絶叫除霊師ミソギ

ねんねこ

06.奇数の人間関係は難しい

 ***


 十束宅へ到着したのは午後11時過ぎだった。というのも、途中で買い出しに行ったからだ。塩を購入しただけなのだが、何故か路上で抜き打ちチェックをしていた警官に捕まり、執拗に飲酒運転ではないのかを訊ねられたり、様々なトラブルに見舞われた為、今の今まで時間が掛かった。
 車から降りたトキがウンザリしたような顔をこちらに向ける。


「南雲。お前はその髪型を改め、表情に誠実さを持て。そのピアスも減らすようにしろ!!」
「えっ、何すかいきなり!?」
「やましい事など何も無いのに、警察に声を掛けられるのは十中八九、貴様のその格好だッ!!」
「えー、駄目ですよぅ! だってこれ、俺のアイデンティティだし! これ取ったら後はなーんにも残らないじゃないですか!」


 まあまあ、と苦笑している十束が止めに入る。火に油なので止めて欲しいのだが、本人はその事実に気付くこと無く、遠い目をしていた。


「よく考えたら大学生くらいの歳頃の俺達が変な時間に車を運転しているだけで、十分怪しいぞ。しかも塩だけを大量に買った袋を持っているとか……ヤバイ薬を所持していると勘違いされても仕方ないな……」
「えあっ!? だからあの人等、異様に車の中を見たがってたのかよ!? ひっでぇ!」
「ああ、そうだな。人は見た目に寄らないからなあ。お前なんて律儀にバス通勤だしな!」
「うるせぇよ!!」


 こちとら仕事で行きたくもない野郎の家に3人ですし詰め状態だと言うのに。言い知れない悔しさを覚えつつ、十束の後に続いてボロアパートの階段を上る。


 案内された部屋は、そこそこゴチャっと散らかっていた。ゴミが放置されているとか、不衛生な訳では無い。とにかく物が多い。一度突撃お宅訪問したトキの部屋は正反対に何も無く、ベッドとタンスしか無かった。


「おい、私は前に部屋を片付けろと言ったぞ!」


 眉根を寄せたトキが苛立ったようにそう言った。まあまあ、と両手を挙げた十束がすかさず弁解を始める。


「俺は趣味が多いんだ。別に要らない物をずっと保管している訳じゃないんだぞ?」
「だから何だ。人を呼ぶ時くらい、座れる程度には片付けをしておけッ!」
「いやまあ、俺も家に人を呼ぶつもりは無かったんだ。それに、片付けなんてしている場合じゃなかったしなあ」
「チッ……」


 舌打ちしたトキが自分の座るスペースを確保する為、床に置いてあった少年誌を足で部屋の隅の方へと退かした。
 それに倣い、南雲もまた落ちていた物を隅へ寄せて座るスペースを作る。
 そうこうしているうちに、グラスを3つと麦茶のボトルを持った十束が輪に加わった。


「センパーイ、俺、腹減ったんすけど……」


 不意に鳴った腹。誰も何も言わなかったので、自ら空腹を主張したところ、トキからギロリと睨まれた。今日は本当に頗る機嫌が悪い。


「怪異と対峙した後に食事は摂れ」
「最後の晩餐すら拒否!? いやまあ、俺の体質上、仕方ないけど……」
「南雲、ちょっとした菓子ならあるぞ。食べるか?」
「アンタから施しは受けないんで。食べたいなら一人でどうぞ」


 ミソギから手伝いを頼まれた昼過ぎから何も食べていない。育ち盛りだし、まだ成長している実感があるのでカロリー消費が激しいのは仕方ないが、その分空腹になるのも早い。今から12時過ぎ、下手すると陽が昇るまで何も食べられない事を考えると、すでに憂鬱な気分になってきた。


 茶を飲みながらぼんやりと部屋を見回しているトキにも話し掛け辛かったので、久しぶりにスマホを触る。
 ミソギからメールが来ている事に気付いた。1時間前に送られてきたようだ。
 慌ててメールを開き、内容を確認する。


『そっちは大丈夫? トキと十束は喧嘩してない? あの人達、根は単純だから適当に話題を変えてやれば喧嘩止めるよ、よろしくね』


「ううっ、ミソギせんぱーい……」


 ――まるで息子2人を抱えたお母さんみたいなメールだけど!
 6時間ぶりくらいに触れた、人の優しさが心に染みる。思わず涙ぐんでいると、トキと目が合った。


「ミソギが何だ」
「え? ああいや、上手くやってるかな~、みたいな感じのメールです」
「そうか。アイツは変な所でマメだな」


 いや多分先輩のせいです、とは言えなかった。代わりに引き攣った笑みを返す。
 それを見ていた十束がふと何かを思い出したように手を打った。


「トキ! 今度、同期で飲み会に行こう!」
「ハァ? 藪から棒に何なんだ。あと、ミソギはまだ未成年だ」
「あっ、そうだったな……。フリードリンクで!」
「行く気などそもそも無いが、やるのなら来年まで待て。というか、オトモダチならたくさんいるんだろう? そいつ等でも誘って勝手に行けばいい。私を巻き込むな」


 同期談義が始まってしまった。疎外感が酷いので、それを紛らわすようにアプリを開く。『質問おばさん』については十束が説明したが、リアルタイムで流れる情報が何か更新されているかもしれない。
 というか、単純に一人ポツンと三角座りしているのも惨めなので、ルームの白札とお喋りしたい。

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