アルケミストの恋愛事情
09.らしくない行動の裏
降参の意は見えたが、油断なく得物を構えたままのアロイス。あまり近づき過ぎると邪魔になると踏んだメイヴィスは、やや遠くから会話を見守る。
「メヴィ、それ以上はこちらに近付くな。コイツは何をするか分からない」
「もう何もしませんよ。降参してるでしょ」
「お前は森にいる魔物――ストマと関わりがあるな?」
本題に踏み込んだアロイスの言葉にヘルフリートが力無く頷く。
「ええ、まあ」
「ギルドのメンバーが奴に追われている。まずはあれをどうにか出来ないのか?」
「……はあ」
再度深い溜息を吐いた騎士は、不意に自身の懐を探った。唐突な動きにアロイスの緊張がピンと張り詰めるのが分かる。
ややあって、ヘルフリートが取り出したのは紙片だった。残念な事に現場にいながらも紙片を目にする機会に恵まれなかったメイヴィスは、まじまじとそれを見やる。アロイスの反応からして、あの紙片が例の紙なのだろう。
ノートなどに使われる紙片と同じくらいの大きさ。かなり古い紙のようで、かなり黄ばんでいるし虫食いも散見される。あまり乱暴に扱えば崩れてしまいそうだ。
その紙片には黒いインクで文字が書かれていたのだが、不意にそれが金色の輝きを放つ。魔法を撃つ為の術式を展開するような光だ。
ややあって、紙片の下部。空白だったそこに新たな文字が浮かび上がる。遠いので何が書かれているのかは分からないが。
「――さあ、ストマは回収しましたよ」
「質の悪い冗談じゃないだろうな?」
「しませんよ、そんな馬鹿らしい事。尤も、気になるのであればコゼットの森を散策したらいいんじゃないですかね。無駄ですけど」
なおも何か言いたそうな顔をしていたアロイスだったが、結局それを口にする事は無かった。代わりに、ヘルフリートから目を離さないままに指示を飛ばされる。
「すまん、メヴィ。ヘルフリートから紙片を回収してくれないか」
「あ、はい。了解です」
近付いて大丈夫なのだろうか。膝を突いているヘルフリートの横にはぴったりアロイスが着いている上、彼はまだしっかり得物を構えたままだ。あの距離であれば、ヘルフリートが不審な動きをした瞬間には止めに入れる――という訳だろうか。分からない。
出来るだけ身体を近付けないよう、ある程度の距離にまでヘルフリートに寄ったメイヴィスは腕を一杯まで伸ばす。アイテム・ボックスにはこういう時、どのくらいの間合いが必要なのかいまいち分からなかったからだ。
そんな様子を見ていたヘルフリートが苦笑し、手が届くように紙を差し出してきた。それを摘まむように受け取る。
「別に噛み付いたり、乱暴な事はしないつもりなんだけどな」
「ヒッ……!!」
「まあ、君は警戒心が強いくらいの方が良いのかもしれないな」
入手した紙片に刺激を与えないよう、触れる面積が少なくなるように摘まんで事態の進行を待つ。
一連の動きを見届けたアロイスが低く唸ってから、口を開いた。
「――それで。これはどういう状況だ? 端的に説明しろ」
「見た通りですが。ストマの回収を命令されたので、その紙片を携えてここにいた。それだけの事です」
売り言葉に買い言葉。2人の間には殺伐とした空気が流れている。だが、同時に珍しい光景でもないような気分になった。
例えばアロイス、ヘルフリートの両名と同時にクエストへ行った時。例えば、模擬戦をしていた時。稀にヘルフリートはアロイスに敵意のような、何とも言えない敵愾心のようなモノを見せる事があったからだ。
それを知っていれば、目の前の光景もその延長上にあるようなものに思えて仕方が無い。勿論、状況からしてそんな悠長な事態では無いのだろうが。
「命令? それは誰からの命令だ」
「……」
「聞いている事に答えろ」
「……はあ。アロイス殿はお会いした事があるかもしれませんね。オーウェン殿からの命令です」
「師匠!?」
驚きの声を上げたのはメイヴィスだ。オーウェンは同名という訳でなければ、実の師匠。この間――そう、少し前にコゼットの神魔物騒動で弟子を心配してギルドにまでわざわざ忠告をしに来てくれた。
――少し前。わざわざ。神魔物の事を。
状況証拠が揃いすぎている事態に、顔を青くする。考えもしなかったし、ヘルフリートの言う事を信じたくは無いが、言われてみれば師匠はらしくない行動を最近行っていた。
大声に驚いたのか、目を丸くしたヘルフリートが次の瞬間には暗い顔をする。
「師匠? いやだが、おかしな話じゃないか。オーウェン・ジュードは王属錬金術師。そんな彼がメイヴィスという優秀な弟子を持っているのは、何も辻褄が合わない事じゃないからな」
敢えてフルネームを教えてくれたのだろうが、それは単純に師匠がこの一件に関わっている事実を更に濃くしただけだった。
「メヴィ、それ以上はこちらに近付くな。コイツは何をするか分からない」
「もう何もしませんよ。降参してるでしょ」
「お前は森にいる魔物――ストマと関わりがあるな?」
本題に踏み込んだアロイスの言葉にヘルフリートが力無く頷く。
「ええ、まあ」
「ギルドのメンバーが奴に追われている。まずはあれをどうにか出来ないのか?」
「……はあ」
再度深い溜息を吐いた騎士は、不意に自身の懐を探った。唐突な動きにアロイスの緊張がピンと張り詰めるのが分かる。
ややあって、ヘルフリートが取り出したのは紙片だった。残念な事に現場にいながらも紙片を目にする機会に恵まれなかったメイヴィスは、まじまじとそれを見やる。アロイスの反応からして、あの紙片が例の紙なのだろう。
ノートなどに使われる紙片と同じくらいの大きさ。かなり古い紙のようで、かなり黄ばんでいるし虫食いも散見される。あまり乱暴に扱えば崩れてしまいそうだ。
その紙片には黒いインクで文字が書かれていたのだが、不意にそれが金色の輝きを放つ。魔法を撃つ為の術式を展開するような光だ。
ややあって、紙片の下部。空白だったそこに新たな文字が浮かび上がる。遠いので何が書かれているのかは分からないが。
「――さあ、ストマは回収しましたよ」
「質の悪い冗談じゃないだろうな?」
「しませんよ、そんな馬鹿らしい事。尤も、気になるのであればコゼットの森を散策したらいいんじゃないですかね。無駄ですけど」
なおも何か言いたそうな顔をしていたアロイスだったが、結局それを口にする事は無かった。代わりに、ヘルフリートから目を離さないままに指示を飛ばされる。
「すまん、メヴィ。ヘルフリートから紙片を回収してくれないか」
「あ、はい。了解です」
近付いて大丈夫なのだろうか。膝を突いているヘルフリートの横にはぴったりアロイスが着いている上、彼はまだしっかり得物を構えたままだ。あの距離であれば、ヘルフリートが不審な動きをした瞬間には止めに入れる――という訳だろうか。分からない。
出来るだけ身体を近付けないよう、ある程度の距離にまでヘルフリートに寄ったメイヴィスは腕を一杯まで伸ばす。アイテム・ボックスにはこういう時、どのくらいの間合いが必要なのかいまいち分からなかったからだ。
そんな様子を見ていたヘルフリートが苦笑し、手が届くように紙を差し出してきた。それを摘まむように受け取る。
「別に噛み付いたり、乱暴な事はしないつもりなんだけどな」
「ヒッ……!!」
「まあ、君は警戒心が強いくらいの方が良いのかもしれないな」
入手した紙片に刺激を与えないよう、触れる面積が少なくなるように摘まんで事態の進行を待つ。
一連の動きを見届けたアロイスが低く唸ってから、口を開いた。
「――それで。これはどういう状況だ? 端的に説明しろ」
「見た通りですが。ストマの回収を命令されたので、その紙片を携えてここにいた。それだけの事です」
売り言葉に買い言葉。2人の間には殺伐とした空気が流れている。だが、同時に珍しい光景でもないような気分になった。
例えばアロイス、ヘルフリートの両名と同時にクエストへ行った時。例えば、模擬戦をしていた時。稀にヘルフリートはアロイスに敵意のような、何とも言えない敵愾心のようなモノを見せる事があったからだ。
それを知っていれば、目の前の光景もその延長上にあるようなものに思えて仕方が無い。勿論、状況からしてそんな悠長な事態では無いのだろうが。
「命令? それは誰からの命令だ」
「……」
「聞いている事に答えろ」
「……はあ。アロイス殿はお会いした事があるかもしれませんね。オーウェン殿からの命令です」
「師匠!?」
驚きの声を上げたのはメイヴィスだ。オーウェンは同名という訳でなければ、実の師匠。この間――そう、少し前にコゼットの神魔物騒動で弟子を心配してギルドにまでわざわざ忠告をしに来てくれた。
――少し前。わざわざ。神魔物の事を。
状況証拠が揃いすぎている事態に、顔を青くする。考えもしなかったし、ヘルフリートの言う事を信じたくは無いが、言われてみれば師匠はらしくない行動を最近行っていた。
大声に驚いたのか、目を丸くしたヘルフリートが次の瞬間には暗い顔をする。
「師匠? いやだが、おかしな話じゃないか。オーウェン・ジュードは王属錬金術師。そんな彼がメイヴィスという優秀な弟子を持っているのは、何も辻褄が合わない事じゃないからな」
敢えてフルネームを教えてくれたのだろうが、それは単純に師匠がこの一件に関わっている事実を更に濃くしただけだった。
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