アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

11.ナターリアの楽しみ

 ***


「あっはっは! 植物の分際でこのナターリア様に寄生しようだなんて笑止!!」
「ナタ……。何の路線目指してるの? 可愛い系は止めたの?」


 片っ端からプロバカティオの子等を踏み潰し、握り潰していくナターリアにメイヴィスは戦慄を覚えていた。そもそも、気性の荒い獣がベースとなっている彼女は熱が冷めるまではしっかりと暴れるタイプ。相手が植物であろうと関係は無い。
 この場にはまだ子等がたくさんいるので、奴等が全滅するか撤退するまでナターリアは暴れ続けるだろう。たくさん潰せると気持ち良いとか言っていたし。


 しかしここで足止めされている訳にもいかない。子等の姿は見受けられるが、肝心の親――本体がどこにもいないのだ。近くにいるのは確かなので、そろそろ居場所を特定したい。


「ナターリア、そろそろプロバカティオ本体を探しに行こう? いつまでもコレの相手してられないし」
「そうなんだけど、何か楽しくなってきちゃって!」
「楽しみ方が猟奇的すぎる。あとさ――」


 メイヴィスの言葉はしかし、友人の短い悲鳴に遮られた。


「いだっ!?」
「え、え? ど、どどどどうしたの!?」


 見れば、子等を潰していたナターリアの左手から鮮血がボタボタと地面に落ちていき、雨と混ざって流れて行く。何が起きたというのか。子等の中に寄生する以外で人を害する方法でもあったのだろうか。
 慌てて彼女のケガを診ようとしたが、それは他でもないナターリア自身の緩慢な「待て」の動きで封じられた。


「メヴィ、急に動かないで」
「え、な、なに?」
「これ……プロバカティオじゃなくて、ウタカタ、かも……。左手が」


 ――まるで破裂したみたいに裂けた。
 という言葉に息を呑む。だが、全く動かない訳にはいかない。何せここには子等が蠢いているのだ。止まれば寄生され、結局は死に至る事になる。
 どうするべきか、苦し紛れにゆっくりと周囲を見回す。そこで子等の件は一先ず解決した事を悟った。そもそも、歩くための部品ではない蔦を使って移動していたそれらは、移動の度に自身の身体を破裂させ、自滅していったからだ。何だか間抜けな構図だが助かった。


 次に問題となったのは、どうやってナターリアを治療するかだ。いや、もう治療云々ではなく何故かウタカタの範囲となってしまったこの場所からいち早く撤退する必要がある。
 というか、そもそも何故ここにウタカタがいるのか。先程までは何の変哲も無い、ただの雨だったそれが、どうして急に触れた物の硬度を書き換える死の雨へと変わったのだろうか。アロイスの話では件の神魔物は自力での移動が困難で、その場から大抵は動かないと聞いていたが――


「い、いや。取り敢えずナタをどうにかしないと……。まだ血は出てる? 止血だけでも、ここから離れる前にした方が良いかな?」
「出来ればある程度傷を塞いでから移動、したい、けど……。メヴィ、ゆっくり治癒魔法のマジック・アイテム使える? 無理そうなら、怪我人が増えるだけだからここから離れよう」
「大丈夫。多分。先に治療しよう? 後遺症とか残ったら困るし」


 慎重にローブの中を探る。回復アイテムはまさに生命線であり、最も使う可能性のあるアイテムだ。その治癒魔法アイテムと、結界アイテムだけは常日頃から切らさないようにしている。そしてそれは、現状においても変わらない。


 アイテムを駆使し、止血だけは行った。が、当然こんな大怪我、たかだか急場凌ぎのアイテムだけでは到底治せるはずもない。早急に病院へ行かなければならないだろう。


「ナターリア、これ、病院で診て貰わないとマズいと思う……。私は煙弾を上げた後、アロイスさん達と合流してこの辺にウタカタが居るかもしれない事を伝えるから、安心して街に戻ってね」
「メヴィ一人で行くの? 危ないと思うけどな」
「でも流石に現状を煙弾だけでアロイスさんに伝えるのは無理だし……。報告しないと、何の備えもしてない向こうの3人組まで大怪我しちゃうかも」
「それも、そう、かな……」


 ナターリアは渋い顔を崩さなかった。


「とにかく、ナタは街へ」
「うーん、分かった。あたしが居ても足手纏いになるだろうからね。何かあったら適当な煙弾を上げてくれれば駆け付けるから」
「いや上げないよ……。それじゃあ、行ってくるから」


 ひらりと手を振ってナターリアと別れ、彼女とは別方向へ歩みを始めた。

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