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アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

10.原因解明

 ――そもそもの問題として。
 根無し草の師匠が、何故、王属錬金術師などやっているのか。才能はあるので、お声が掛かるのはおかしな事じゃない。だが、自由気ままに旅をするオーウェンが果たして王宮で縛り付けられるように一所で働くものだろうか?
 考えても答えは分からない。同姓同名の別人であって欲しいと願う自分がいるので、正常な判断はメイヴィス自身に期待が出来ない。


 そんな場の雰囲気を優先したのか、アロイスが場を仕切り直した。このまま無言でいてもどうしようもないからだ。


「すまん、メヴィ。一旦、師匠殿の事は置いておくとしよう。別人……という可能性も、まだありはする」
「いえ、多分本人だと思います。状況証拠、揃い過ぎてるし……。と、ともかく話を進めましょう!」
「悪いな……。ではヘルフリート、何故アルケミストが神魔物を扱っている? ストマを回収出来た以上、何らかの関わりがあるのだろう?」


 難しい顔をしたヘルフリートは緩く首を横に振った。


「原理そのものは俺にも分かりません。ただ、神魔物を回収する為の、紙片――ページと呼ばれている物を手にしたとか。それの性能を試しているのではないでしょうか?」
「詳しい事は知らないのか?」
「ええ、まあ。師団はアロイス殿がいなくなってから質が落ちました。今や、しがない王属錬金術師の顎で使われている状態です。そんな師団の団長でもない俺が、この紙片で何をしたいのかなんて知るはずが無いでしょう」
「お前、俺がかつて師団にいた事を知っていたのか?」
「そうですね。時期が時期なら、俺達は先輩と後輩だったかもしれません」


 2人は時期のズレこそあれど、同じ師団に所属していたらしい。であれば、コゼットの誇るべき騎士団に所属していたという事になる。一介の野良錬金術師であるメイヴィスには想像も出来ない世界だ。
 その言葉に少し考える素振りを見せたアロイスは、騎士団については触れずにひらりと話題を転換した。


「お前は紙片――ページを使って、ストマを回収する為だけに、ここにいたのか?」
「ええ。俺は丁度、コゼット・ギルドにも所属していて近場でしたからね。ストマが大暴れするのを見届け、回収していては錬金術師殿に足が着いてしまうという事で」
「お前はベラベラと内情を喋っているが、良いのか?」
「良い訳がないでしょう、何を言っているんですか」
「それは俺の台詞なんだがな……」


 ヘルフリートはギルド業と騎士団を兼業している、という事になるのだろうか。ちなみに、ギルドは公僕との兼業が禁止されている。一部、互いの上司が話し合った結果受入れるという場合もありはするが、ヘルフリートがそれに当て嵌まるとは考え辛い。
 諸々の事情を鑑みた結果、メイヴィスは恐る恐る口を挟んだ。聞きたい事があったからだ。


「あの、ヘルフリートさん。どうして、師匠の言う事を聞いているんですか? 私、王城の事情とか知らないんですけど、錬金術師と騎士団って分野というか部門、部署が違いますよね。どう考えても」
「それは答えるのが難しい質問だな……。どちらの立場が上、という事は無いが空気感の話になる。決定付けられていない上下関係は簡単に覆るもので、現状においては出動の機会が無い騎士団より、王の望みを叶えられる錬金術師の方が重宝しているという事さ」
「そう、なんですか……。あと、今に限らず前からアロイスさんに突っかかってましたよね? あれは何だったんですか?」


 意外と強く当たられていたアロイス本人はというと、メイヴィスの言葉を聞いて目を丸くしている。何も言わないと思ったら、それが普通だと思っていたのか。彼らしいと言えば彼らしい。
 ああ、とヘルフリートはバツが悪そうに顔を伏せた。心当たりがあるのは明白だ。


「錬金術師殿とは別の用件で、前々からアロイス殿を暗殺する任務が課されていたんだ」
「暗殺!? え、いや、ちょ……暗殺って、殺害しようとしていたって事ですか!?」
「ああ、そうだな。闇に葬ろうとしていた」
「え、冗談――」
「ではないな。事故を装っても良かったし、普通に月の無い日を狙っても良かった。まあ、アロイス殿はあまりにも規格外過ぎて途中から諦めてはいたが……」


 ドキドキと心臓が早鐘を打つ。知らない所で護衛が暗殺されていたかもしれないのだ。冷静でいられるはずがない。
 救いを求めるように、なおもメイヴィスは言葉を重ねる。何か、納得出来る形の無い何かが欲しかったのだ。


「そ、そんな……。でも、アロイスさんと仲良くやってましたよね?」
「最初から、何故、元師団にいた仲間を暗殺しなければならないのかという疑問はあったんだ。それが刃を鈍らせたんだろうな。積極的に任務に着手出来なかったのは認める。とはいえ、急にヴァレンディア魔道国へ行くと言い出した時は肝を冷やしたが」
「ああ! だからあの時、執拗にアロイスさんについて聞いてきたんですね!!」
「永遠に任務達成の機会が無くなるかと思ってな……」


 自嘲気味に笑うヘルフリートを尻目に、驚愕の事実が発覚したアロイスの方へ視線を向ける。彼は一切変わらない佇まいでこちらの話に耳を傾けていた。怖々と騎士サマに声を掛けてみる。


「あの、アロイスさん、その……えぇっと、もしかしてヘルフリートさんに命を狙われている事に気付いていたんですか?」
「いや、全然……。そうか、俺はヘルフリートに暗殺されかかっていたのか」
「いや暢気! もっと慌てて下さいよ、吃驚しました!!」
「俺はギルドでヘルフリートに出会うまで、顔も名前も知らなかったんだぞ? 偶然居合わせた前職が同じ男から暗殺されそうになっていた、という推理は出来ない」
「確かに!」



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