アルケミストの恋愛事情
12.アロイスの伝言
***
メイヴィスが地下の工房にいると聞いたアロイスは早足にそこへ向かっていた。帰ってすぐ、クエストの報告もせずに工房籠りするあたり何か大事な研究でもしているのかもしれないが、伝言を抱えたままというのも問題だ。
オーウェンと名乗った彼は急ぎでは無さそうだったが、メイヴィスの方が彼に会う用事があるかもしれない。
――だが本当に急いで伝える事か? 待ってやれば良かったのではないか?
オーウェンからの伝言を教えるのが本当の目的なのだろうか。それとも、実は伝言なんてどうでも良くて放置してしまった彼女がどう過ごしていたのかをそれとなく知りたいだけではないのか。
一瞬だけそう考えて、まさかと首を振る。後者であった場合、彼女の予定を顧みないとんだ迷惑行為である。
工房のドアをノックして、誰も出て来なかったら今日は諦めよう。
そう決意を固め、工房のドアを大きすぎず小さすぎない音で叩く。これに気付かないくらい作業に没頭しているのならば、邪魔してやりたくないからだ。
しかし、アロイスの意に反して返事はすぐにあった。
「はいはーい、ナタ? 何かあったの?」
「メヴィ、ナターリアではなくアロイスだ」
「エッ」
ドアの向こう側でノロノロと移動しているのが手に取るように分かっていたが、名乗った瞬間、彼女は慌てたようにドアへ向かって走って来た。完全に態度が友人にするそれだったが、微笑ましかったのでよしとする。
「どっ、どうしました、アロイスさん……!? え、というかいつの間に帰って来たんですか?」
「お前達が緊急クエストに駆り出された後、すぐに帰還した」
「えー、じゃあもう少し待っておけば良かったな……」
「メヴィ、お前に伝言があるんだが、今少し時間良いか?」
「あっはい、丁度今は空いてます」
そう言うとあっさり希代の錬金術師は工房へ無骨な戦闘民族を引き入れた。
中の様子をまじまじと観察する。
今まさに錬金術に精を出していたのだろう。周囲には道具が出したままの状態で放置されており、お世辞にも片付いているとは言い難い状態だ。更に錬金釜と呼ぶらしいその釜には謎の液体が満たされており、まるでゆっくりと沸騰しているかのように気泡が時折上がって行くのが見える。
更に、卓上にはメイヴィスが常日頃から着用している烏のローブが置かれていた。その周辺の散らかり様が凄い。
視線に気付いたのか、メイヴィスが慌てたように卓上の状態について説明を始める。断じて言うが特に気にもしていないし、汚いと指摘をした訳でも無い。
「あ、違うんです違うんです! これは散らかしている訳じゃなくて、持ち物が増えて来たので整理を……!!」
「そうか。幾らでも道具が入るローブというのも、手入れが大変だな」
「そうなんですよ。何でも幾らでも入るからって適当にしていると、巨大なゴミ箱みたいになっちゃって。空き時間を使って整理をしていたんです」
「便利過ぎるのも問題を引き起こすのか……」
ゴチャゴチャしている卓上に布を掛けて雑に覆い隠したメイヴィスが話題を変えるかのように首を傾げる。
「あ、それでアロイスさんの用事って何でしょうか?」
「それなんだが、お前の師を名乗る男――オーウェンという者が訪ねて来た。知っている人物か?」
「ああ、お師匠様ですね。用事って何だったんだろう。何か聞いてませんか?」
「いや、また来ると言って帰ってしまったようだ」
「また来る? ふぅん、珍しいなあ……。出不精のくせに」
少しばかり困惑した顔のメイヴィスだったが、次の瞬間にはその話題から頭を切り替えたようだった。
「そうだ、アロイスさん。私、新しい杖を作っているんです!」
「武器を? 何か面白い事でも思い付いたのかと思っていたが……」
「武器の発明も発明は発明です。今度から私も参戦出来るように頑張りますね!」
「いや……」
――そういうのはこちらに任せて欲しい、という言葉はメイヴィスの満ち足りた笑顔を前に残酷過ぎて口に出来なかった。
メイヴィスが地下の工房にいると聞いたアロイスは早足にそこへ向かっていた。帰ってすぐ、クエストの報告もせずに工房籠りするあたり何か大事な研究でもしているのかもしれないが、伝言を抱えたままというのも問題だ。
オーウェンと名乗った彼は急ぎでは無さそうだったが、メイヴィスの方が彼に会う用事があるかもしれない。
――だが本当に急いで伝える事か? 待ってやれば良かったのではないか?
オーウェンからの伝言を教えるのが本当の目的なのだろうか。それとも、実は伝言なんてどうでも良くて放置してしまった彼女がどう過ごしていたのかをそれとなく知りたいだけではないのか。
一瞬だけそう考えて、まさかと首を振る。後者であった場合、彼女の予定を顧みないとんだ迷惑行為である。
工房のドアをノックして、誰も出て来なかったら今日は諦めよう。
そう決意を固め、工房のドアを大きすぎず小さすぎない音で叩く。これに気付かないくらい作業に没頭しているのならば、邪魔してやりたくないからだ。
しかし、アロイスの意に反して返事はすぐにあった。
「はいはーい、ナタ? 何かあったの?」
「メヴィ、ナターリアではなくアロイスだ」
「エッ」
ドアの向こう側でノロノロと移動しているのが手に取るように分かっていたが、名乗った瞬間、彼女は慌てたようにドアへ向かって走って来た。完全に態度が友人にするそれだったが、微笑ましかったのでよしとする。
「どっ、どうしました、アロイスさん……!? え、というかいつの間に帰って来たんですか?」
「お前達が緊急クエストに駆り出された後、すぐに帰還した」
「えー、じゃあもう少し待っておけば良かったな……」
「メヴィ、お前に伝言があるんだが、今少し時間良いか?」
「あっはい、丁度今は空いてます」
そう言うとあっさり希代の錬金術師は工房へ無骨な戦闘民族を引き入れた。
中の様子をまじまじと観察する。
今まさに錬金術に精を出していたのだろう。周囲には道具が出したままの状態で放置されており、お世辞にも片付いているとは言い難い状態だ。更に錬金釜と呼ぶらしいその釜には謎の液体が満たされており、まるでゆっくりと沸騰しているかのように気泡が時折上がって行くのが見える。
更に、卓上にはメイヴィスが常日頃から着用している烏のローブが置かれていた。その周辺の散らかり様が凄い。
視線に気付いたのか、メイヴィスが慌てたように卓上の状態について説明を始める。断じて言うが特に気にもしていないし、汚いと指摘をした訳でも無い。
「あ、違うんです違うんです! これは散らかしている訳じゃなくて、持ち物が増えて来たので整理を……!!」
「そうか。幾らでも道具が入るローブというのも、手入れが大変だな」
「そうなんですよ。何でも幾らでも入るからって適当にしていると、巨大なゴミ箱みたいになっちゃって。空き時間を使って整理をしていたんです」
「便利過ぎるのも問題を引き起こすのか……」
ゴチャゴチャしている卓上に布を掛けて雑に覆い隠したメイヴィスが話題を変えるかのように首を傾げる。
「あ、それでアロイスさんの用事って何でしょうか?」
「それなんだが、お前の師を名乗る男――オーウェンという者が訪ねて来た。知っている人物か?」
「ああ、お師匠様ですね。用事って何だったんだろう。何か聞いてませんか?」
「いや、また来ると言って帰ってしまったようだ」
「また来る? ふぅん、珍しいなあ……。出不精のくせに」
少しばかり困惑した顔のメイヴィスだったが、次の瞬間にはその話題から頭を切り替えたようだった。
「そうだ、アロイスさん。私、新しい杖を作っているんです!」
「武器を? 何か面白い事でも思い付いたのかと思っていたが……」
「武器の発明も発明は発明です。今度から私も参戦出来るように頑張りますね!」
「いや……」
――そういうのはこちらに任せて欲しい、という言葉はメイヴィスの満ち足りた笑顔を前に残酷過ぎて口に出来なかった。
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