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アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

07.お礼参り

「メヴィ、今その板に何かが映ったぞ」
「えっ!? 全然見てませんでした」


 アロイスから急に声を掛けられたメイヴィスが驚いて板を手放す。それを地面に落ちる前にキャッチした騎士サマが自然な動作で板を持ち主の手の中へと返した。
 慌てて板に視線を移すも、それらしい者は映っていない。あれ、この鳥、制御が出来ないのは欠陥どころか不良品なのでは?


 見失った事に申し訳なさを覚えてオロオロしていると、少し考えたアロイスが指示を出してきた。


「あの鳥、呼び戻す事は出来るんだったな?」
「あ、はい」
「まず、鳥を手元に呼び戻してくれ。先程、何かが映っていた方向へもう一度飛ばせば、少しの間は映るかもしれない」
「流石はアロイスさん。私よりアイテムの使い方分かってるじゃないですか……」


 飛ばす方向であれば、持ち主が決められる。
 板を頭上で振り回すと、それ目掛けて疑似生命体の鳥が降りて来た。従順な伝書鳩のように、指定された場所に止まる。


「それで、えーと、どの辺に飛ばせば良いですか?」
「北……いや、この方角に飛ばしてくれ」


 ――あれ? 東西南北、把握していないと思われている……?
 大当たりなのだが、釈然としない気持ちでアロイスが指さした方へ鳥を飛ばす。今度こそ見落とすなどという失態を犯さない為にも、すぐさま視線を板へ戻した。
 そして気付く。木々で見えなくなる事も多々あるが、ここからそんなに離れていない地点の上空映像にばっちりフードを目深に被った人物がポツンと立っている。


「これっ! この人ですか、アロイスさん!」
「ああ。落ち着きが無いな」
「確かに。そわそわしてますね」


 フードの人物は苛々と組んでいる腕を組み替えたり、時折周囲を見回したりとじっとしていない。その場から動く様子は無いが、それにしても冷静では無いようだった。


「確保に行くぞ。イェオリ、お前達は早急に森から出ろ。また次、いつストマが出て来るか分からない」
「え、結局別れるつもりかい? それって救援に来た意味が無くなるのでは?」
「それもそうだが、もし紙片を回収出来た場合には離脱が簡単になる可能性が高い。全員で固まって長々と森を走り抜けるより、危険物を排除した方が良いだろう」
「そこまで言うのなら、騎士殿の指示に従うけれどね」


 イェオリとそのクエストメンバーがその場から素早く離脱する。それを見送ったメイヴィス達もまた、上空からの映像を指針に目的地へと歩き出した。


 ***


 歩く事十数分。ようやっと目的地に到着した。目算ではもっと早く着く予定だったのだが、運悪くストマに遭遇。またもアロイスに救出されるという紆余曲折を経由してしまい、時間が大幅に掛かった。
 しかし、ストマが自分達の前にいるという事はイェオリ側は無事とも言えるので一概に悪い事ばかりではないのだが。一回出現した後、かなり時間をおいて再出現するのがせめてもの救いか。気紛れで時間差が発生するのか、それとも一回攻撃を放ったら一時は動けない性質なのかは不明である。


「あれか……」


 不意に落ちたアロイスの独り言で我に返った。メイヴィスは彼が見ている方向と同じ方向を見やる。
 そこには上空から見た時と変わりの無い様子でフードの人物が何かを待つように苛々とした空気を放っていた。それを見ていた騎士サマが目を眇める。


「……十分に怪しい。怪しいが、この間の奴ではないな。前の時はもっと落ち着いた様子だった」
「そうなんですか? 私、会ってないからなあ……。この間の人の方が良かったんですか?」
「紙片を持っていれば何者でも構わないが、そうだな。出来ればこの間と同一人物が良かった」
「確実に紙片っていうの、持ってそうですもんね」
「いや。お礼参りだ」
「えっ」


 何だか優雅な騎士に似付かわしくない単語が聞こえてきたような気がする。そうっとアロイスの顔を見上げてみたが、眉間に皺を寄せている事以外はいつも通りの麗しい容だった。
 視線に気付いたアロイスと目が合う。茶目っ気たっぷりに微笑まれた。え? 何、冗談だったの?


「奴には滅茶苦茶されているからな。俺だってやり返したい気持ちになる時くらいある」
「アッ、冗談じゃ無いやつじゃないですか……!!」
「さて、どうやって捕まえたものかな。体格からして男性……」
「そうなんですか?」


 そう言われて見てみれば、確かにフードの人物は女性にしては線がしっかりしているように見える。尤も、アロイスが指摘しなければずっと性別不明のままフードの人物を眺める事になっていただろうが。
 それにしても、フードの人物はこちらに気付く様子が無い。あんなに周囲を見回しているのに、離れた所にいる人間には気付かないようだ。本当に落ち着きが無い。


「奇襲でも仕掛けるか?」
「全然ストマと関係無い普通の人だったらどうするんですか……!!」
「であれば、ストマに一度くらいは襲われていてもおかしくない。そして、無関係な人間であれば危険と容易に判断が付くであろう森に留まり続けるのはおかしな話だ。よって、奴はストマについて何か知っている可能性が高いな」
「すっごく理論的に説明された……!」


 少しだけ考える素振りを見せたアロイスは、普段使いの大剣ではなく懐から短剣を取り出した。よく磨かれていて、非常に切れ味が良さそうだ。これがサブの武器、というやつだろうか。
 手慣れた様子で短剣を弄んでいた彼が不意に動きを止める。短剣が手の中で収まりの良い位置に来たらしい。


「よし、やってみるとしようか。メヴィ、そこで少し待っていてくれ。何かあった時には大声を上げろ」
「りょ、了解です」



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