待ち受け型怪異には必ず出る為の条件が存在する。これで成功しなきゃ、他の手段を探すまでだ」


 おじさま肝が据わっていますね、とミコが相楽を賛美する。


「私も、昨日1日考えてみましたけど、『天国への階段』は絶対通過ですっ! アプリで皆さんに情報の提供に協力して貰いましたけど、場所は『そのぎ公園』脇にある細道の石段。あの辺は――そう、相生効果がありますから。異界がとても発生しやすいのです」
「相生、効果……か。それも道理だろうな。公園には入らないという事で良いのか?」
「わっ、今日は素直に私の言う事を聞いてくれるのですねっ、トキさん! 公園には入りませんよ! 別の怪異と出会ってしまいますっ!」



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