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アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

05.頼んでいた物

 ***


 用事が終わったギルドのメンバー達は散り散りにそれぞれの作業へと戻って行った。オーガストに集められて新しいクエストを言い渡された訳ではないので、この後の事は各々の自由だ。
 そもそもギルドと言うのはかなり融通が利く、自由過ぎる程に自由な場所。今までが少しおかしかったのだろう。


「……やる事が無いな」


 アロイスは小さく呟いて溜息を吐いた。
 やるべき事が無い、即ちやる事が無いという事実に直結する。メイヴィスはクエストの緊張から解放されたからか、真っ先に地下の工房へ降りて行ってしまった。やりたい事があるようで何よりだ。


 が、丁度良い所に用事が舞い込んできた。


「あ、おいアロイス。ナイスタイミング。ちょっとお前の事、捜してたんだ」
「シノか」


 メイヴィス地下工房の隣にある鍛冶屋の見習い、シノ。彼女が手を挙げながら近付いてきた。


「どうした? 俺に何か用事か」
「そうなんだよ。うちの師匠からのお遣いさ。暇なら、鍛冶場に寄って行ってくれ」
「ああ。今は手が空いている。エルトン殿の用事か?」
「そうだよ。お前すっかり忘れてるみたいだけど、ヴァレンディアにいた時壊した大剣。新しいの注文してただろ。それが出来上がったぞ」
「……ああ! そういえばそうだったな」


 行くぞ、と歩き出すシノ後を追う。
 彼女の師であり、腕利きの鍛冶士であるエルトンには勿論、大変世話になっているのだがそれとは別にシノ本人にもかなり世話になっている。何せ新しい得物が出来上がるまでの繋ぎである大剣――今使っている物を用意してくれたのは他でもないシノだ。


 特に話す事も無いので黙ってシノの背を追っていると、不意に彼女が口を開いた。


「あー、あのさ。駄目なら良いんだけど、今持ってるその剣。後学の為、私に譲って欲しいんだよね」
「この壊れかけの大剣をか?」
「そうそう。補強してから随分経ったけど、どのくらいすり切れてて――とか、まあ色々と見たい事があってさ。勿論、元々お前の物だし無理ならいいんだけど」


 今アロイスが所持している武器は最初から自分自身の物で、エルトンが補強拒否した物をシノが補強した。なので彼女の言う通り、この大剣は彼女とあまり関係の無い物と言えるだろう。
 単純に昔から使っていただけ。特別な物でもなければ、ずっと持っておかなければならない武器でもない。二つ返事でアロイスは頷いた。


「使うというのであれば譲ろう。だが、俺が長年使っていたからな。かなりガタが来ていると思うが……」
「ああ、そっちが都合良い。私はあまり戦闘に関して詳しい訳じゃないけど、お前が手練れなのは分かる。そんなアロイスが長年使ってた武器なら、普通は武器のどの部分が傷付きやすいのかとか、色々分かる事があるんだよ」
「なるほどな」


 やはり職人と言うのは目の付け所が武器を振るう側の人間とは違うらしい。ギルドにいると毎日新しい発見で一杯だ。


「ところでさ、アロイス。私が補強した大剣、どうだった? 途中でどっか折れたり、欠けたり、振り抜いた時に変な音がしたりしなかった?」
「しなかった。しかし、見ての通り俺に武器への拘りはほとんど無い。使用感については残念だが力にはなれないだろう」
「達人は道具を選ばない、ってやつね。まあ、あんまりにも口煩い奴も嫌いだけどさ。お前はもうちょっと良い武器使いなよ。腕も良いんだから」
「時間が無かったんだ、今までは」
「安心しなよ。師匠の武器はその辺の鍛冶士よりよっぽど使い心地が良いはずだから。恐らくお前でも武器の違いが分かるんじゃない? 知らんけど」
「それは頼もしいな。楽しみにしよう」


 話をしている内に地下の工房が並ぶ廊下まで歩を進めていた。換気が追い付かず、いつも熱気で火傷しそうな気温のここは、ロビーと違って作業音しか聞こえない。何かの工場と見紛う程だ。
 慣れた足取りで鍛冶場へ向かうシノが不意に足を止めた。


「あれ、メヴィだ。師匠に用事でもあったのかな」
「用事?」
「でも多分、アロイスの用事とは別件だろ。売買かな、マジック・アイテムの」
「エルトン殿もメヴィの使う素材を使用するのか?」
「するよ。師匠が嫌いなのは武器そのものを錬金する事であって、別に魔法アイテムではないし。最近は魔法武器の作製にもかなり積極的だよ」
「そうなのか」
「メヴィの提供してくれる素材でしか、良い魔法武器は作れないからね。いやあ、コゼットで職人やってて良かったよ。本当」


 そう言いながらもシノは工房主達の会話に割って入った。


「お話中すいません。師匠、アロイスを連れて来ましたけど」
「あれ、アロイスさんだ」


 ここで初めてこちらに気付いたメイヴィスは笑みを浮かべて片手を振って来た。最近では騎士相手にも慣れてきたからか、ああやって軽い挨拶を気兼ねなくしてくるようになったと思う。
 一方でシノから話を聞いエルトンは鷹揚に頷く。そして一言メイヴィスへ断りを入れた。


「すまん、一旦、アロイスに注文品を渡して良いか?」
「分かりました。待っておきます」


 重々しく立ち上がったエルトンが、工房の無骨な台の上に置いてあるそれを手に取る。丁寧に包装してあるが、形からして注文していた武器なのだろう。重そうだが、それを軽々と片手で持ち上げた彼はアロイスの前まで移動した。


「これだ。手入れ法は――教えんでも問題無いな?」
「ああ、問題無い。代金はどうなっているんだ?」
「すまんが、ギルドを通す事になってる。受付から用件を話して払ってくれ。分割でも一括でも構わないが――いや、金額の話は受付で聞いてくれ。メヴィを待たせている」
「ありがとう」


 受け取った得物は思っていた以上に軽かった。重量がかなり前の武器と変わったので、実戦へ持ち込む前に、少し鍛錬しよう。幸い、ここには鍛錬の相手に丁度良い者が多くいる。
 暇だったはずの日程にスケジュールを詰める。エルトンが戻って来るのを待っているメイヴィスに一言声を掛けた。


「メヴィ。俺は一時ギルドにいる。帰る時には声を掛けてくれ」
「え? 了解です!」


 こうして、クエストも何も受けていない平和な休日のような日は過ぎて行った。



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