アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

02.ナターリアとの戯れ・下

「じゃあ、お喋りはお終いにして、そろそろ手合わせ始めよっか。実戦で通用するかどうか、見てあげるよ! ……前みたいにね!!」
「あの時はもっと人がいて、団体戦みたいになってたね。懐かしいなあ」


 言いながら、メイヴィスは早速新作製した武器を取り出す。サイズはロッド。メイヴィスの手から肘くらいまでの長さしかない、杖と言うには短すぎるマジック・アイテムだ。
 コンセプトとしてはいつでもどこでも魔法を乱発できる、なんちゃって魔道士キットである。杖の長さと魔力はぶっちゃけ関係性が無いので持ち運びがしやすいサイズにしてみた。
 ただし、当然の如く長物としての役割も果たせる杖と違い、このロッドで接近戦は絶対に無理だ。つまり、前衛ありきのアイテムという事になる。
 尤も、メイヴィスの戦闘技能で距離を詰められ、結界が突破された場合は死でしかないので杖の長さなど真実関係無いのだが。


 それを見てもナターリアは顔色一つ変えなかった。ただし、油断をしている様子は無い。これは彼女と自分の付き合いの長さ故だ。ナターリアのアホみたいな腕力をこちらは知っているし、あちらはメイヴィスの錬金技術を知っている。それはある種の信頼関係の延長に価するものなのだろう。
 出方をハッキリと窺うナターリアにメイヴィスの方から仕掛ける。相手の方が格上。初撃を受けてあげられる度量は自分には無い。


 スノードームのような飾りのついたロッドを一度振るう。
 組み込んでいるのはメイヴィス自身が一人で戦える為の術式であり、即ち超広範囲魔法である。討ち損じは即ち死に直結する。結界などあって無いようなものだ。であれば、初動で相手を沈める他ない。
 雪原でも作らんばかりに凄まじい音を立てて扇状に氷塊が突き出す。


「わあ! 凄いねこの魔法! あたしじゃなかったら氷付けで人生が終わってるよっ!」
「これ模擬戦で使って良い武器じゃないかもしれないなって、今使って私も思ったよ」
「メヴィったら! 何かあたしに恨みでもあったのかなっ!!」


 米神からピキピキと音が聞こえて来そうなナターリアの言葉に心中で謝罪する。そんな彼女の声こそ聞こえるが、自分で作った雪原と氷塊のせいで姿が見えない。このロッドには当然ながら改良の余地がありそうだ。
 程なくして、逆氷柱のように突き出していた氷塊の、比較的平らな足場にナターリアがぴょこんと飛び乗った。足場が悪いだろうに、それを感じさせない軽やかさだ。何というバランス感覚。


 高い場所からギルド裏の惨状を見回したナターリアは首を傾げる。それは本当に何かを疑問に思うような顔だった。


「大規模な術式だね。こんなもの、一度使ったら疲れちゃうんじゃないかな? メヴィもあたしも、あまり魔力量が多い訳ではないのに。初手を外したら死亡する、自爆スイッチ系武器なのかな?」
「と、思うじゃん?」
「――……!」


 もう一度ロッドを振るったのを見て、直感したのか、ナターリアは慌てた様子で足場から下へ飛び降りた。
 再び発動した全く同じ魔法が、景色を更に歪なものへと塗り替える。


「何と! 無制限に撃てる様に改良しました!!」
「マジか」


 逆氷柱の隙間から顔を覗かせたナターリアが呆れたような顔をしたのが見えた。


「才能の無駄遣いって言うかさ、マジ国宝レベルじゃんメヴィ。戦わなくていいよ。素材集めて貰って、武器とかマジック・アイテムを作るだけで生計立てられるよ。もっとこう、アルケミスト感を前面に押し出して行こっ?」
「それで生計を立てられなかったから、あの怪しいスポンサー様にお金出して貰ってるんだけどなあ……」
「そういえばそうだった。……何か、これは流石にあたしでも手の打ちようが無いなあ。もっと広い場所なら遠くから次の魔法まで猛ダッシュで跳び蹴り、とかお見舞いするんだけど……」
「え、そういう攻略法あるの? こわ……」
「あるよ。魔法連発してくるのは厄介だけど、もっとこう、自然的なフィールドだったら勝てない訳じゃない。まあ、魔法が当たった時点で獣人は負け確だから、賭けの世界にはなっちゃうけれど」
「障害物とかあれば、魔法を避けてカウンターパンチ出来るって事ね。ふむふむ」
「そうだね。木が1本でもあれば。魔法は術者を中心に、基本的には近くから遠くに行くにつれて威力が拡散して弱くなるんだよ。だからちょっと離れた木の陰に隠れたりすれば、魔法の直撃を避ける事が出来る。近すぎたら木ごとカッチコチだろうけれどね」
「ここ、平面だしね」
「そういう訳だから、ここではちょっと、あたしでは勝てないなあ」
「そっか、分かった。今度は外でやろう」
「うんうん! コテンパンにしてあげるねっ!!」


 自ら敗北宣言をしたと記憶しているが、メイヴィスに負けたという事実は少なからずナターリアの怒りに触れたようだ。



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